2019.10.12

1、消費税増税をする理由

 日本では101日から消費税が10%に増税されました。今までの8%から2%増税ということになります。同時に軽減税率が導入され、飲食料品と新聞などの生活必需品が軽減税率の対象になります。ではなぜ消費税を増税する必要があるのでしょうか?現在の日本は少子高齢化による現役世代の減少と高齢者の増加という問題を抱えています。高齢者の増加は医療費や社会保障費を増大させます。この増え続ける社会保障費の財源確保が増税の目的です。所得税や法人税の増税も考えられるのですが、消費税を増税する理由は、所得税や法人税の負担は現役世代に集中的に負担が増えることになります。そのため高齢者を含めた国民全体から広く負担を強いる消費税増税が妥当との判断になります。これが政府の一般的な考え方です。

 令和元年直近のおおよその税収は、所得税が19.9兆円、消費税が19.4兆円、法人税が12.2兆円くらいだそうです。消費増税によって約5.6兆円の税収増加が見込まれるようですが、その使い道は2.8兆円を国債などの借金の返済、1.7兆円を教育・子育て支援、1兆円を社会保険の充実に充てるということです。

 世界では消費税が日本よりも多い国がたくさんあります。私のいるベトナムは付加価値税(VAT)と言いますが、以前から10%でした。社会保障の充実した北欧の諸国などは25%の国もあります。スウェーデン、ノルウェー、デンマークです。イタリアは22%、フランス、イギリスは20%です。中国でも17%です。低いのはタイ、シンガポールが7%、カナダ、台湾が5%です。当面消費増税の見込みはないようですが、ヨーロッパ並みの税率にならないという保証はありません。

2、ベトナムの税制の特徴

 ベトナムでは日本の税と似たような税制はあります。主な税は個人所得税、法人所得税、付加価値税(日本の消費税に近い)、外国契約者税、輸出入関税などがあります。それ以外にも天然資源税、非農地使用税、環境保護税などもありますし、たばこ、酒類、マッサージ、カジノ、ゴルフなどは富裕税とでもいえる特別消費税などもあります。ただ、私がベトナムで働いてびっくりすることがあります。

 それはアパートの家賃などを現金で支払ったり、公式領収書(ベトナムでは赤領収書といいます。理由は支払った人に渡される領収書がピンク色であることからそのように言われています)が必要ない場合は、消費税に当たる付加価値税を取らない場合が多いことです。また、ベトナム人は現金取引を好みます。その時には、受領したお金の領収書として公式領収書を発行しないことがあります。なぜ現金取引を望むかというと、所得税も消費税も支払わないようにできるからです。そのような公式取引と非公式取引を行っているのがベトナム社会です。二重帳簿が当たり前のように行われているのです。

 それ以外にもベトナムで働く労働者は、900VND(日本円で45000円程度)までは所得税が発生しません。工場労働者の平均的給与が3万円程度ですから、50%程度の国民(もっと多いかもしれない)は所得税を支払っていないのではと思います。その反面、外国人はかなりの所得税を支払っています。税率は給与の額を段階的に税率が異なります。金額により税率5%の金額から、5%刻みで税率が変わっていきます。最高税率は35%の税率になり、多くの日本人駐在員は給与の一部にはその税率がかかります。法人税は20%ですが、多くのローカル企業は二重帳簿をしていると思われますので、法人税はあまり支払っていないと思います。法人税をたくさん支払っているのは、数少ないベトナムの大企業と外資企業がほとんどではないかと思います。また、関税については外国との取引に関しての税ですので、製品の価格に転嫁されることになります。

 外国契約者税というのは、ベトナムで法人税を支払わない企業がベトナムでの取引で海外送金を受けるときに、みなし法人税やみなし消費税に当たる税金を海外送金する際に発生する税制です。

 ベトナムでは大都市部で不動産価格が大幅に上昇しています。そのため不動産の使用権(ベトナムでは所有権ではありません)を持っている人が、急激な賃貸料金のアップで富裕層になっています。ところが、固定資産税などはほとんど軽微ですし、相続税などはありません。それに加えて二重帳簿をしている人も多いので、富裕層でもそんなに税を負担しているとは言えません。ベトナムの税収入は外資系企業や外国人駐在員頼みともいえます。

一方で外国人であってもベトナムでの所得税を支払わない人たちもいます。問題なのは暦年で183日未満のベトナム滞在者は全世界所得になりません。この場合、通常はベトナム役務での収入はベトナムでの所得の20%相当分が課税されることになっています。しかし、実際に支払っている人は少ないのが実情です。日本人の多くの場合は日本のみで所得税を払っています。ある中国人に話を聞いたことがありますが、中国でもベトナムでも払っていないというような回答がありました。ベトナム政府もこのような人の所得税をどうやって回収しようかは考えているものと思います。外国人のビザが3か月を超えて取れなくなったのはこのような事情があるからです。

3、税収が少ないことによるベトナム特有の問題点

国民にとっては税金が少ないことはいいことだと思うでしょう。現実に日本でも大企業の本社がある地方都市などは地方税が少ない割に公共事業などが多い街があります。代表的なのが豊田市です。稼ぎ頭がいるところは問題がないですが、いなくても税金が安いところは、公共事業や社会福祉があまり進みません。ちなみにハノイやホーチミンで地下鉄や都市鉄道の建設が進んでいます。ハノイは中国のODAで、ホーチミンは日本のODAで予算がついていますが、それだけでは足りなくなり建設計画は大幅に遅れ始めています。

 また、2021年からの公務員給与の改定を審議していますが、最低額が414VND(日本円で2万円)、最高額が2670VND(日本円で13万円)程度です。国立機関で働く公務員、教師、医師などもその程度の給与水準ですので、賄賂を求める行為が後を絶ちません。先進国の上場企業は、当然賄賂を払うことは犯罪ですのでそのような要求には答えるわけがありません。そのため優良企業との取引が減っていくと言う悪循環になります。

 一方庶民も富裕層が税金を払ってないことを知っているので、自分たちも払わないような努力をします。税金を支払うことが国民の義務であることを体感している日本人とは違うようです。その悪循環でますます国の歳入が減っていきます。税金を払うことが国民の義務だという意識を生むことがいかに大切かを感じます。税収が少ない政府は、収入少なくなると急に輸入品の通関が厳しくなったり、外資企業に税務調査をすることが多くなり、外資企業から追徴課税を徴収することなどが頻繁に行われることもあります。

 東南アジア全体で似たような状況だとは聞きますが、国民から税を徴収する仕組みが機能していないと国の発展は次の理由で阻害されます。その理由としては第一に自由競争が機能しなくなることです。先進国には賄賂を悪として規制する法律があります。賄賂が横行すると賄賂を出した方が優遇され、価格や技術力による競争が排除されます。それによって自由競争による経営改善や技術革新が進まなくなります。自由競争が守られることは技術革新する社会、進歩する社会を守るということです。

 第二に国として重要な社会インフラにお金をかけられなくなります。道路、電力など社会インフラの整備ができないと産業育成に影響が出ます。その中で最も重要なのは教育だろうと思います。国を発展させるのはそこに住む人々です。その教育の充実が国を発展させる原動力です。

 税徴収が機能していないことは、国も成長を阻害する要因となります。明治維新の日本が急成長できたのも明治政府の税を徴収する権力が大きかったことが急成長できた理由です。

4、GAFAの法人税はどこに行く。

 今年日本に帰った時に「GAFA」という本を購入して読んだのですが、そこに書かれていた内容は刺激的でした。GAFAとは、Google,Apple,Facebook,AmazonIT会社4社の頭文字をとった言葉です。その四騎士が世界をつくりかえたことを伝えています。GAFAが生み出した「新ルール」とは、「崇高なビジョン」を掲げること、「利益」はいらないこと、法律は「無視」できること、競争相手は「資金」で踏みつぶすこと、人間の本能を「刺激」すること、ほとんどの人は「農奴」になること、などタイトルバック(帯)でこのような刺激的なフレーズを使っていました。歴史上今までにない企業が現れたことを示しています。

 ところでGAFAについても税の負担については国際的な問題になり始めています。日本人がAppleで買い物をしたり、Googleで検索をしたり、Facebookで友達に連絡したり、Appleで音楽を聞いたりして、そのサービスは日本人にも浸透しています。しかし、日本人相手に商売をしながら、ほとんど日本では法人税を払っていません。アメリカで法人税を払っているかと思う人もいるかもしれませんが、タックスヘイブン(租税回避地)へ移転して、その税金さえものがれているケースがあります。

そのようなことを可能にしたのがビジネスの変化です。第一の変化はモノからサービスへの転換がされたことです。モノは明確ですが、サービスは無形でどこがサービスなのかの境目が明確ではありません。第二の変化は「プラットフォーム」というビジネスモデルが生まれたことです。この言葉は本来は基盤や場を意味する言葉ですが、ITの世界では、顧客向けに製品やサービスを展開する環境の意味合いで使われています。第三の変化は、企業の価値が「無形資産」に転化したことです。デジタル財やコンテンツの本質は著作権や特許権です。企業価値は無形資産で形成され蓄積しています。無形資産ですので、価値がどの程度あるかを評価するのは難しいものになります。また、権利の移転も簡単なので、タックスヘイブンに移転をして課税を回避することも可能です。第四の変化は「ビックデータ」の存在です。膨大な情報から相関関係を分析し、次のサービスをつなげていくのです。個人の嗜好や集団の傾向を分析し、ユーザーの行動を予想し、販売に活用しています。ベトナムでも普及し始めているグラブなどのカーシェアリングサービスもビックデータの蓄積によって可能になります。

 そのような企業は消費者の住む国の政府に課税されずにビジネスが可能になっています。国境を越えてビジネスを行う場合、現地に支店などの物理的な施設がなくても規模を拡大することができます。デジタル経済における価値は、先進的なビジネスモデルや無形資産化した企業から生まれます。現在の国際課税のルールでは企業の居住地(本社のあるところ)に課税が生じることになります。

 しかしながら、このようなビジネスモデルは、消費国のビッグデータを集めることから成り立ちます。このデータの集積地で課税がされないとはおかしいと考えが出てくることは当然と言えます。今後この問題は国際的に議論になっていくことでしょう。

5、良い税金と悪い税金

 原始時代においても、税に似た制度があったようです。考古学から類推すると収穫物は一旦神にささげられ、民に再分配をされていたように考えられています。そこで力を発揮するのは神と話ができる祈祷師です。邪馬台国の卑弥呼などは実質的な税の配分の決定する役割を持っていたとみることもできます。日本では大化の改新後に中国の税制を参考に「租庸調」という税が制定されました。租は農民に課せられる税で収穫の一部を税として納めました。庸は労働をするか、物品を納めるか二者択一の税でした。調は布を納めるか、地域の特産物を納める税でした。このようなしっかりした税制度は中央集権国家の土台を作ったと言えます。

 しかし、重税を課したために民衆の反乱が発生するケースもたくさんありました。税がもとで革命に発展したケースはたくさんあります。16世紀オランダがスペインから独立したオランダ独立宣言があげられます。スペインに支配されていたオランダですが、スペイン国王フェリペ2世によって、オランダの都市に重税が課せられました。それに反発してオランダは独立を勝ち取りました。18世紀のアメリカ独立も植民地支配をしていたイギリスが経済の困窮のためアメリカの植民地に重税をかけたことがきっかけです。フランス革命も特権階級が無税にもかかわらず一般庶民の重税に不満を持つ人々の反乱から起こったものでした。日本では明治維新以降、大日本帝国時代は大きな戦争に突き進んでいきましたので、増税が繰り返され、国民の生活は圧迫された時代でした。これらの実例から税金を取ることで支配の基盤が確定し、安定した政治体制を築くことができる反面、人々の不満の要因になり、革命がおこるきっかけにもなります。

6、税の未来

 税とは支払う側の立場で前向きにいうと「公的サービスを受けるための代金」ということができます。ただ、公的サービスの配分については、その年の内閣によって閣議決定され、その翌年度の国家予算が国会の承認を受けることになります。選挙で決められた代表が、その配分を決定することになります。国会で重要なのは必要な法律を整備することと税の配分を決めることです。その意味では選挙に行かない人は税金の配分には文句は言えないかもしれません。

 税の配分の仕方にはその時の政権の意向が反映されます。国防費を重視したければ、防衛費に配分されるでしょう。幼児教育や社会保障を重視しようとするならばそれに配分をするでしょう。企業や産業を育成しようとすればそれに配分するでしょう。税の配分ほど政権の意向を反映するものはありません。

もし税がないとしたら、自分の稼いだお金を全部自分のために使うことができます。その方がいいと考える人もいるかもしれませんが、結局お金がない人は、今まであるサービスを受けることができません。極端ですが、わかりやすくするために税がないと仮定します。普通に今まで頼っていたものが有料になります。警察に相談する時も相談料や派遣料が取られることになるでしょう。消防も出動したら、後日サービス料を請求されます。道路や水道だって使う人が負担しなくてはなりません。日本人にとって税がない世界は考えられないと思いますが、もし税がなければどうなるかは想像してみてください。

 将来の税を考えるときに社会がどのように進んでいくかを予想することが大切です。少子高齢化になっていく日本では、高齢者にたくさんのお金を使うことができなくなるでしょう。高齢者にたくさんお金をかけなくてもいい社会システムにお金をかけることになるように思います。たとえば家族で介護する人に所得控除をするとか、老人の社会参加や健康維持に税金を投入するなど高齢者が健康を維持するためには資金を投入するけれど、延命治療を継続することには税金をあまり投入しないということになっていくのではないでしょうか。

 人口減少となる日本社会では働き盛りの層から税金を取ることは限界になりつつあります。その意味では消費税増税はやむを得ない選択であろうと思います。日本に働きに来ている外国人にも税を負担してもらうことは大切です。また、IT企業への課税については、あらゆる国が課税の仕方を検討することになるでしょう。その中で特にアメリカと中国が貿易戦争ともいえる状況にあります。その底流にある要因は、今後の世界を変えるであろうAIITによる社会の変化に対してどちらが主導権を取るかの問題です。プラットフォームをどの国を中心に支配する仕組みを作るかです。GAFAはアメリカの企業ですが、それに対抗できる中国の企業が急速に育っています。それは略して「BATH」と言われます。「バイドゥ」「アリババ」「テンセント」」「ファーウェイ」の4社の頭文字を取った言葉です。アジアにいるとアメリカの存在も大きいと感じますが、中国の影響は徐々に増していることを痛感します。税の問題も超大国の競争の中で、秩序が決められていくのではと思ってしまいます。

以上