2019.12.7

1、ユニクロ ベトナム1号店が12月ホーチミン市で開業

 日本の有力な衣料品の販売を展開するユニクロが126日ホーチミン市1区レタントン通りとドンコイ通りの角にある「パークソン・サイゴンツーリスト・プラザ」に開業しました。この店舗は東アジア最大級の店舗となり、店舗の総面積は3000㎡、地上1~3階の3フロアでレディース、メンズ、キッズなどあらゆる商品を取り扱っています。

 オープン初日の開店時間は930分でしたが、開店前の午前8時には多くのお客さんが列を成していたことがネットに出ていました。開業式典ではファーストリテイリングの柳井社長が、「この数年の急速な発展により、ホーチミン市は東南アジアにおける最大の消費の中心地になるだろう」と述べたと地元の新聞は伝えています。この式典には、柳井社長をはじめ、ベトナムを代表する有名女優、有名サッカー選手なども参加し、盛大に開催されたことを伝えていました。

 ホーチミン市では2014年イオン・タンフーセラドン店がオープンし、2016年にはベトナム高島屋がオープンしました。そしてユニクロが201912年にオープンをしました。政治の中心はハノイですが、経済の中心はホーチミンとベトナムは、それぞれの大都市が異なった発展の顔を見せています。

 

2、ユニクロがベトナムに進出するコンセプトとその背景

 ユニクロがベトナムに進出するのは、東南アジアの中で潜在性の高い成長市場であることを想定しているからです。ユニクロは記者会見で、「Life Wearをコンセプトとするサステナブルファッションの開発に取り組み、多くの人に日常着としてのLife Wearを提供したい」と語りました。英単語が並んでいるので、そこから簡単に見ていくとLife Wearとは単に生活の衣料品、日常利用する普段着の衣料品ということでしょう。サステナブルとはなんなのでしょうか?最近この言葉を使う人が増えています。単純に翻訳すると「持続可能な」という意味になります。最近盛んに使われる言葉ですが、人間・社会・地球環境の持続可能な発展を意味しています。特に環境破壊をせずに維持継続できるための対策を意味しています。ユニクロもやはり地球環境に対する姿勢をメッセージとして伝えようとしているのでしょう。

 これは前回、地球環境問題を取り上げたのですが、グローバルに展開する企業は地球環境に対応する感度が必要になっていることを表しているのだろうと思います。しかしながら、今回のテーマは地球環境のことではありません。地元記者の取材に応じてファーストリテイリング執行役員の勝田幸宏氏が語ったもう一つのことをテーマにします。そのこととは、ベトナム一号店の出店を計画してから、2年を要してしまったことの理由を伝えています。その理由として挙げられているのは、ベトナムの地価が非常に高くなっていることが要因であると述べています。

不動産調査のコリアーズ・インターナショナル・ベトナム社によると第2四半期におけるホーチミン市1区の商業施設Vincomドンコイ通り店の賃料は、1㎡あたり102USD(日本円では11,080円程度)となっており、ホーチミン市中心部の賃料は軒並み急上昇をしています。日本人には一般的な坪で計算すると以下の通りになります。1坪=3.30579㎡になりますから、ベトナム中心部の商業施設の月の賃料は、136,600円程度になるということです。100坪借りたら月額366万円の賃料ということになります。ユニクロの総面積が3000㎡と伝えられていますので、単純に計算すると月の家賃が3,324万円となります。それよりは低いと思われますが驚きの金額です。

 

3、不動産使用権所有者の思惑 不動産賃貸の現場から

このような話から入ると多くの人は、ベトナム(ホーチミン市)発展と明るい未来を想像するでしょう。しかし急激な発展は思わぬ弊害を生むこともあります。不動産事業も私の会社の業務なのですが、ホーチミン市の中心部で開業している日系のレストラン経営者がつらい思いをしている実態があります。

 ベトナムでは家賃を支払って大家さんから不動産物件を借ります。3年から5年程度の契約期間でレストラン物件を借ります。内装工事にはそれなりの費用を支払ってオープンします。人気店になるケースもありますが、必ずしもうまくいかないのはどこでも同じです。うまくいかない店は早めに契約を終了しますが、預託金(デポジット)として家賃の6か月分も前払いしているケースも多く、借主は開業時にかなりのお金を使っています。短期解約するとその金額が没収されることになります。

 ところで大きな悲劇は契約の更新時にやってきます。日本レストランが多い界隈などは人気が高く、家賃相場が徐々に上がっています。そのため契約更新時に極端な場合は、2倍近い家賃の増額を伝えられることもあります。それに応じられなかったら契約更新をしないと言われることがあります。また、大家さんの方で今の借主は高い家賃を払えないだろうと判断をすると、契約更新の前から新しい借主を探そうとすることもあります。そのような事態になると人気店であっても撤退を余儀なくされることになります。私もよく利用していたレストランが何件かこのような賃料のアップで撤退をしてしまいました。おいしかった店がなくなるのはさみしいものです。それ以上にレストランの経営者は苦渋の決断だったでしょう。

 ホーチミン市の不動産は軍が持っていた不動産が多いです。ベトナムは戦争をしていました。南と北に国がわかれていた時期があります。戦争が終わって南の土地の中心部は軍が管理するようになりました。戦争当時貢献した人たちが使用権をいただくことになったものもありました。ベトナム戦争が終わってから20年位は経済成長も停滞していましたが、2000年を過ぎて外国投資が集まるようになると、大都市部の中心地にある不動産は高騰するようになりました。そのため大家さんが家賃を大幅に上げることができるようになりました。不動産を持っていればお金が入ってくることを実感したベトナム人は、不動産投資に高い関心を持っています。どんどんできる分譲マンションの販売が始まるとすぐに完売するような状況が続いています。このことからもベトナムは経済成長しているとみられています。ただ、私には行き過ぎた不動産価格の高騰はバブル経済の発生など将来問題を生むと思います。

 

4、外国人も可能になったベトナム不動産投資

 2015年にベトナム住宅法が改正されて、ベトナムに入国できる外国人が開発された不動産物件(分譲マンションなど)を購入できるようになりました。ベトナムの経済が着実の成長していることから、今後不動産が高騰することを見込んで購入する方がたくさんいます。しかし、そこは外国です。日本と違い仕組みや取り決めがありますから、そのことを熟知しておく必要があります。おいしい話ばかりを信じて購入すると失敗をするケースもたくさんあります。

 まずは購入時のリスクを見ていきましょう。ベトナムのマンション建設はプレビルドの状態で販売を開始します。プレビルドとは計画段階で販売を開始して、お金を集めながら建設を進める方法です。そのため一部事業者では建設が途中で止まることがあります。もし途中で止まった時には、投資ですので支払ったお金が返ってこないことになります。現実そのようなケースは少ないですが、ないとは断言できないので注意が必要です。

 ベトナムでは土地の所有権は誰も持っていません。持つことができるのは使用権です。ベトナムの土地法で「土地は人民のもの」と規定されていますが、人民全体の財産ですので、国が管理をしているのです。国が管理している土地の使用権を買うのです。建物には所有権があります。その建物の所有権はピンクブックという公的証書で所有が証明がされますが、今現在ピンクブックが外国人に発行されたという情報はほとんどありません。

 また、日本ほど建築技術が進んでいないことや丁寧な測量をしていないこともあり、欠陥が見つかることもあります。このような場合、日本では瑕疵担保責任が問えるのですが、英語とベトナム語だけの契約書を確認せざるを得ない外国人には、重要な個所を見落とすこともあると同時に、ベトナムでの裁判で勝訴することも難しいと思います。

 特に問題になるのは、家賃収入や転売した資金を日本に持って帰る方法があまりないことです。将来的にはベトナムでしかるべき納税をすることで海外送金できるようになるだろうとの話もありますが、今のところ明確に決まってはおりません。

 いずれにせよ現地の事情や制度を理解していないことによる失敗が数多くあります。確かにベトナムは経済発展が始まっている国であり、将来不動産価格が上昇する余地は多分にあるとは思いますが、事情を理解しないで投資することのリスクはたくさんあります。

 

5、人の思い込みとそれに反する実態の出現

 ベトナムの不動産価格は明確な資料を発見できませんが、当時からベトナムに来ていた人の話によると、20年前はおそらく今の価格の20分の一程度だったのではと思います。たとえば先日殺害された日本人医師の中村哲さんが活動をしていたアフガニスタンの土地はかなり安いと思います。ところが経済発展が顕在化したベトナムでは、ベトナム人、外国人ともに不動産は値上がりすると思うようになりました。実際、大都市部の価格は高騰しています。そして多くの人々がベトナムの大都市はこれからも土地が高騰すると考えています。

 マンションの新築の計画はたくさんありますが、一時期に比べて販売価格がかなり高騰しています。購入者のほとんどは、そのマンションを自分で住む目的で購入してはいません。外国人駐在員に賃貸で貸してインカムゲインを得るか、あるいは転売してキャピタルゲインを得るかが目的です。ところが現実は、賃貸価格は以前の価格に比べて相当下がり始めています。以前12万円程度で貸していた物件でも、9万円程度に下がってきています。また、転売して儲けようと考えている人がいますが、家賃が下がっているのに、以前より高くなった物件をより高い金額で買うと考える人は少なくなりつつあります。

 家賃相場が下がっている原因は供給過剰です。たくさんの賃貸物件が出てきているので、借りる人よりも貸す部屋が多くなりすぎたからです。不動産には投資利回りという数値があります。年間家賃収入÷物件取得価格で算出される指標ですが、その物件に投下したお金を何年で回収できるかを表しています。不動産の購入価格は上がっていても家賃収入は相当下がっている中で投資利回りは相当低下しているはずです。

 しかし、そのような実態が見えない人たちは、ここのところの不動産の高騰はこれからも続くと考える人たちが後を絶ちません。多くの人たちは不動産を持っていれば今後も上がり続けると考えています。ただ、その土地の価格を超えて収益を得られなくなってくると、そのうちにこれ以上収益が上げられないと気が付く人は出てくるでしょう。このような現象は不動産価格の高騰のトレンドから変化する分岐点となり得ると感じています。

6、日本の今後の不動産事情

 日本では不動産投資への関心は今でも高いと言えるでしょう。その理由の一つに超低金利政策があります。超低金利の中で金融機関は、何に融資をすればいいか悩んでいます。比較的安全と思われているのが不動産投資への融資です。なぜならは回収できなくなった時に不動産という担保が確保できますから、金融機関にとっては比較的安全な融資になります。日銀が継続している政策は量的緩和政策を取っています。具体的には日銀が国債や株、REIT,投資信託などを買い取ることで市場にお金を投入しています。市場にお金を投入して、世の中にお金が出回るようにしているのが量的緩和の目的です。銀行は国債で安定的な収益を確保することができなくなりました。そのために比較的大きな金額が必要になる不動産投資に関心を持ってもらおうとしている傾向があります。

 お金が市中に出回るようにしているし、超低金利でお金を借りたほうが得をしそうな状況にありますが、大都市部を除いて積極的な不動産投資はありません。日本の大手デベロッパーも地方都市ではなく、海外で投資をしようとしています。日本の地方都市で不動産投資をすることは少なくなってきました。地方都市では明らかに空室率が増えています。空室率は増えているのは、やはり人口の減少が大きな理由でしょう。また、不動産を買おうと言う需要も減っていると思います。借り手がつかない以上、購入することはないです。

7、土地とは何か?

ベトナムでは土地は国有です。「土地はベトナム人民の財産」という概念で、国家の所有です。国家はその使用権を個人や団体に与えています。ベトナムでは不動産の使用権を持つ人と建物の所有権を持つ人が異なることもあります。ただこのような考えは、社会主義だからというわけではなく、昔の日本では土地は天皇のものである、あるいは土地は封建領主のものであると考えるのが一般的でした。農民はその土地を与えられて年貢という名目の税金を支払っていました。それまでは田畑は永代売買の禁止をうたっており、他人に土地を売買することもありませんでした。しかし地券を発行した後は、その売買が行われ資本主義的な取引が行われるようになりました。

 その大きな変化を生んだのが明治政府が行った「地租改正」です。明治政府は土地の私有を認めることとセットで、地租という税を取るようになりました。土地所有者には地券を発行し、地主階級には一定の政治権力を与えるようになりました。そのことが今日、土地が金融資産になるきっかけを与えました。従来は土地は生産物を作る場所、あるいは住む・生活する場所のことを指していましたが、徐々に金融資産としての意味を持つようになりました。

 土地(不動産)の売買で大きな利益を得るという極めて資本主義的な取引が、名目社会主義国のベトナムで盛んにおこなわれるようになっていることは皮肉に思います。逆に日本やヨーロッパの地方都市は、土地は生活したり住むためのものであり、愛着のある空間として認知されているように思います。ヨーロッパの住まいは、100年たっても住むことができるような石を積み上げた住居も多くあります。日本は木造ですから、30年もすれば建て替えが必要になるかもしれません。その点では土地の方が大事と考えられると思います。しかし、ヨーロッパでは建物の方が大切と考える人は多いようです。建物は生活と密着しています。ヨーロッパ人は観光地でも古い建物の方により強い関心を持っているように感じます。

 少子化が進む日本のことを考えると、将来は不動産が金融財産となった今の経済から、不動産は生活の場、生きていく空間に代わっていくのではないかと思います。人にとってはその方が幸せではないかと感じています。不動産を持てば金持ちになって幸せになれると考えるベトナムの人たちはたくさんいます。その喧騒を目の当たりにして、日本の田舎を離れずに生活している人を比べるとどちらが幸せなのかを考えてしまいます。仕事をする場所、生活する場所が自分の人生を作っていきます。不労所得で楽な生活をするよりは、多少波乱万丈であっても実業を持ちながら生きていく方が楽しいのではとも思います。土地の価格は単にその時の政治や経済の事情で変わるだけにすぎません。お金を持っていない貧乏人のたわごとでしょうが、私にはそれでいいと自分を慰めています。

以上