2019.5.10

1、拡大を続ける在ベトナム日本商工会議所

 日本の年度始めは4月であることから、海外の日本組織も4月が年度のスタートになります。ベトナムで唯一の公式な日本人組織は、各地域にある日本商工会議所になります。ベトナムでは3か所に日本企業が加盟できる商工会議所があります。ハノイとその近郊の会社が参加するベトナム日本商工会議所、ホーチミン市とその近郊の会社が参加するホーチミン日本商工会議所、ベトナム中部に位置するダナン商工会議所があります。20193月集計時点でホーチミンが1022社、ハノイ(ベトナム商工会議所)が727社、ダナンが130社が加盟しています。

 実は昨年商工会議所に名称が変更されたのですが、それまでは商工会でした。商工会議所の英語表記は、Chamber of Commerce and Industryとなりますが、商工会はBusiness Associationです。商工会議所になってからは、組織のトップの呼称も会長から会頭に代わりました。ベトナムにおける影響力も大きくなっているので、名称も昇格を認められたとみたほうがいいようです。

 私が入会した2008年のホーチミン日本商工会は300社程度でしたから、その10年間に700社近く増えたことになります。アセアンにある近隣諸国と比較してもベトナムが最も多くなりました。ベトナム1879社、タイ1762社、シンガポール825社、インドネシア689社、フィリピン676社、マレーシア585社、ミャンマー388社、カンボジア258社、ラオス94社となっています。タイ、マレーシア、シンガポールなどは、以前からも日本企業の進出は盛んでしたが、近年はベトナムが日本企業の受け皿になっています。

 また、ベトナムの2017年在留邦人はホーチミン市が9464名、ハノイ7802(出典:日本国外務省海外在留邦人統計)、2018年ベトナムを訪れた日本人の人数は826,674人(出典:ベトナム政府観光局)となっているようです。

 逆に日本在留ベトナム人は201144,444人だったのが、2018330,835人と急増しています。日本を訪れたベトナム人の推移も、201141,048人だったのが、2018389,004人とこれも急増しています。日本在留ベトナム人が急増しているのは、技能実習生やベトナム人留学生が急増しているからと思います。日本を訪問したベトナム人が増えているのは、観光客が増えているからでしょう。このように日本とベトナムとの関係は、以前とは比べものにならないくらいに拡大をしています。

、観光客が急増する日本

 東南アジアの観光客が増えているのはいくつかの理由があります。東南アジアの経済成長が続いているからです。各国の経済が成長しており、富裕層のみならず、中間層が増加しています。それらの国々の経済成長が観光への関心を高めています。また、SNSやスマートフォンの普及から、親しい人が海外旅行をした画像などを見ると自分も行きたくなる人がいるでしょう。

 それに近年LCCLow Cost Career)が増えてきました。ベトナムでは日本に定期便があった航空会社はベトナム航空のみだったのですが、昨年からベトジェットエアが、今年からはバンブー航空が日本に就航するようになりました。東南アジアからは67時間程度飛行機で行けますから、アクセスも便利であり、航空券が安くなれば自然に観光客は増えていくでしょう。

 また、東南アジアの人たちに対して、入国のビザが緩和し始めていることも影響しているようです。2012年から日本政府は東南アジアの観光客に対して戦略的にビザが取得しやすくしています。官民一体のプロジェクト「VISIT JAPAN」の取り組みも功を奏して、外国人観光客が日本にたくさん訪問することになりました。その多くは中国や東南アジアの人たちです。

 外国人が増えている要因になっているのは、円安傾向が続いていることがあります。東日本大震災直後の2011317日には1USD76.25円をつけるなどその当時1USD=80円程度だったのが、今現在は1USD=110円程度になりました。外国人が100USDを円に両替した時に8,000円しかならなかったのが、今は11,000円になるということです。円安は日本を訪問する外国人旅行者にはメリットがあります。逆に外国製品を購入する日本人にはデメリットになります。アジアは経済成長し、徐々に豊かになっています。日本は円安で海外製品を中心に物価が上がり、庶民の生活は苦しくなる中で、産業界は外国人観光客に期待をしている構図です。

 ただそうはいっても、外国人が日本に来てくれるということは、日本が安全で魅力的な国だと知っているからです。文化や自然も人気がありますが、日本製品やアニメ、キャラクターグッズなども人気があります。まだまだ日本が魅力的な国とみられていることは日本人としては喜んでもいいことだと思います。

3、なぜ日本とベトナムの関係は深くなるのか?

 日本とベトナムとの関係を歴史的に見ていくと古くは761年にさかのぼります。遣唐使として渡っていた阿部仲麻呂はハノイを管理するために赴任をした記録が残っています。日本の例でいうと知事として派遣されたようです。16世紀には日本の朱印船がベトナムとの交易を盛んに行いました。中部のホイアンには日本人街ができていました。1900年代になるとベトナムはフランスからの独立を勝ち取るために、大国ロシアに勝利した日本から学ぼうという運動がおこります。それを東遊(ドンズー)運動と言います。その当時の青年ファン・ボイ・チャウが来日し支援を求めました。

 その後、太平洋戦争において、日本がフランス領インドシナに進駐し、1945年までベトナムに日本軍は進駐していました。日本のポツダム宣言受託の194592日がベトナム民主共和国樹立の日になり、その日がベトナム「建国記念日」という祝日になっています。その後はベトナムは、独立後の内戦や南部のフランス支配、インドシナの共産化を防ぐという名目で、アメリカの戦争へ参入しました。しかし、ベトナムはアメリカに屈することなく、1976年に国が統一しました。日本との関係は199211月対ベトナム援助が再開されてからになります。2007年にベトナムから初の国賓として、グエン・ミン・チェット国家主席が来日。その後2017年には先の430日に退位した天皇皇后両陛下がベトナムに初の訪問をしています。

 ベトナム人は親日的とよく言われますが、なぜ親日的なのでしょうか?理由はいろいろあるようですが、日本に対する信頼が高いからのようです。まずは、日本製品に対する信頼です。バイクはホンダ、ヤマハなど大多数が日本メーカーのものです。また、ベトナムでは日本企業が人気があります。給料はちゃんと払ってもらえることや待遇に関しても信頼が高いです。日本人のマナーの良さも信頼されています。そのほかドラエモンやコナンなどの日本のアニメは誰でも知っています。また健康志向から日本料理も人気が増しています。

 それ以外にも似たような文化や同属性を垣間見ることができます。宗教は仏教徒が多いのですが、タイやミャンマーと違って大乗仏教が信じられています。大乗仏教とは出家や修行をしなくてもよい行いをすれば天国に行けるとの教えで、比較的戒律が緩い仏教です。日本もほぼ大乗仏教の考え方です。その反対に戒律が厳しいのが上座部(小乗)仏教です。

 ベトナムの主食は何と言っても米です。通常のコメ以外にもコメから作る麺(フォー、ブンなど)、ライスペーパーをふんだんに使います。料理にはふんだんに野菜を使うことも日本に似ています。コーヒー以外にお茶も大好きな人たちです。食事はほぼ箸を使うのもベトナム人の特徴です。そんな生活の共通性が、日本とベトナムの関係性を強めているのかもしれません。日本人からすると文化面や食事の面でベトナムは生活しやすく、理解しやすい国なのかもしれません。

4、偽装留学生の実態

 今までは日本とベトナムがそれぞれ信頼でき、それぞれの関係性がよくなっていることを伝えました。しかし、よい関係性が損なわれようとしている負の側面についても触れてみましょう。

 日本が高齢社会になり労働力が減少する中で、国民の平均年齢が30歳程度と若いベトナムから実質の労働者を得ることが多くなりました。人が集まらない建設や農業の分野へもたくさんのベトナム人が日本で活躍するようになりました。ますます関係が深くなるベトナムと日本ですが、その関係をむしばみ始めているのが技能実習生の失踪と偽装留学生の増加です。日本人の方々にはあまり知られていないかもしれませんが、水面下ではかなり問題が蓄積しています。

 コンビニ、ホテル、居酒屋などの労働者は外国人でいっぱいです。これは留学生に与えられる在留資格のうちで資格外活動(28時間以内のアルバイト可)として認められている人です。偽装留学生と書いたのは、アルバイトの目的で実際は留学が主な目的ではないこと、また資格を取得するために虚偽記載が公然と行われていることが理由です。技能実習生は3年間同じ企業、同じ仕事につかなければなりませんが、留学生は自由に仕事が選べます。そのため留学生として日本にわたる人が増えています。ただこの留学生たちは、多額の借金をして日本に渡ります。日本語学校に支払う学費や寮費、留学ブローカーへの手数料など150万円程度も支払って日本に渡っています。親や親族からお金を借りるケース、銀行や金融業者からお金を借りるケースもあります。日本に行くと150万なんで簡単に返済できると甘い言葉でそそのかされるのが田舎に住む若者たちです。ハノイやホーチミンに出て働こうと考えていた若者が、日本に行った方がもっと稼げると考えるのです。実際、150万円も返済するのは簡単ではありません。そんな金額を払って週28時間では借金を返済できないので、違法にアルバイトを掛け持ちするケースもあるようです。

 本来「留学ビザ」は、アルバイトなしに日本に留学できる財力を持った人に認められるビザなのですが、現実にそうでない人がたくさんビザを取得しています。留学希望者がビザを申請するときには、親の年収や預金残高が記された書類を法務省入国管理局に提出します。しかし、この書類は留学生を送り出すブローカーが行政機関や銀行に賄賂を払って、事実でない数字を認めてもらっている実態があります。そのような偽装留学生が日本でアルバイトをしているのです。ブローカーや日本語学校に多額のお金を支払って日本へ渡っているベトナム人は、低賃金、重労働の日本での労働をしても借金返済に追われ続けているのです。彼らが得られる仕事は、コンビニやスーパーで売られる弁当や総菜の製造工場、宅配便の仕分け、ホテルの掃除など人出不足が深刻な深夜の重労働が多いようです。

5、ベトナム人の親日はいつまで続くのか?

 その借金返済のため、違法な仕事を引き受けたり、窃盗など犯罪に走る場合も多いようです。アルバイト漬けの生活を送るうちに留学生たちは現実を思い知るようになって、日本語学校などに搾取されていることに気が付くようになります。学費の支払いは何とか避けようと失踪する人たちも増えています。このような状況に巻き込まれた外国人により、対日感情の悪化を生んでいる側面があります。

 一方少子化が進む日本では、大学、専門学校などの経営が厳しくなっています。そこで外国人留学生を受け入れて延命している傾向があります。外国人留学生にアルバイトをさせるためだけに授業料を取っていると言えないわけでもありません。留学していることが在留できる条件になります。

 また、ベトナムで技能実習生や留学生で日本に行く人たちの多くは地方出身者です。経済成長が続くベトナムですが、収入を得られるのは大都市の人たちだけです。特に大都市に不動産を持っている人が急速に金持ちになっています。その中でベトナム人ブローカーは、田舎の若者をターゲットに人身売買のような行為をしています。申請には行政や銀行もそのブローカーに加担をしています。

 このように日本の労働者不足を補っているのが外国人ですが、特にベトナム人は親日で日本を発展した国と思っているので、多くの人材が入り込んでいます。ベトナム人は韓国にもたくさん行きますが、ベトナムでは日本企業のほうが人気が高いこともあり、将来日本企業に就職できることを考えて日本行を選ぶ人が多くいます。そんなベトナム人にとって、日本の現実は劣悪で現実を知ることで日本嫌いになる人もたくさんいます。このような現実があることを多くの日本人は知っておいてほしいと思います。ここ10年ほどで2倍に増えている日本語学校ですが、偽装留学生を受け入れる隠れ蓑となっている学校も多いようです。

 今年4月から導入された特定技能という新しい在留資格は、これらの悪しき問題の解消を意図している側面はあります。ベトナムで留学ビザの取得が厳しくなってきたと聞くようになりました。日本政府も問題があることは承知している表れでしょう。特定技能を持った者、技能実習生を経験した者などを労働者としてもっと日本で働いてもらおうとする制度です。ところがベトナムと日本政府は二国間協定に至っていません。日本側はこの新しい制度で中間に入って手数料を抜く組織の排除を意図していますが、ベトナム政府は人材送り出し機関から多額の手数料を取っているので、その既得権益を守ろうとしているようにも思えます。外国人労働者の問題は、それに群がる利益集団が存在していることが問題を複雑にしています。

 日本人が嫌がる仕事を外国人に任せにしたうえ、経営難の専門学校を外国人留学生の犠牲のもとに救済しているとしたら、いずれ外国人も日本を嫌いになります。大変な思いをしている外国人に群がってピンハネのような形態で利益を上げる人たちがいることも、将来に禍根を残す可能性があります。ベトナム人が日本に行くのは、たくさん稼いで親族にいい思いをさせてあげたいと思っている人です。そんな健全な考えの若者を利用して稼いでいる事業者を野放図に放置すれば、長い歴史の中で築き上げた親日という空気が変化してしまうかもしれません。

以上