2018.07.7

 

 4月の終わりにスマートフォンを紛失してしまいました。電話がかけられないと人に相談したり、約束をしたり出来ません。失くしてからの24時間は、体の一部がなくなるほどの感覚で落ち込むほどに不便を感じました。海外で一人暮らしをしていると相談できる人もいません。目の前にいる人に協力をお願いすることも出来ません。他人とはインターネットやモバイルがないと繋がりづらいことが分かりました。言語が流暢なら何とかなりますが、そうでないと不便です。

 そのときはたまたま休日だったので、会社のベトナム人スタッフにも協力依頼が出来ませんでした。仕方ないので友人にメールで連絡するしかありませんでした。友人がメールを見て返信をくれて、初めてつながることができます。その後のメールのやり取りで、待ち合わせ場所を決めて、新しいスマホを買うために協力してもらうことにしました。その友人は私より15歳も若いのですが、20年前にベトナムに来て事業を行っているので、ベトナム語も話せるので私にはとても便利な存在です。e-mailで連絡が取れたので、彼にお手伝いをしてもらうことにしました。

 そのスマホのショップに行って感じたことがいくつかあります。ベトナム人が買うのでしょうが、相当高額のものがたくさんありました。10万円を越すものを平気で買うベトナム人がいました。私の方はなるべく安いのをと選ぼうと、下か23番目のものを選んでいました。それでも2万円程度はしました。一部ではありますが、ベトナム人の余裕がある人は断然日本人より高いスマホを買っていることにまずは驚きました。驚いたとは言っても、これは多少分かってはいたことで、十分にガテンがいくことでした。

 その次に驚いたのは、販売されているスマホのメーカーがアジア製のものが多かったことです。こちらは私自身インパクトがある驚きでした。Appleのアイホンは確かに多いのですが、その他は中国、韓国、台湾のメーカーの製品です。日本の製品は唯一ソニーのエクスペリアだけでした。

 特に多いのは、私には聞きなれない中国のメーカーです。ファーウェイ(華為技術)、シャオミ(小米科技)、VIVOOPPOなどの多くのブランドが圧倒していました。韓国はサムソンが大きなスペースを占めており、LGのものもありましたが、これは定番です。台湾はASUSなどのメーカーのものがおかれていました。アジアでは既にこのような現象が一般的になってきているようです。携帯電話に限らず家電などもそんな様相です。東南アジアの店舗の陳列を見ていると、もはや日本製が主流ではなくなっているのを感じます。

 それと似たような驚きの感慨をいたいたのが、ワールド杯サッカー(以下、「W杯」)の広告でした。日本の皆さんも日本戦の時にも漢字の広告が並んでいたのを見ているでしょう。その中で万達集団(ワンダグループ)は、数少ないFIFAパートナー企業にまでなっている企業です。中国の不動産デベロッパーです。それ以外にもW杯スポンサーになっているのが、蒙牛(マンニュウ)乳業や海信集団(ハイセンス)という家電メーカー、維沃移動通信というスマホのメーカーはVIVOというブランドの商品を持っていますが、英語表記で看板を出しています。ハイセンスの英語表記で、以前は東芝のテレビ事業ブランド「REGZA」を広告していたりします。それもそのはずで、東芝のTV事業を買収したのがハイセンスです。それらの企業がW杯の広告でも世界に向けて発信をしています。一部は英語表記で、一部は漢字表記で広告を出しています。W杯期間中に中国企業が投じる広告費用は900億円といわれ世界1位の額です。これは中国政府の意向にも一致しています。

 ところで中国はW杯に出場していません。アジア最終予選で敗退したからです。日本ではW杯に多くの人が関心を持っています。日本人の関心がW杯に集中しているがゆえに、話題の学園理事長がこっそりと記者会見をしたのもこの期間でした。私もベルギー戦では、途中で起きてリアルタイムに試合をTV観戦しました。日本では深夜にもかかわらず、TVの高視聴率に驚きます。当初の予想以上に反して、決勝トーナメントにまでいけたことは、日本代表もよくがんばったと思います。欲をいえばきりがありませんが、実力から言えばそんなものなのでしょう。

 W杯といえば最初に私が関心を持ったのは、1974年の西ドイツで開催されたW杯でした。その当時、高校2年生で自宅を離れて下宿していた私は、サッカー部に所属していました。下宿くらしなので、TVもなくW杯を知ることが出来たのは、サッカー部の部室での仲間との会話でした。それに先輩が買ってくるサッカーマガジンの記事を読むことだけでした。ただ、決勝戦の西ドイツとオランダの試合は、仲間の家へ呼んでくれて、TV観戦したことを覚えています。

 その時は西ドイツが優勝したのですが、両国のサッカーのスタイルが違いました。西ドイツは皇帝との愛称を持った主将のフランツ・ベッケンバウアーを中心とした組織プレーのチームでした。緻密なデフェンスと計算された組織戦を展開しました。一方、オランダはヨハン・クライフという天才プレーヤーを擁して、ポジションを固定することなく、個人技と自由な発想で戦術を仕掛けてくる型破りなチームでした。

 その当時の同世代の選手が競う冬の高校サッカーにも関心がありました。私が高校1年の冬だったと思いますが、浦和西高校の西野朗選手に注目を集った時期がありました。その当時、西野は無名でしたが、高校サッカーで活躍したことで注目されました。ただ、当時高校サッカーはそれほど人気がなく、同じサッカーをしていたからこそ、名前を知っていただけのことです。今や高校サッカーも多くの観衆を集めていると聞いていますが、その当時は閑古鳥の鳴くスタンドでした。その当時(数年の誤差はあります)は、高校野球の定岡や原辰徳の方が圧倒的に人気の的でした。サッカー日本代表の試合もそれほどの注目を集めることもありませんでした。今から44年前のことを思うと隔世の感があります。

 さて、話は戻りますが、44年前を振り返り、近い将来が想像もつかない展開になる可能性を感じてしまいました。それはW杯の広告からの連想です。中国代表が出場をしていないにもかかわらず、中国企業がW杯に広告を出すのはなぜなのでしょうか?それは世界に市場を拡大するチャンスと考えているからです。それと同時に中国企業はお金を持っているからです。なぜ、お金を持っているかというと消費者の数がとんでもなく多いからです。中国がW杯になぜ出場できないかと言うと、当然ですが、日本や韓国チームより中国の代表が強くないからです。ではなぜ強くないかというと諸説ありますが、国内のサッカーチームが報酬を出しすぎるので、中国選手が国外でプレーしなくなり、強豪チームと試合をしないので強くならないのだとの論調もあるくらいです。それほどにお金を出せる企業・団体が多いのが中国です。リオW杯では1社のみだった中国の広告掲載企業が4社になる躍進を遂げています。

 ところでなぜ中国人以外には読めないと思われる漢字で広告を出すのでしょうか?一つには、中国国内で世界に通用するブランドであるとの印象を与えれば、国内販売が増えるからです。中国人も多数、W杯に関心を持っています。日本とは違って、自国が出ていなくても関心が高いのです。中国でも放映されるW杯は、中国人もたくさんの人がTVを見るようです。直接観戦する旅行者も中国人が圧倒しているようで、国別では9番目にチケット購入者が多いのです。それと同時に国家の戦略があります。国家も企業もグローバルに目が向いています。今は売れなくてもW杯で広告を出した企業であることを材料に、グローバルな市場開拓につなげることを目指しています。読めなくても漢字を使って広告を出すのは中国企業のみです。中国企業が伸びていることを視覚的に伝えることが出来ます。多くの企業が進出しきれていないロシアは、格好のフロンティアであると的を絞っているのです。あの広告を出している企業と認知してもらうだけでいいのです。

 いい意味でも悪い意味でも、中国の影響力は世界で高まっています。中国国内での販売だけでも企業を大きく成長させることが出来る巨大市場です。国内で認知されるだけでも13億人の市場があるのです。これは輸出に頼らなければならない日本とは事情が異なります。中国の市場を固めれば、次は世界に低価格の商品を世界の投入して打って出ることが出来ます。今、トランプ大統領がアメリカ第一主義とか言って、保護貿易的な方法に進もうとしていることからも中国は一線を画しています。私なりに思うのは、これからの数年後、アメリカの影響力が低下し、中国が上昇するだろうと想定しています。

 中国は国の政策でも海外への開放政策を取っています。中国政府が形成を目指す経済・外交政策を「一帯一路構想」と言います。2013年習近平(シージンピン)主席が提唱し、201411月中国で開催されたAPEC首脳会議で広くアピールされた構想です。中国西部から、中央アジア、欧州を結ぶ「シルクロード経済帯」(一帯)と中国沿岸部から、東南アジア、インド、アフリカ、中東、欧州と連なる「21世紀海上シルクロード」(一路)からなる地域の経済圏確立や関係国の相互理解の拡大を目的とした構想です。日本のほうには向いていませんが、東南アジアから、アフリカ、ヨーロッパに向けた戦略を虎視眈々と準備をしています。

 今回はW杯から中国のことを主に触れることになってしまいました。最後にベトナムのことを触れましょう。特に中国との関係についてです。中国が今後成長するかも知れないというと、日本人の中ではいやな顔をする人が多いと思います。中国を好きではない日本人が多いことはよく知っています。日本人の多くが「嫌中心理」を持っていますが、ベトナム人の「嫌中心理」は日本を上回っているように感じることがあります。20145月に発生した反中デモは、中国企業の工場焼き討ちにまで発展しました。当時のデモの原因は、南シナ海のベトナムが主張する排他的経済水域に違法に設置された中国企業の石油切削リグ(井戸を掘る装置)をめぐる衝突から発生したものでした。

 今年6月にも反中デモが発生しました。その要因はベトナム政府が進めている特別行政経済区(経済特区)を推進するために、土地のリース期間を最長99年間に延長することを国会で審議していたことが理由です。デモをするベトナム人は、中国企業に99年もの土地使用権を認めたら、中国に支配されてしまうと主張しました。ホーチミン市のデモでは、「土地は一日たりとも中国には貸さない」、「中国は要らない、中国は出て行け」というシュプレヒコールが湧き起こっていました。「99年の土地租借法は、わが国の主権に影響を与える。我々は中国の手に落ち、人民は4000年の歴史を失い、ベトナムは世界地図から消える」と主張する人もいたくらいです。ベトナム人の過度な中国に対する警戒感は、歴史の中で刻まれてきた戦いの連続だった過去にその理由があります。同時に政府上層部に対する不信感もあるのではと思います。それは次のインタビューから感じることができます。「ベトナムもまた汚職が蔓延する国家の一つ、ベトナム政府もいずれ中国資本の札束に屈してしまう」と懸念する声があることを、ダイヤモンドオンラインに寄稿したジャーナリストの姫田小夏さんは伝えています。

 ベトナムは中国に支配されたり、独自の政府を樹立したりを繰り返してきました。19世紀半ばアヘン戦争で清が衰退する時期には、それを尻目にフランスに植民地支配をされました。歴史的事実は、中国と戦いながらも、時としては後ろ盾として活用してきた歴史があります。現在政府には親中派もいることを聞いています。小国とはいえ、中国との関係では一線を越えてはならないという意識が、根強く国民意識に根付いているのです。

 「一帯一路」構想を展開する中国は、国境を接する14の国を対象に交易の拡大とインフラの整備を急いでいます。ただ、ベトナムなど被支配と戦いの歴史を経験した国では、それに対する警戒感が存在します。もっと貧しいカンボジアやミャンマーなどは、警戒感が乏しく中国からの援助を積極的に受け入れているような気配がありますが、ベトナムはそれとは姿勢を異にしています。ベトナム戦争でアメリカに負けなかった精神は、中国に対する姿勢にも現れているように感じます。

 W杯の広告に見る中国企業の存在感の増大が、今後どのような展開を見せるのか。ベトナムの出方や東アジアと東南アジア諸国の出方が、今後どのように変化していくのかは日本も関心を持つべきでしょう。ベトナム人は強いものに巻かれているように見せても、心の中では自分が一番だと思っています。それは大国中国に対するスタンスとも同じです。同時に向上心が強い彼らは、将来は他のアジア諸国より、自分たちが発展しようという野望も持っています。アジアの暑い戦いはこれからも続くでしょう。中国は嫌いで、日本は好きですと言っても、ベトナムのことが一番好きなのがベトナム人です。

以上