今年の年末年始も日本に帰れなかったのですが、ベトナムに訪ねてくれる人もあり、さびしい思いはほとんどありませんでした。今年も突然の連絡があり、生保勤務時代に桐生で私の部下として働いてくれて、その後税理士として独立している後輩が遊びに来てくれました。彼と楽しく語らうことでそれぞれ会社を退職して、自分で生きている立場が似ているもの同士の共感を持って話ができた楽しいひと時でした。

ところでベトナムにいても日本の話題がたくさんあります。年末には「シンゴジラ」が劇場公開されると出ていましたが、1月にはいると新海誠監督の「君の名は」がベトナム語字幕で劇場公開されると書いてありました。本編が日本語だったら私も見られるかもしれません。

それ以外にも最近クボタのCMがベトナム(ホーチミン市)で撮影されたと聞きました。長沢まさみを使って、「シンカモン・クボタ(クボタ、心からありがとう)」とベトナム人が声をかけるCMです。クボタってどの日本人だと長沢が怪訝に思っていたら、トラクターのクボタのことだったというCMです。このCMをユーチューブで見ましたが、ローカル色満載のベトナムです。ホーチミン市周辺部のホックモン地区で撮影されたようです。ホーチミン市の中心はもう大都市の顔になってきていますが、周辺部はまだローカル色です。農業国ベトナムには、日本の農業機械がまだまだ必要です。大都市の一部だけは近代化していますが、周辺部はまだ貧しさが残っています。

大和ハウスのCMもベトナムを題材にしたユニークなCMでしたが、日本とベトナムがだんだん近くなってきているのを感じます。大和ハウスは、最初に総合商社の双日と工業団地を造成しました。今後は住宅建設にも進出するように聞いています。その他の企業も目白押しにベトナムに進出しようとしています。

もうちょっと検索してみると大成建設のCM「地図に残る仕事」が秀逸でした。トルコの海底トンネル、スリランカの高速道路、カタールの新ドーハ空港とベトナム・ハノイのノイバイ空港建設を題材にしたCMです。今評判の新海誠監督が製作し、そのアニメが人気のCMのようです。アニメの質の良さはさすがです。ここにもベトナムが登場していました。工務店を経営する父親を振り払って、建設会社に入社して、ベトナムで空港建設を指揮しているのですが、そこで父の偉大さを感じるCMです。

ベトナムを題材にした日本企業のCMの話をしましたが、こちらの日本企業がベトナム人向けに出しているTVCMもたくさんあります。トヨタ、ホンダ、ヤマハから、花王、ロート、サントリー、サッポロ、味の素など多くの企業がベトナムでベトナム人向けのCMを作っています。CM以外の話題ですが、昨年7月末には、高島屋ホーチミン店が開業しました。いつも30度を超える熱帯にスケートリンクがオープンしました。さすがにデパートは人の出入りがあるので、氷が若干とけながらも、多くの人が滑っています。オープン当初は、ベトナム人の子供たちが転んでばかりいましたが、最近は転ぶ子供も少なくなっているようです。

ベトナム政府も、外資にベトナム市場を開放するため、2015年から投資法、企業法、不動産事業法、住宅法を改正して、外資が投資しやすい環境を整備しています。そのため日本企業もこぞってベトナムに進出するようになって来ました。ベトナムで今年の経済の方向性を考えたときに、ベトナムの方向性とその他の先進国の方向性が大きく異なっていることを強く感じました。昨年のこの時期は旧正月の日本帰国の際に行うセミナーの準備をしていました。今年も準備をしたのですが、話の内容を一年前と大きく変える必要性を感じて、ほとんど書き直しが必要なことを感じました。

昨年作成したパワーポイントの資料はには、日本がベトナムを選ぶ理由として、アセアン経済共同体の発足とTPPの加盟をテーマにあげました。アセアン経済共同体は2015年12月31日の大晦日に発足し、アセアン10カ国が関税などを引き下げ、人、モノ、カネの流れを自由にしようと言うものです。そのため資源が足りなくても、労働力が足りなくてもアセアンのほかの国から調達しやすくなるのです。そのため日本にとって、アセアンは中国以上の大事な関係先になると考えました。

また、TPPにはアメリカ、日本をはじめ環太平洋諸国が加盟しますが、ベトナムも加盟をすることから、労働賃金の安いベトナムは、アパレルなどの産業の生産基地になることを想定していました。アセアン経済共同体はともかくとして、TPPは実現がほとんど期待できなくなりました。その理由は、アメリカの大統領がオバマさんからトランプさんに替わるからです。グローバル化と貿易の自由化が世界を替える力になり、アジアは変化の中心になると昨年はそう思っていました。

ところがトランプ氏の主張は逆の方向性を持っています。トランプ氏の主張は、アメリカの利益を守ることを第一義と考え、外からの移民の流入を抑える、またアメリカの企業が海外に出ないようにすることです。それを強権的な手法で実現しようとしています。そのような政策は、自分の国の利益を守るためには、国民に理解されやすい政策に見える可能性があります。トランプ氏の政策は、保護主義的といわれる政策です。この保護主義のメリット、デメリットを今回は丁寧に考えてみようと思いました。保護貿易の反対は自由貿易です。保護貿易、自由貿易を単純にメリット、デメリットを表すと以下のようになるでしょうか。

  •  自由貿易
    (メリット)
    ・海外から必要なものを手に入れることが出来る
    ・安いものを輸入できる
    ・活発な貿易が行われる

(デメリット)
・国内産業が圧迫される
・食料自給率が低下する恐れがある
・何らかの事態が起きたときに、輸入が止まる恐れがある

  •  保護主義
    (メリット)
    ・国内の農林水産業を保護できる
    ・国内での生産を保護できる
    ・内需拡大につながる

(デメリット)
・国際社会からの批判がある
・外需の低下
・自国に無いものを輸入しにくい

自由貿易、保護貿易にはそれぞれ良い点、悪い点はあるのですが、わかりやすい論点を提供します。自由貿易は自由な経済活動は生産の効率を上げる、それに対して保護貿易は、自由な経済活動を抑制するので、競争相手が減少し、生産効率は低下、改善向上の遅れにつながります。そのため長期的に見ると長く保護主義を採っていた国は、国際競争力が低下すると思います。

経済が混迷したり、混乱したりする場合、大衆の支持を得るために保護主義に走りやすい傾向があります。それは自国民にアピールする政治の論理によります。雇用の確保や産業の保護を国民にアピールするためには、とりあえず納得を得やすい方法かもしれません。不況で国内産業が不振なとき、海外から低価格の商品が入ってくるとその不振がさらに大きくなります。そのため海外からの輸入には高い関税をかけて、国内産業を守ろうとする国が増えるのです。自由貿易でなく保護貿易の方向性は、国が規制を強化することであり、補助金を含めた国の関与、官僚の関与が強くなります。また、一部の業界が国民の犠牲の下に既得権益を温存することにもなるでしょう。言ってしまえば国の意向、そのときの為政者の意向によって、経済の方向性が決められる「社会主義的」政策ともいえるでしょう。アメリカではホワイトハウスの意向に沿う人や会社が既得権益を得ることになると思います。

ただ、この政策は自分の国だけを守ろうとするあまり、お互いを傷つける「近隣窮乏化」の道を進むと経済学者のジョーン・ロビンソンは言いました。実際の例ですが、1929年のウォール街の株の大暴落の後、各国は保護貿易に走りました。世界の貿易量は急速に縮小し、世界経済はますます悪化しました。経済は混迷し、ドイツではナチスが台頭し、日本での軍国主義が台頭したのでした。第二次大戦後、こうした戦前の失敗を受けて自由貿易を推進する目的でGATTの制度ができました。GATTとは関税および貿易の一般協定です。関税や規制を取り除き、自由貿易を発展させるための国際協定です。

ベトナムを含めたアジアの国々は、多くの国が植民地支配を乗り越えて戦後独立を果たしました。独立した国々は当初は今までのように先進国の食い物にならないように保護主義的な政策をとり、国内産業を守ってきました。ただ、国家主導の産業育成政策には限界がありました。海外との関係が少なく、競争やイノベーションが起こりませんでした。毛沢東の中国、ネルーのインド、スカルノのインドネシアもそうした政策をとってきました。ベトナムだけは、フランスが南部支配を継続し、それで戦争になりました。その後、ドミノ倒しアジア地域の共産化を恐れたアメリカが参戦して、長い戦争により産業の発展からは無縁でしたので、近隣諸国よりも経済成長は大きく遅れました。

独立を果たした近隣の諸国も保護主義的な政策によっては国内の経済の成長は果たせませんでした。1960年ごろまでは経済成長ができず、貧困が継続していました。逆に自由貿易政策をとっていた台湾、韓国、香港、シンガポールなどの経済成長は急激でした。中国、インド、インドネシアも自由貿易、資本主義化を進めることでようやく経済成長を実現できるようになったのです。アジアの成長は今までの欧米の搾取される経済ではなく、欧米と対応に競争するグローバル化で実現されつつあるのです。

ところがアメリカのトランプ氏の主張は、中国を中心に日本も含まれますが、「不当に安い製品を製造して、アメリカに輸出している」国が、アメリカの経済にマイナスを与えていると言っています。それらに関税をかけて、今までのアメリカを支えてきた白人層を守ろうとしています。特に重要なのはアジアの貿易が不当と考えている点です。ドイツも貿易大国ですが、名前が上がるのはアジアの国です。その筆頭が中国ですが、日本も有色人種の国なので批判的な言動はされるようになるのではと思っています。私はこの傾向がこれから顕在化するのではと思います。アメリカと中国の対立が、今後明確になることを多少懸念しています。日本にとっても対岸の火事ではないと思います。

そのときにそれぞれ取り巻く国々は、アメリカについたほうが得か、中国についたほうが得かを迫られるのではと思います。アメリカが保護主義傾向を強めるならば、アメリカについていくことの重要性が縮小することも考えられます。また、アメリカが旧来の重化学工業に頼って国の経済を立て直そうとするならば、社会の進歩から逆行することになります。このことは、世界経済、政治の転換点になりうると考えるゆえんです。先進国が経済成長の限界が近づく中で、歴史の逆行のような動きを見せるのは皮肉なことです。

それに対してアジアの自由貿易の流れは、これからも続くものと思います。先進国だった国々が保護貿易という社会主義的な傾向に入ろうとしています。保護という名の既得権益が必ず発生していきます。それを為政者が守ろうとすると、そこから停滞が始まるのではと思います。今までアジアが批判されていた方向に、今度はアメリカが進もうとしています。アジアの中の日本にとって、立ち位置がこれからは重要になりそうです。中国はアジアインフラ銀行(AIIB)を設立して、アジア諸国に影響を持ち始めています。その点で日本は、アメリカ一辺倒ではない国際関係つくりが、これからの生命線になるように思うのですがいかがでしょうか。

最後ですが、日本に帰ったら買いたいと思っている書籍があります。「サピエンス全史」(ユヴァル・ノア・ハラリ著)という本です。国家、貨幣、企業、宗教・・・ホモサピエンス(人間)の文明は虚構の上に成り立っていると主張しています。しかし、その虚構の上に築かれた文明の発展が、人類を幸福にしたのだろうかと問いかけています。農業革命は人類史上最大の躍進だといわれていますが、労働強化、人口爆発、自然破壊と貧富の拡大を生んだ史上最大の詐欺と言っています。まだ読んでもいないので解説はこの辺にしますが、構造変化の予感を感じる最近の傾向からいろいろ考えてみたいと思います。これからの日本にとって、アメリカ第一主義が日本を幸せにする要因にはならないでしょうが、日本自身が世界の中でどんな立ち位置を取るかが問われているように思います。

以上