2019.11.23

1、日本を襲う台風、東京オリンピックマラソンの会場移転問題

 それにしても日本に上陸する最近の台風では大きな被害を残しています。9月の台風15号は強烈な風によって、千葉県内で停電など甚大な被害がありました。それに続き10月の台風19号は、日本国内の広い範囲に降り続いた大雨により、あちこちで洪水や堤防決壊を引き起こし、甚大な被害を与えました。このように頻繁に台風が発生し、それも以前より大きな被害になることから、地球温暖化の影響と言う人が増えています。地球温暖化によって、海水温が上昇することから、発生した台風に水分を大量に供給して、台風の規模が大きくなる傾向があると言うのです。

 また、来年に控えた東京オリンピックにおいて、マラソンや50㎞競歩の開催地を札幌に移動することになりました。これも近年の温暖化の影響でとても東京の夏の期間にマラソンなどの競技を行うのは生命の危険をもたらすほどの環境であることの認識からIOCが主張したものです。

2、「環境少女」グレタ・トゥンベリさんの訴え

 国連の気候行動サミットで演説した16歳のスウェーデンの少女グレタ・トゥンベリさんの演説が大変反響を呼びました。彼女の肩書が環境活動家となっているように、単なる学生の発言の域を大きく超えています。

 この演説は次のように始まります。「私たちがあなたたちを注意深く見ている。それが私のメッセージだ。」と各国の首脳に対して挑発的な内容で始まっています。彼女の話の内容は簡単にしか触れませんが、各国の首脳を指して言っているのは次のように主張です。「あなたたちは空っぽの言葉で私の夢と子供時代を奪い去った。人々は苦しみ、死にかけ、生態系が崩壊しかけている。私たちは絶望に差し掛かっているのに、あなたたちが話すのは金のこと、永遠の経済成長というおとぎ話だけ。なんということだ。」

「若者たちはあなたたちの裏切り行為に気付き始めている。すべての未来世代の目はあなたたちに注がれている。私たちを失望させる選択肢をすれば、決して許さない。あなたたちを逃がさない。まさに今、ここに私たちは一線を引く。世界は目を覚ましつつある。変化が訪れようとしている。あなたたちが好むと好まざるにかかわらず。」

 2018年スウェーデン語で「気候のための学校ストライキ」という看板を掲げて国会外で活動を始めるようになってから有名な活動家になったようです。活動家へのきっかけは、8歳の時に気候変動の話を聞いてから何も対策を打たない社会に対して理解できず、最初は無気力になり、精神的な不安からアスペルガー症候群という病気を発症したとも伝えられています。本人はそれを病気とは言わず、「スーパーパワー」と言っているということです。また、飛行機に乗らない、肉を食べないなど、二酸化炭素排出の要因になるライススタイルを極力避けていることも有名です。

 そのようなパワフルな少女ですが、ネット上の評価ではかなり厳しいことが書かれています。トランプ大統領の「彼女は明るく素晴らしい未来を夢見る、とても朗らかな女の子らしい。ほほ笑ましい姿だ」 という皮肉なツイッターをしたことは有名ですが、ネット上の反応は賛成もある反面、少女だったら精神的に傷つくだろうと思われる批判にさらされています。批判の代表例は「あの子に世界の複雑さを教えてやれ」、「精神的に病んでいる」、「活動家の大人に操られている」というような批判です。ただ、最低限思うのは自分が考えていることをはっきり言えることは素晴らしいことだと思います。自分お考えを伝えることは勇気がいるものです。

3、「環境少女」グレタさんはなぜ批判される?

 16歳という若者のの歯に衣着せぬ発言に感動をする人がいる反面、16歳だからこそたたかれている側面もあります。義務教育を終えたばかりの16歳ですが、高校を休んで気候変動のデモ活動をしてていること自体への批判です。また、ニューヨークの国連に気候変動サミットに向かうためにヨットで大西洋を横断したことも批判の対象になっています。ヨットにした理由は、飛行機がCO2の排出量が多いので、環境にやさしいヨットにしたのが理由ですが、ヨットはお金がないと買えません。今回はスポンサーが提供してくれたのです。スポンサーに操られているだけとの批判です。また、ヨットを戻す乗組員が飛行機を使ってニューヨークに行っていることは、単なるパフォーマンスと揶揄されてもいました。演説の内容がかなり厳しい言葉での批判でしたので大げさすぎる、何も経験しないくせに勝手なことを言っているとの大人たちがカチンときた的な批判も多くありました。このような批判をする人は、やや大人げないとは思いました。

 ただ何よりも根源的な批判は、環境活動家や左翼的な人たちが子供を利用して、自分たちが主張したい政策に有利な方向に向けようとしているという批判です。左翼的な思想に洗脳されていると決めつける人たちも数多くいました。一概には言えないですが、このような批判をする人たちは、生活の基盤が化石燃料に依存していたり、経済成長のために火力発電所が必要だったり、自動車や航空機の産業で生活している人たちもたくさんいます。畜産農業にもCO2が影響しており、特に牛肉の生産量が増えるとCO2は増大するようです。ウシが食用処理されるまでに食べる穀物の量や、ウシのたい肥から発するガスなどの量が温暖化に影響をしていると言います。例えば牛肉1キロの生産過程で排出されるCO2は重さ16キロ相当で、同じ1キロの豚肉生産の4倍、鶏肉に比べれば10倍以上だと言われています。

 トランプ大統領のように支持基盤が化石燃料を利用する自動車産業の労働者だったり、大規模畜産業だったりします。CO2削減の真逆の産業界の人たちにとっては、生活の基盤を失うことにつながる主張だからこそ温暖化対策と言っても素直には受け入れがたいことは理解できないわけではありません。

4、地球は温暖化していないとの主張もある

 ところが本当に地球は温暖化しているのかを問う科学者もいます。CO2を原因とする温暖化は起こっていないとの主張です。地球の温暖化は、長い地球の歴史の中では温暖化したり、寒冷化をしたりを交互にサイクルを持って移行したりしているという主張です。CO2が温暖化の原因であるとする考え方は、CO2を主とする温室効果によって地球はまんべんなく大気が暖められて、気温が高くなったり、海水温も上がり、氷河も解け始め海面が上昇しているという主張です。しかし、一部の学者は都市のヒートアイランド現象は現実に起こってはいるが、地方ではそれほど気温の上昇はないとの主張もあります。地球温暖化は嘘であるとを主張している人たちもいます。環境活動家は金もうけのために嘘をついているとの極端な主張もあります。

 温暖化が嘘であるとの主張の代表例がトランプ大統領です。今までのツイートにはその考えが典型的に表れています。「地球温暖化の概念は、中国がアメリカの製造業と競争を避けるため作り出されたものだ」、「この美しい中西部は、風の温度がマイナス60度になり、最低を更新した。寒すぎて外に出られなくなるだろう。地球温暖化はどこへ行ったんだ。早く戻ってきて温めてくれ」などが代表的な例です。トランプ政権の目標達成にとって、石炭産業や大量の排気ガスを出すアメリカ車の復活のためには、温暖化の主張は害を与えるのです。また、これらの産業の労働者たちが有力な支持者層です。

 一方、日本でも温暖化は嘘と主張する人もいます。代表的な例は、「化石燃料に頼らないといけない発展途上国の経済発展を抑制するため」、「環境団体や原子力推進団体が地球温暖化を利用して自身に有利になるようにしている」ために温暖化を利用しているとの考え方で、それらを主張する人は環境問題で金もうけをしようとしているのだとの批判です。

5、温暖化だけではないベトナムの深刻な大気汚染

 温暖化以外に新興国の実情を伝えておきましょう。大気汚染を語るときに話題になるのがPM2.5という値です。この単語は意味は知らなくとも使われることが多くなっているのでピンとくる人は多いと思います。ベトナム人にもそろそろ浸透してきた言葉です。浸透する理由は、まさに今大きな社会問題になろうとしているからです。PM2.5とは工場の煙や排ガスなどから作られる微小粒子状物質のことを言います。大気中に浮遊している直径2.5マイクロメートル以下の非常に小さな粒子のことです。1マイクロメートルの大きさは1mmの1000分の一というので非常に小さいことがわかります。PMとは、Particulate Matter(粒子状物質)の頭文字をとっています。この発生の原因はものの燃焼によって発生したり、土壌・海洋・火山の噴煙によったり、化学反応によって発生することもあるようです。

 非常に小さいので肺の奥深くに入り込み、ぜんそくや気管支炎などの呼吸器疾患の原因になることはもちろん、循環器系疾患のリスクも上昇させると考えられています。最近ベトナム人はバイクに乗る時に大きな布製のマスクをはめています。これもPM2.5を吸わないようにしようと考えているからでしょう。日本ではPM2.5は中国の北京などの大気汚染の報道で知られるようになったと思います。日本にいる方々は中国だけの深刻な問題だと思っているかもしれません。しかし、今年の927日のニュース(日本語訳のViet-Jo Newsに出ていますが、もともとベトナムの新聞を訳したものです)には、次の見出しが出ていました。

「ハノイとホーチミンの大気汚染、世界1位と3位に」の見出しの後に、次のリードが続きます。「大気汚染の程度を示す空気質指数(AQI)は、926日午前850分時点で、ハノイがインドネシア・ジャカルタを抜いて世界1位になり、ホーチミン市も3位になった。これによりベトナムの2大都市における大気汚染の深刻化が浮き彫りになった。」と報じています。926日の一定時刻の数値なので常時ワースト1位と3位ということではないようですが、両都市とも深刻なレベルになっていることを示しています。ベトナムに住んでいる私たちは、ハノイの大気汚染レベルは相当高いことは聞いていました。ハノイの駐在員からは、喉の調子がおかしくなるなどの不調を伝える人もいました。2016年ごろからハノイの大気汚染度は世界ワースト2位と言われていましたが、ますますその深刻度が増しているようです。

 ホーチミン市でも深刻なレベルになってきました。最近ですが、私も話を続けていると声がかすれてくることがあります。タバコをやめて長くなるので、痰は以前より少なくなったのですが、声がかすれるような状態になることは大気汚染が影響していると思われます。NHKワールドのニュースなどを見ているとインドネシアのジャカルタ、インドのデリー、タイのバンコクも大気汚染が深刻になっていると聞きます。アジアの主要都市も同じような問題を抱えています。

 ベトナムの大気汚染がどれほど深刻かをJICAの専門家の山崎寿之さんが答えている記事を見つけました。それによると「PM2.5というよりは建設現場やビルの取り壊しなどの影響で砂埃が空気を汚す大きな原因になっている。ただ、二酸化硫黄や二酸化窒素などの濃度は基準に収まっているので、データが不十分なため世界ワーストと言われることもあるが、それはちょっと言い過ぎだ。」とは述べていますので、ややほっとする記事ではあります。

 経済発展に伴う人口増加、車やバイクの増加、建設現場の増加は間違いなく大気を汚染し、今後の健康被害を増やすことになるでしょう。ベトナム人の男性は喫煙率も高く、都市部はそのような状態なので、呼吸器系の病気になる人は今後増えていくことが容易に想像できます。多くの人が布製のマスクをつけてはいますが、日本の花粉症シーズンに見られる高機能なマスクではないので、気休めの対応策と言ってもいいかと思います。

6、グローバル資本主義 VS. 反グローバル資本主義

 今回は環境問題を取り扱いましたが、話の落としどころとして選らんだのは別の視点です。「地球温暖化は紛れもない事実」との主張はリベラル派あるいは左翼的な思想。「地球温暖化は嘘だ、単なる気候変動だ」との主張は、保守派あるいは右翼的な思想だ、と一般的には思われるかもしれません。ところがそれらの主張をする傾向がある人たちを経済活動に対する考えた他の違いとして分類することもできます。それは「グローバリズム資本主義」か、「反グローバリズム」かという違いです。

「グローバリズム資本主義」とは、地球を一つの経済圏と考える資本主義思想です。その中心に位置づけられるのが、国家に左右されない民間の企業や国際的な金融機関です。ICT技術の進歩でそのような考えが定着する基盤ができました。先月お話をしたGAFAなどの例でわかるかと思います。企業がグローバルな市場をまるで植民地のように管理ができる経済になってきています。グローバル経済で君臨できる企業は、最適な場所にサービスの拠点を置き、最適な場所で納税をしています。極端に言えば、アメリカのIT企業のプラットフォームによって、日本はIT会社に植民地化されているともいえる状況です。これらの企業はサービスを提供している日本という地域に税を支払うのではなく、自分の都合の良いところで支払います。多くはタックスヘイブンに本社を移動させるなどをします。

 日本への利益の還元はなく、政府の重要な役割である所得の再配分が行われなくなります。貧しい人を救うことができなくなります。合わせてグローバル企業との競争にさらされる企業は、従業員の非正規社員化などコスト削減を強いられます。最終的に敗者は買収されて、グローバル企業に飲み込まれます。その結果、日本でも貧富の格差が拡大すると同時に世界でも貧富の格差が拡大していきます。

 企業活動においてグローバルで自由な活動を認めようとの考えに対して、「反グローバリズム」は、お金と主権をグローバル企業には渡さないとの考え方です。グローバル経済の弊害を自国第一主義で守ろうとの考え方です。グローバリズム資本主義の弱肉強食的な展開が、反グローバリズムを生んできた側面があります。新興国が成長をはじめた今、以前のように欧米列強が植民地政策で富の採集をできなくなりつつあります。新興国の安い製品や労働力によって、自国の収益が奪われるなら、それらを排除しても自国民の利益守ることが一番大切だとの考え方です。その思想的特徴は、国益を最優先、愛国心、自国の法律・文化・伝統重視、ナショナリズム、自国の中産階級・中小企業を支援といったところでしょうか。

 それに対して、グローバリズム資本主義の考え方の特徴は、究極の資本主義、愛国心より博愛精神、国境にとらわれない活動、合理主義、環境保護に熱心というところでしょうか?GAFAなどは環境問題にも熱心です。技術の進歩や研究に熱心なものが将来利益を上げられる可能性があると考えます。そのためにはお金が必要です。お金があればチャンスが広がり、新しい技術を生み出すことができるでしょう。

 東西冷戦時代は資本主義は右翼的思想、社会主義は左翼的思想と思われていました。ところが現代社会において環境問題一つをとってもそれを言うのは左翼的、反グローバリズムが右翼的という表面的な評価はできなくなりつつあります。行き過ぎたグローバリズムとは、お金の力が支配の力になっている状態です。お金のある企業が社会を支配しています。それに対して反グローバリズムは、国家主権を強固にすることで、自国の利益を最優先にすることです。いずれにせよ、どちらかを選ばないといけないとしたら、お金を持った企業に支配されるのか、権力を持った国家に支配されるのかの選択肢しかありません。グローバル展開する企業、国家主義に進もうとしている従来の先進国、グローバル展開により経済成長しようとする新興国のそれぞれの思惑がぶつかっています。以前植民地を拡大していた先進国が自国第一主義になろうとし、新興国が逆にグローバル展開を求めるという逆転した状況が表れています。

 7、世代間の分断も生む環境問題

 もう一つの側面は世代間の対立です。古い世代の価値観と若い世代の価値観に齟齬が生じていることです。古い世代は今までの成功した価値観を取り戻そうとします。アメリカの没落し始めた中間層は、アメリカンドリームを取り戻したいと夢を見ます。たとえば大型のアメ車を製造する自動車産業を復活させようなどと考えます。

 その一方で、若い世代は自分が年を取った時に幸せな生活ができるかに不安を持っています。年金問題もしかりですが、環境問題も世代間の違いがはっきりしています。最近有名にになった話があります。それはニュージーランドの国会での出来事です。「ゼロカーボン法」に賛成の立場で演説していた25歳の女性議員は、その発言中に年配の議員のヤジを受けました。その議員は一言「OK Boomer」と発言しました。その一言でヤジは止まりました。Boomerとはベビーブーム時代に生まれた人たちのことを指します。ベビーブームは世界的に多少の誤差はあっても1945年から1964年ごろまでに生まれた世代が対象になるようですが、どの国でもおおよそ60歳以上の世代のようです。みんな年配者になってきています。若い人が年配者から古い考えを押し付けられた時に、「OK Boomer」という言葉を使うのだそうです。冷やかに「ハイハイ」とあしらうニュアンスがある言葉です。その言葉の裏の意味は、「老害は勘弁して」という若者たちの心理が表れているようです。

 日本ではあまり政治的な意見を言う人が少なくなりました。一見、分断がないように見えますが、深層的には広がっているのかもしれません。世界に拡がる企業と国家の利益相反、年配者と若年層の価値観の相違。その中で地球温暖化という問題が分断と対立を生んでいます。ただ、私には結果的にこの分断と対立を経て、今までとは違った物事の考え方が生まれる可能性は高まっていることに期待をしたいと思っています。

以上