2019.2.21

 私のベトナムでの仕事の中で、企業のベトナム進出の支援にかかわることが最も多いのですが、教育現場のお手伝いをする機会が多くなっています.。それは何かというと、一つは大学のゼミの研究視察と高校生の修学旅行です。高校の一学年をまとめてベトナムに訪問するケースもあります。その場合、私に依頼されるのは工場見学などの企業訪問先を手配することです。300人くらいの生徒を一度に受けていただける会社は全くありません。そのためバス一台分(一クラス)40人程度ずつ受け入れていただける会社を67社程度探すことになります。少人数の日本人管理者がいるだけの会社が多いので、受け入れていただくことも簡単ではありません。

 もう一つのケースは、大学生や社会人のインターンシップの受け入れです。一定期間特定の企業にインターンシップとして勤務することです。そのような依頼が年々増えていることを感じます。学生の場合、長い人は1年間の場合もあります。その場合は1年間休学してインターンシップを受ける人もいます。短いのは1か月程度ですが、大学ではそのインターンシップに単位を与えています。社会人でも若手社員に海外体験をさせる目的でインターンシップを依頼される場合もあります。

 なぜ、必ずしも英語圏ではないベトナムでのインターンシップや研修が多くなってきたのか私なりに考えることがあります。お互い母国語が英語ではないので、上手でない英語で会話をしても気恥ずかしくないこともあるでしょう。それ以上に私が感じるのは、経済成長をする国を体験する機会を得ることができるからではないでしょうか。ベトナムは毎年7%程度の経済成長をしている国です。日本の若者たちの将来に対する考え方とベトナム人の若者の考え方は決定的に違います。その違いを体感することは意味があるとは思います。未来の成長性を信じるほうが幸せな生き方ができます。日本と世界は同じでないことを知ることは意味があるでしょう。日本の教育現場においては、学校も社会人もグローバルを避けられないと感じているようです。

 日本の場合、人口減少という理由もあり、外国人とのかかわりが多くなりました。労働人口が足りないため、外国人で補充をすることが喫緊の課題になりました。また、それぞれの企業の実情も利益を上げるためには海外を利用する以外の方法がなくなりつつあります。現実に日本企業も日本人もアジアに出る必要が増しています。ではなぜアジアに出る必要が増しているのでしょうか。

 企業が成長をするためには、利潤を上げなくてはなりません。しかしながら、競争が激しい日本、またデフレ傾向の日本であれば、コストダウンしなければ製品が売れません。そのため安い原材料にしたり、人件費を下げたり、流通コストを下げる、あるいは下請けに価格引き下げを求めるなどをしなければなりません。それが比較的簡単に実現できるのは、日本からするとアジアです。賃金が安い割には、インフラや人材の質が高いベトナムでは企業が利潤を生みだしやすいのです。

 歴史をさかのぼってみると、今の資本主義の原型ともいえる株式会社が生まれたのは大航海時代の産物とも言えるでしょう。それまでは君主が家臣に領地を与え、そこから年貢や税を搾り取る方法の封建制度から始まり、それが拡大すると巨大な軍事力で領土内の人々を支配する絶対王政となり国が成立していました。絶対王政化のポルトガル、スペイン、オランダなどの国々が、航海技術の進歩から、世界に進出して植民地を増やしていきました。商人に航海の権限を与えて、利益の一部を国王が手にすることで支配力を強めていきました。その後、ヨーロッパの後進国であったイギリスやフランスが成長し、植民地開拓の主役に代わっていきます。植民地支配を可能にしたのは航海技術の発達の要員はありますが、支配する暴力装置を手にしたことも要因です。その暴力装置とは銃のことです。

 市民が育っていたイギリスやフランスは、資本を拠出する市民の成長によって、貿易が進められるようになりました。それによって得られる貿易の輸入差額によって富が蓄積されていきました。重商主義といわれる時代です。また、植民地でプランテーション農業が始まると労働力不足を解消するためにアフリカからの奴隷貿易も始まりました。奴隷を働かしてできた作物を低価格で購入して母国で高く売ることで、イギリスやフランスの市民階級は栄えていきました。西洋列強の植民地支配を可能にしたのは、そのような富の蓄積と銃によるものと考えてもいいでしょう。

 世界史で「東インド会社」というキーワードを覚えている人も多いでしょう。東インドというのでインドの東にある会社だと思っていませんか?それは全く違います。アジア地域の貿易独占権を与えられた会社という意味で、オランダ東インド会社、イギリス東インド会社、スウェーデン東インド会社、デンマーク東インド会社、フランス東インド会社などがあります。その当時のヨーロッパ人の認識では、ヨーロッパと地中海沿岸地域(北アフリカ、中近東)以外の地域は、「インド」と考えられていました。新大陸アメリカとの貿易独占権を与えられていた会社を「西インド会社」と言います。アメリカの先住民のことを「インデアン(インド人)」と呼ぶのと同じ考え方ですね。その当時のヨーロッパ人の認識はそんなものだったのです。特にイギリス東インド会社は、インドで地代の税徴収もしていました。民間企業が出資者の委託を受けて、政府機関のような役割も果たしていました。そんなことができたのも産業革命の影響と強大な軍事力のたまものです。

 この東インド会社を経営するためには、まずは貿易するための大型船が必要になります。最初から利益を生み出すわけにはいかないので、お金を持っていて将来配当をもらいたいという人が出資をして会社を作る現在の株式会社の基礎が作られました。合わせて多額のお金をかけて船を作っても回収できる前に沈没してしまうリスクを避けるために保険という概念も生み出されました。現在の海上保険の原型ができたのもこのころです。このころはヨーロッパは絶対王政国家でした。王政国家が栄えるために、貿易による利益を追い求めました。ポルトガル、スペイン国王が特権的な商人を保護して利益を積み上げていきました。イギリスでは市民階級の進出に対応して、資本家による会社設立が進みました。その市民階級の力もあり、イギリスが大英帝国を築くことになります。

 貿易で利益を出すとはどういうことでしょうか?自国では高く売れるものを現地で安く購入することで利益を稼ぐことにほかなりません。仕組みはこうです。貿易のための先行投資を資本家が出資する。現地で安く仕入れて、自国で高く売る。従業員の給料、運送費を除いた利益を資本家が分配する。そんな仕組みです。それが時間を経て、今は製造業の分野で起こっているのです。自国で作るより安く作ることができれば利益を生みます。ベトナムの工場労働者の月の給料は3万円程度です。その国が関税などを免除すれば、輸送コストを除いて人件費の違いが利益になります。しばらくはそのような製造業の海外シフトは続くことでしょう。

 ただし、人件費が安いだけでは利益を確保できません。労働者がある程度の技術や能力を備えていること、製造するための社会インフラがある程度整備されていることが必要です。また、輸送や原材料の調達に余分なコストがかからないのか、税や社会制度上の制約がないかなどが重要になります。人件費が安くてもほかの部分で相殺されるようでは、製造場所の移転先に適しているとはみなされません。日本にとって今ベトナムは総合的に移転するのに適した場所としてとらえられています。

 ところでその資本主義の構造が変わりつつあるのを感じます。企業と国との関係性が変わり始めています。以前は国内企業がもうかれば、国がもうかる図式でした。そのために国は産業の育成に力を入れていました。ところが企業は一国にとどまっていたら、利益を上げられなくなっています。また、国際競争にも勝てなくなっています。企業は最適に収益をあげられる場所に移動をしています。必ずしも本社を自国に置く必要はなくなってきました。近年、巨大なIT企業が、税金を未払いだという理由でいろいろの国の政府から訴えられるようなことも多くなりました。たとえばベトナムでは、Facebookがベトナムでの広告収入の法人所得税を一切支払っていないと問題にされています。ベトナムでの広告収入は600億円に達し、256億円をFacebookが手にしているがベトナムでの納税がないと指摘されています。ベトナム人のFacebook利用者が5800万人になるとのことで利用者も急激に拡大しています。

 グローバル経済の中で、企業はグローバル化が進むけれど、国はグローバル化しては困る実情が増えています。企業は利益を上げる最適な場所を求めますが、国は自国だけで税負担をしてもらいたいがために、自国有利な税制で企業をとどめようとします。あるいは移転させようとします。グローバル化した企業に対しては、どこの国で税金を払うのかをそれぞれが主張するようになっています。税の奪取のための戦争(競争)はすでに起こり始めています。封建制、絶対王政化の政治の仕組みは、軍事力を背景に人々を支配して税や地代を回収する仕組みでした。国の歳入は所得の一部や取引の一部を課税する仕組みです。人がたくさんいて、利益を上げていないと国は豊かになりません。国は外国人労働者が増えることはウエルカムのはずです。世界の将来は○○ファーストと考える国の為政者が強くなるのか、グローバル企業が強くなるかのせめぎあいでもあります。

 最近日本の製造業で起こったベトナム税務当局から、重加算税を取られた事例を伝えます。それは価格移転税制(Transfer Price Tax System)という考え方です。その会社はベトナムでアパレル製品を製造して日本に輸出します。その際にベトナムでの製造価格を低く抑えて、黒字が出ないようにしていました。ところが日本では利益を乗せて販売し、日本で利益を出せるようにしていたのです。一見もっともなやり方ですが、そのように操作ができればどちらかの国が損をすることになります。そのようなことをさせない制度が価格移転税制という考え方です。そのような制度を知らないで企業は価格設定をすると、後日移転価格税制で重課税されることがあります。このようなことを避けるためには、価格設定の妥当性に関する情報をまとめておく必要があります。税に関してはどこで税金を取るのかという国対国のせめぎあいがこれからも多く発生するでしょう。

 ところで129日から212日まで私は日本で活動をしていました。昨年までの反省で今年は、空港でWifiルーターを借りました。インターネットが接続できるところであれば、PCやスマホを使ってネットワークを接続できます。昨年はそれを持っていなかったため、ほとんど外出中は接続できませんでした。ところが今年はほぼ対応ができました。長野県の実家だけは対応できなかったのですが、それ以外は問題ありませんでした。ベトナムの場合、どんな小さな店でもWifiのネットワークがあるので、ルーターがなくてもパスワードさえわかれば接続できます。店員にパスワードを教えてほしいというと入力してくれます。海外はそういうところが多いですが、日本ではルーターがないとほぼつながりません。日本では「ガラ携」と言われる携帯を使っている人がまだ多いようですが、ベトナムの都市部では、スマホを使っている人が圧倒的に多いです。海外ではネットワークを利用したシャアリングビジネスが急速に発展し始めています。その変化のスピードも日本人に知ってもらいたいと思います。

 日本に来て2週間活動の中で、改めて日本の交通網の充実には関心をしました。大阪のJR鶴橋駅で名古屋へ行くための新幹線の切符を購入したところ、直近の時間でいいですかと聞かれました。さすがに心配だったので少し後のものでいいと言いましたが、着いた時にはちゃんと間に合う時間でした。ただ3分前くらいだったので、あとのにしてよかったと思いました。海外では考えられない正確さです。ベトナムでは飛行機に乗る場合、予定の飛行機が運航しないことがあります。理由はほとんど知らされません。2時間後の次の便しかないと思っていると、早めに出発するとアナウンスがあることがあります。どうしてこのようなことが起こるかを推察すると、前の便が乗客が少なかったので、欠航させて次の便に回します。ただし、乗客の数が定員になるとその時点で出発させるのです。べトナムではそのことが悪いことという認識がありません。日本の良いところはまだまだたくさんあることは事実です。

 今の日本経済について好景気が続いているとの表現が続いています。現実に失業が減ったりはしているので、全くの誤りというわけではありません。ただ実感に乏しいのも事実です。そこで私がお伝えしたいことがあります。日本経済を支えている実業の内容が大きく変わり始めていることです。グローバル化のなかで、日本の立ち位置が大きく変わってきています。日本の産業構造は高度成長期はエレクトロニクス産業や自動車産業が牽引していました。

 今の日本の主力の産業は以下の通りです。ここでは冷泉彰彦さんのコラムの一部から参考にさせていただきました。日本の主要産業は以下の3つになってしまいました。産業構造がスカスカになり始めていると考えていいでしょう。

・部品産業

・日本語による非効率な事務仕事

・観光がらみのサービス産業

 20世紀後半は日本の電機メーカーは世界でも有力でした。日立、東芝、松下、三菱、富士通、三洋、NEC、シャープなど有力な企業がたくさんありました。ところが現在は、米国のアップル、中国のファーウェイ、韓国のサムソンなどには大きく劣っています。かつては日本企業のOEM生産先であったホンハイ精密工業(台湾)は、シャープの親会社になっています。日本は部品供給先に転落してしまっています。液晶、半導体、アンテナなど日本の部品作りは、スマホの世界でも重要な地位を占めています。しかし、部品だけでは変わりが見つかればなくなってしまうものです。またした上の部品製造は薄利の仕事になります。

 日本語による非効率な事務仕事に関しては、「原本」「はんこ」「稟議書」など電子化時代にはそぐわない管理の仕事がたくさんあります。そこで職を得ている人はたくさんいます。日本だけを見ていればいい職場では、それらの仕事が減ることはありません。日本の労働生産性がG7の中では最下位だというのは有名な話です。日本でしか通用しないルールが生産性に影響していることは考えられることです。今後メガバンクが人員を減らすと言っていますが、Fintechが進む銀行経営者からは将来像が想像できるのでしょう。

 観光業に関しては、年間3000万人を超える外国人が日本に来てくれるようになりました。それは良いことですが、周辺国の成長によるおこぼれを得ているにすぎません。また、先人が築いた文化の特異性が功を奏しているからで、現在の日本が成長しているからではありません。外国人観光客が増えてきたので、外国人労働者を増やし労働集約的に対応しているにすぎません。

 日本社会が問題なのは、ファ-ウェイやサムソンが日本の技術を学び、産業が海外移転をしたことをきっかけに技術を取り入れる努力をしました。新しい時代の変化を敏感に取り入れていくことで、旧来の日本製品をしのぐ商品を開発していきました。日本が好景気を謳歌していて、新しい時代の準備を怠っていた時にそれを取り入れていきました。日本が欠けていたのは、社会がどう変化し始めているかを、グローバルな視点で見ていなかったことだと思います。次世代の産業としてどんなものを育てるのかは、先進的な他者に学び、グローバルな視点を持てる若者を育てることに他ならないのではと思う今日この頃です。その点では海外でインターンシップをするなどは多少は意味があると思います。

以上