2020.02.20

1、テト休暇(旧正月)の帰国中にあったこと

 1月の放送ではテト休暇で日本に帰国することを伝えました。放送当日は日本に滞在中でした。仕事も忙しく東京で講演をしたり、大阪でも講演をしたり動き回っていました。ただ、今回は仕事以外で世界と自身に2つの大きなことがありました。一つは世界的に関心が高い新型コロナウィルスの感染者の拡大です。当初は身近な問題とは感じませんでしたが、いろいろ移動をする中であちこちで深刻な問題になり始めていることを肌で感じました。もう一つは個人的なことです。業務の予定がなかった帰国初日と2日目に医療機関に行ってきました。過去2年間事情があって行くことができなかったからです。初日は2年前にベトナムに戻る直前にかかったことがあるクリニックに行きました。2年前に肝機能の数値がかなり悪いので、「検査を受けるべきですよ」と言われていました。今回の訪問は肝機能の改善の目的で訪問をしたのですが、総合病院の紹介状を書きましょうと、その日は診察もなく翌日病院に行くことにしました。

 翌日、以前は横浜船員病院という名前でしたが、今は保土ヶ谷中央病院という名前になった総合病院に行きました。肝機能の確認のつもりだったので、朝ご飯をきちんと食べて訪問しました。最初は指示された検査室に行き、採血などを行い診察を待ちました。名前を呼ばれて診察室に入ると先生から、「入院すべきですよ」と言われました。理由は血糖値とヘモグロビンA1Cが非常に高いためです。数値は控えますが、入院レベルの数値と言われました。先生からは、放置しておくと「失明したり、心筋梗塞になりますよ。」と脅かされました。ただ、私は「いろいろ仕事が入っているので、とても入院はできません」というとその時の若い先生からは「自己責任ですよ」ときっぱりと言われました。

 それから一週間は仕事の予定と父のいる実家への帰省の予定だったので病院にも行けませんでしたが、診察の結果がショックだったので、自分の判断で食事制限をして急激に体重が落ちました。日本滞在の後半で、午前中空いていた日に再度病院に行きました。その時は副院長の先生に診察を受けました。数値の高さもあり、心臓、内臓、眼、手足の感覚障害などの検査を次々受けさせられました。そのため午後の予定はキャンセルせざるを得ませんでした。

 すべての検査の後、先生との相談が始まりました。2週間ほど入院して生活改善をすることを勧められました。ベトナム帰国の事情からそれができないので治療用の薬等の処方をしていただき、また血糖値測定器も貸していただくことになりました。翌日も生活(食事)指導もしていただきました。この間、炭水化物を極力とらないようにしていたこともあり、体重が日に日に落ちて5キロの減量ができていました。ところが指導いただいた先生からは、食事はちゃんととってくださいと言われました。膵臓からのインシュリンの分泌を保つためには規則正しい食事が必要と言われました。素人考えの対策はここでやめて、野菜とタンパク質を中心に炭水化物も少しはとる食事にしました。お蔭でベトナムに来て一週間も経たないうちに血糖値は正常な数値まで下がりました。それに並行して血圧も正常な状態になってきました。腹八分目の食事の大切さを身に染みて思いました。それでも三か月後には再検査の予約をするように言われましたので、4月の後半にはまた日本に戻ることになりました。海外にいることの弱点はレベルの高い治療を受けづらいことです。

2、新型コロナウィルスの感染拡大の影響で起こり始めていること

 もう一つは全世界的な関心事となっている中国武漢から発生して拡大を続ける新型コロナウィルスの問題です。日本のTVでも連日報道されている内容ですので、皆さんの方が詳しく、私の方がそれについてはあまり知識がないのではと思います。私の場合、航空機の国際便に搭乗していたり、ベトナムでの対応などをお伝えすることができますので、日本の報道とは切り口を変えてふれたいと思います。

 帰国する便は24130分発のJALの羽田発ホーチミン行の便でした。私は3日の23時前には搭乗手続きを終えて、搭乗待合口に行っていました。そこでは空港関係者は全員マスク着用していました。また、キャビンアテンダントの方が搭乗する人たちに日本語と英語で次のことを聞き始めていました。「お客様はこの2週間以内に中国を訪問したか、または中国の空港でトランジットしたことがありますか?」私の周りではありません以外の回答をした人はいなかったように思いますが、2週間以内に中国に入ったことがある人は搭乗できなかったものと思います。

 搭乗予定者の多くはマスクを着用していました。私はほぼマスクをする習慣がなかったので、マスクをしてはいませんでした。マスクをしていない人は西洋人が比較的多いように思いました。中国に近い国の人たちとこの問題の感じ方には温度差があることを感じました。ホーチミンのタンソニャット空港に到着した時に、いつもは出迎えでごった返している人たちがめっきり減っているのも感じました。ベトナムでも空港は危ないと多くの人が思っているのでしょう。

 ベトナムのオフィスに戻るとわが社のスタッフも半数程度はマスクを着用するようになっていました。ホーチミン市内でも航空会社の人間など数人が感染したようで、みんな気にしているようでした。帰国後、ホーチミン市近郊のドンナイ省の工業団地で操業しているサッシと衛生陶器の大手企業LIXILにお伺いしたのですが、守衛さんから「まずは手洗いをしてください。」と言われ、手洗いをして元に戻ると「マスクはありますか?」と聞かれ。「ないです。」と答えるとマスクを渡されました。企業もそこまで徹底して対策をしているようです。

 ベトナムに駐在している日本人の方々のFACEBOOKの投稿を見るのですが、テト(旧正月)休暇だった学校が、休暇明けにもかかわらず休暇が延長されていて、再開のめどが立っていないと聞きます。中国の春節と同様なカレンダーのベトナムですが、中国同様警戒感が強まっています。そのおかげで交通渋滞が解消されています。また、私の会社ではアライバルビザの発行を依頼されますが、航空機の経路を伝えないと取得できなくなりました。中国経由ですとビザも取得できなくなりました。

 それと同時に日本人の方の企業の視察、大学の研究視察などの予定がどんどんキャンセルになっています。私がJTBから依頼された工場見学の予定などどんどんキャンセルになっているのが現状です。それとは逆に中国で生産していたものが止まってしまい、代替で生産できるベトナムの企業を探してほしいとの依頼は受けるようになりました。視察などはいつでもいいのでどんどんキャンセルされますが、事業者には深刻な影響が出始めていることを感じます。

3、有名なパンデミック ~スペイン風邪~

 20世紀のもっとも有名なパンデミックとして語り継がれているのがスペイン風邪です。1918年から1919年にかけて世界中で大流行したインフルエンザです。感染者5億人、死者は5000万人から1億人にも上るとみられる大流行でした。流行の源はアメリカ合衆国なのですが、感染情報の初出がスペインであったためスペイン風邪と呼ばれるようになりました。この大流行により、徴兵できる成年男性が減ったので第一次世界大戦が終結したとの説もあるくらいです。その当時世界の人口は18億~20億人程度で全人類の3割近くが感染したと聞きますので、56億人もの感染者がいたことになります。

 第一波の流行より、第二波の流行の方がウィルスの毒性が増し重篤な合併症を起こした人がが亡くなったと聞きます。不思議なことに感染者の最も多かった高齢者の死者は少なかったものの、青年層で多数の死者が発生したと伝えられています。第一波はアメリカのデトロイト市やサウスカロライナ州付近で最初の流行があり、アメリカ軍のヨーロッパ進行により大西洋を渡り全世界に拡大したようです。医師や看護婦も感染したため医療体制も崩壊したと聞いています。そのことにより、インフルエンザの大流行の時にはインフルエンザワクチンを最初に医療従事者に優先するようになったそうです。

 スペイン風邪の感染者は日本にも拡大しました。患者数は2380万人にも上り、約39万人もの死者が出ました。このスペイン風邪では政治学者マックス・ウェーバーや画家のクリムト、シーレ、文学者のアポリネールなどの著名人も亡くなりました。日本でも作家の島村抱月、大山巌夫人の大山捨松、画家の村山槐多なども亡くなりました。この風邪の病原体はA型インフルエンザウィルス(H1N1亜型)で、鳥インフルエンザウィルスに由来するものである可能性が高いと言われています。免疫を持った人がほとんどいなかったことが大流行の原因と考えられています。

4、新型コロナによる日本経済への影響を考える

 今回の新型肺炎の話に戻ります。わが社に会社設立とM&Aのコンサルティングのお仕事をいただいているJUSTという名古屋のアパレルメーカーがあります。その会社は中国の技術者がベトナム人を指導して生産をしています。春節(ベトナムで言えばテト)の休暇を利用して中国に帰省した人たちがいます。21日帰国予定でしたが、中国にいた人はベトナムに入国できないことになっており、操業に影響が出ているとお聞きしました。ベトナムでもそうなので、今後日本でも同様なことが起こってくるだろうと思います。帝国データバンクによると中国から商品を輸入している日本企業は2万社にも及ぶとのことです。2万社が何らかの影響が出始めれば日本経済にも大きな影響が及ぶものと思います。

 まず第一にモノの不足が顕在化してくるだろうと言うことです。中国では人の移動を隔離していることから、洋服、雑貨、加工食品など様々な工場で生産中止が続いています。中国から部品を調達している日本企業も多いはずです。したがって、今後中国の生産休止の影響はあちこちに表れてくることになるでしょう。第二にヒトの不足が顕在化してくると思います。日本では外国人が多数働いています。中国人も相当数日本に滞在していますが、中国の正月である春節に帰省する人が多いです。その時期に新型コロナが拡大しました。そのため中国に滞在した人の日本への受け入れができなくなっています。労働者が戻ってこれないということです。飲食店など外国人を多数使っている業者は、人が足りなくて困ることになるでしょう。それ以上に観光で生計を立てている事業者は、15億人を有する中国のインバウンドの旅行者が急激に減少することになるので、影響は大きいものと思います。

 現在の世界経済は国際分業が進んでいます。ある部品はどこで作るものは品質が良く安いかが重要であり、その生産に得意なところ、あるいは安くできるところで製造をしています。日本、韓国、中国、台湾などその連携の中で製造をしています。その中で中国からの部品供給が停止されれば、全体のサプライチェーンを壊すことになります。当然日本への影響も出てくるものと考えられます。部品は今の段階は余剰分があるので、すぐには影響が表れなくてもタイムラグを経て影響は表れてくるものと思います。逆に製品の販売などの需要面で見ても15億人を抱える巨大マーケットの縮小は、世界のGDPを引き下げることになると思われます。中国市場への輸出などをしている日本企業も多いと思いますが、人の生活が制限される中で、需要も大きく影響されることでしょう。

5、中国の経済の減速は必至

 新型コロナウィルスでもそうですが、体力がない高齢者や病気を持った人たちが多くの犠牲者を出しています。それと同様に中国では体力のない中小企業が倒産をしていくことになるだろうと思います。社員の給料やオフィスの家賃を払い続けていくことができなくなれば、倒産せざるを得ないでしょう。また、給料をもらえない社員は、職を失い、購買力も低下することでしょう。

 2003年に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)の時は、大きく落ちた成長率がその年の後半はV字回復したらしいですが、今回はどうなるでしょうか?人によるとその当時は中国は2001年末のWTO加盟、2008年のオリンピック誘致の影響を受けて高度経済成長にまっしぐらに進んでいた時期だと言うことですので成長の勢いがSARS騒動をかき消したのです。

 ところが昨年は米中貿易摩擦が発生し、中国の工場移転が東南アジアに広がったこともありました。それと同時に産業構造が大きく変わっていることも急なV字回復は難しいのではと思われる要因です。第三次産業は、第一次、第二次の余剰利益を吸収する形で成長できる産業です。以下2003年当時は以下のような雇用労働者産業別割合だったようです。

中国雇用労働者産業別割合

第一次産業

第二次産業

第三次産業

2003

3.1

57.9

39.0

2019

3.8

36.8

59.4

 第二次産業は製造業であり、工場が稼働できればV字回復は可能になるかもしれません。しかし、第三次産業の場合は、旅行、観光、運輸、小売りなど人々の移動などに関連したビジネスになります。観光などを例にとれば、中国、特に武漢を訪れる人は急激に減ることが考えられます。また、映画館などほとんど行く人もなくなるでしょう。たくさんの人が集まる娯楽、飲食、ホテルなどそれらの事業に携わっている企業や人の損失は計り知れません。唯一経済規模が拡大するのはマスク製造や医薬品製造業者だけでしょう。それらの急激に顧客を失う企業が倒産すれば、社員にも影響が拡大し、経済は大きく落ち込むことになるだろうと思います。

 ちなみに日本の雇用労働者産業別割合は2018年の帝国書院の資料によれば、第一次産業3.4%、第二次産業23.9%、第三次産業72.7%となっています。第三次産業従事者が圧倒的に増えていることから、世界経済が景気低迷することの影響は、日本においても同様に大きいと考えられます。 

6、世界に拡散する経済的悪影響

 中国での生産活動が停止されることで、世界のサプライチェーンには重大な影響を及ぼすことが想定されます。武漢は1000万人を超える大都市で、自動車部品を製造している会社、半導体などIT分野の製造も多いようです。そんな重要な都市が機能しなくなると、あちこちに影響が拡大していきます。中国では韓国企業の現代自動車やフォルクスワーゲンなどドイツ系の自動車メーカーが製造をしており、影響が出始めているようです。オリンピックを控えた日本でも中国人などの観光によって収益を上げている自治体や企業が増えている中で水を差すような事態になっています。

 韓国は国を代表する企業の多くが中国から部品供給を受けていたり、中国への輸出によって経済が成り立っている国なので、今回の影響は大きいと考えられます。また、ヨーロッパの優等生ドイツも中国との取引の割合が高い国です。中国経済の減速はドイツ経済にも影響を及ぼすでしょう。

 中国は115日の米中貿易交渉で通商合意をしていますが、今後2年間で米国から2000億ドル(約22兆円)のモノやサービスを購入する約束をしました。それが実現しないとなると、アメリカはどう出てくるのでしょうか?アジアを蔑視する傾向のある国ですから、アメリカが主導権を握るためにより厳しいことを言ってくる可能性があります。そのようにあらゆる面で世界経済の先行きに影を投げかけることになると思います。

 中国の生産活動の鈍化が想定される中で、中国との関係が大きい企業の業績が下振れし、雇用や所得に悪影響をもたらせば、安定した個人消費に支えられていたアメリカの景気などにも影響を与えることも考えられます。そこまで影響が拡大すれば世界は連鎖的に不況に陥ることになります。

 ベトナムをはじめ東南アジアの新興国の成長も中国への輸出によって成り立っています。中国への輸出が減少すれば、それらの周辺国も悪影響は広まることが考えられます。中国人の行き来が止まっている中で、ベトナムでは航空機業界やホテルなども閑散としています。当然そのような分野の収益は激減します。雇用と所得への悪影響が連鎖的に拡大することはあり得ると考えておく必要があるでしょう。最近日本の事業者からの問い合わせが増えています。中国での生産が止まってしまっているために、緊急にベトナムで生産ができないかとの問い合わせです。東京オリンピックで使う資材の生産が中国で止まってしまい、緊急にほかの国で生産できないかという相談もあります。今までにない事態に各国、各企業は様々な対応を図り始めています。この新型コロナウィルス騒動はどこまで世界に影響を与えるのかかなり深刻な事態であると思わざるを得ません。

以上