2019.7.10

1、NHK「ノーナレ」で放送されたベトナム人技能実習生の悲惨

 先月の6月24日(月)私が取材に協力したテレビ朝日「報道ステーション」の特集が放送されました。そこに出演した方と一緒に日本レストランでその番組を見ていました。内容は米中貿易戦争に絡み、中国からベトナムに工場を移転するケースを取材していました。BW Industrial社で日本デスクを担当する斉藤様の依頼を受けて、ベトナムで木工製品を製造輸出するジェネレーションパスの岡本社長を私が紹介し取材となったものです。斉藤さんと岡本さんが出演しました。
 ただ次の日、ネット上で話題になっていたのは、もう一つのベトナムに関連した番組についてでした。それは裏番組で放送されていたNHKの「ノーナレ 画面の向こうから」でした。今治のタオル工場で働くベトナム人技能実習生が、劣悪な労働環境の中で働いている実態を報道するものでした。1か月の残業時間が少なくとも180時間と過労死が認定される基準の倍近くの残業を余儀なくされており、140時間分の残業代も未払いになっているという内容でした。「私たちを助けてください」と訴えるベトナム人実習生の様子に、ネット上ではその企業探しに炎上状態でした。
 放送では企業名は特定できないですが、日本ではこのようなブラック企業として晒された企業の犯人探しが始まります。根拠も乏しいのですが、該当企業と思われた企業のバッシングが始まります。今治のタオルの不買運動をしようという書き込みもありました。ただこれは氷山の一角であり、このような話はあちこちで発生しているのです。正義感の強い人たちは、ここぞとばかりそれらの企業をバッシングします。ただ、問題の本質は企業の問題だけではないように思います。人を大事にしない企業はあちこちにあります。本来ならば、やめたければ他の企業に移ればいいのが通常ですが、外国人技能実習生にはそれができません。
 なぜできないかというと制度自体が、特定職種以外の従事を認めないこと、原則違う職場への移動は認められていない労働者以外の立場だからです。その職場に3年間へばりついていなければ目的の収入は得られません。特別な在留資格に基づいて、日本にいることが認められた人たちですから、厳しく法律で縛られています。その上に本国のブローカーたちに多額の借金をして日本にわたっていますから、戻されたら多額の負債が残り、親族に迷惑をかけることになります。
 現実には一部の実習生や留学生は失踪して姿をくらませています。アルバイトや職を斡旋するブローカーに手招きされて、職を転々とする人がいます。長期の仕事は足がつくので、短期の仕事を得るために転々としています。そのようなことができるのも便利に使う企業もたくさんあるということです。犯罪的な仕事の一翼を担わされることもあるようです。
 このような問題を聞くたびに思うことはあります。私は制度と目的が乖離していて、実態に合わないことが問題なのではと考えています。技能実習生とは労働者の扱いではありません。日本で技術を身につけて、母国でその技術を使い、母国の発展のために寄与するための国際協力活動として採用されている制度です。勉強に来ている外国人に企業が技術を教えていることになっているのです。公益財団法人国際研修協力機構(JITCO)のホームページには次のように書かれています。「技能実習制度の目的・趣旨は、我が国で培われた技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)の開発途上地域等への移転を図り、当該開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与するという、国際協力の推進です。 」
 人づくりを標榜するこの制度の中では、技能実習生は労働者の権利が与えられていません。技能実習生たちは実態はお金を稼ぎに来ています。またそれを使う企業も低賃金の労働力として考えています。将来母国で技能を生かすためではありません。しかし、技能実習の建前のため、他の企業に代わることもできない制度です。当然転職の自由はありません。そのような建前事態が問題を深めているように思えてなりません。

2、日本の縫製業界の実情もまた悲惨

ところでベトナムで親しくさせていただいた方の一人に、大手商社系のアパレルメーカーで財務の担当をしていた方がいます。その方はアパレル業界が置かれた現状に詳しい木下司さんという方ですが、私のfacebookの投稿にコメントをいただきました。
「日本の縫製工場、特にTシャツとか低価格帯の縫製工場は最悪と言える。大手メーカーの製品を作ったとしても、一次下請けならまずやっていけない。安い工賃を大手メーカーは上げることがない。日本にも小さい縫製工場を立ち上げ、賃金不払いで債務を作っては倒産させ、また何らかの形で法人を立ち上げ、縫製工場をやっているところがいっぱいある。何も事情を知らないベトナム人は可哀そうだ。ベトナム人は与信する力もなく、目の前のものに飛びつく。縫製業界のOEMを根本的に見直すことができなければ問題は解決できない。」この話からするとある面で絶望的な業界事情があるようにも思えます。
 日本では縫製工場の廃業が止まらないらしいのです。一部には廃業しても何らかの収入が必要なので、別の会社を立ち上げて経営をすることも多いようです。その際に労働債務をはじめ他の債務もチャラにするということです。廃業が多い原因は様々なようですが、主には若い労働者が入らず、高齢者と外国人実習生に支えられている構図になっているからだそうです。どうして人が集まらないかというと低賃金であることが主因です。賃金を上げるためには、工賃を上げることが必要ですが、下請け企業はそんなことが許されることはありません。あるいは受注数を大幅に増やすことも考えられますが、大量消費ができなくなっている環境下ではこれも難しいことです。木下さんの言う縫製業界のOEMを根本的に見直すこともまた難しい課題と思われます。採算が取れない事業は撤退せよとの声も聞かれますが、それ以外に生活するすべのない人たちには無責任な声と言わざるを得ません。

3、外国に自国民を派遣するのは重要な国家産業

 技能実習生の制度自体に問題があることも日本政府はわかっているものと思います。本年4月から施行されている特定技能という在留資格は、労働者としての立場で企業と契約する制度です。今までの技能実習生の制度を保管してもっと日本で働いてもらう制度です。その制度では日本人と同等程度の給与水準で、労働法に準拠して働くことになります。
 ところがこの制度については、7月の現在までベトナムからはまだ実績がありませんでした。それは二国間で協定が締結されていなかったからです。日本政府はフィリピン、カンボジア、ネパール、ミャンマー、モンゴルとは二国間協定を結んだようですが、ベトナムとはまだ協定が結べていませんでした。なぜ二国間協定が結ばれていないのかは私なりに考えました。技能実習生を送り出す場合は、送り出し機関という名の会社が教育と日本への渡航の手配をします。その送り出し機関の許認可と申請書類の受理は政府機関が行います。そのため送り出し機関を通さない制度になると国としての利権を確保することができません。発展途上の国にとって、自国の労働力は重要な収入獲得の手段です。一度できた制度は既得権者を生みます。そのため制度変更をする場合、今までの利権を失わないようにしたいという力が働きます。
 日本政府は日本の労働者と同様の運用をしたいので、間に仲介機関が入ると結果的に給与のピンハネのようになることから、それらの仲介者を排除したいと考えています。しかし、ベトナム政府としては、自国民を海外に派遣するビジネスモデルは、事業としても維持をしていきたいのだろうと思います。付加価値の高い商品が少ないベトナムにおいて、自国民が海外に出ることによる許認可のビジネスは重要な収益事業なのだと思います。
 ただ、日本にわたる外国人のうち多くの人材がベトナム人で占められています。ベトナム人労働者が加わらなければ特定技能を導入した意味は半減します。ベトナム政府もよくわかっていて、G20で日本に渡ったベトナムのフック首相は日本政府と会談を行い、ベトナム政府の言い分をある程度受け入れることで二国間の協定が調印されることになりました。

4、なぜ日本は労働力不足? 労働力不足の要因とは?

 外国人の労働力が必要になっているのは、日本が労働力不足に陥っていることの現れです。なぜ日本は労働力不足になるのでしょうか?
 第一の要因は人口減少でしょう。生産人口に当たる15歳から65歳までの人口はどんどん減り始めています。団塊の世代の多くが労働市場から退場していることもあり、結果的に人手不足になっています。特に大都市圏以外は若年層が少ないため人手不足の傾向が強くなっているでしょう。
 第二に、就活市場が「売り手市場」と呼ばれるようになっていることです。そのため求職者が求人を得られるようになっています。その結果、不人気の業種・業界の求人は自然に淘汰されてしまいます。また、新卒の若年層は公務員や大企業志向が強く中小企業は不利な状況に立たされます。
 第三に、労働時間、労働環境、賃金が見劣りする企業は求職者が集まらない状況になっていることです。それらの企業の一部は、ブラック企業とも言われ口コミの影響もあり、応募を避けられるようになります。
 特に人手不足の傾向が顕著な傾向をキーワードで表すと次の通りです。「地方企業」、「中小企業」、「労働条件が悪い企業・職種」、「賃金が安い企業・職種」ということになります。以前3Kの仕事という言葉がありました。きつい、汚い、危険の頭文字をとった言葉です。今でいうと3Kに田舎、中小、低賃金が重なると人材採用することはますます厳しくなります。日本の就労人口の中で、以前に比べて「シニア(高齢者)」や「女性」が増えていると思いますが、さすがに3Kの仕事に就くことは難しい事情があります。その分野の人材難を救っているのが、技能実習生などの外国人ということになります。
 しかし、外国人とはいえ、3Kや条件が悪い労働環境で働くことは避けようとします。今は技能実習生は転職ができない制度ですので、縛り付けられているだけですが、情報交換が得意なベトナム人は劣悪な労働環境の職場にはいかないということになっていくだろうと思います。現実にベトナムの都市に住む人たちは技能実習生に応募しなくなりつつあります。日本に行っても幸せになるわけではないと感じ始めている人も増えています。 

5、大幅な人口減少が進む日本の未来予想

 2024年には日本の全国民のうち3人に1人が65歳以上になります。私も3分の一の中に入ります。人口減少社会になることで、全国にあるインフラの維持管理が難しくなります。自然災害が増えている昨今の事情から、道路の保守、水道の保守などもあまり人がすんでいない地方では、インフラ整備にお金を回せなくなります。国や地方自治体がお金をかけられなくなっていくでしょう。
 また、個人の生活も質素倹約をするようになるでしょう。最近の葬式では「直葬」が増えているという記事を読みました。「直葬」は近年、急激に増えた葬儀形態の一つで、通夜や葬儀・告別式を行わず、火葬のみを行うものだそうです。故人とのお別れは、火葬炉の前で簡単な形で行われ、火葬前に数分取るだけのケースもあるようです。 そのように従来とは異なり華美な冠婚葬祭なども減っていくことになるでしょう。
 その一方で、60歳を過ぎた人がリタイヤするわけにはいかなくなります。年金の開始時期も引き下げられ、年金だけで生活することは困難なことも日本人は感じ始めています。働いて得る収入と年金を併用して、生活を成り立たせていく必要があります。ただ考えておく必要があるのは、技術革新のおかげで産業の命はどんどん短くなっています。働く年数は増えるのに、仕事の内容はどんどん変化しています。変化に合わせて仕事をこなしていく能力が問われます。そんなことを言うと高齢者には絶望的な気持ちにさせるかもしれませんが、社会自体も変わります。時間があるのでやりたいことを見つけられる人にはチャンスがあります。
 これまでの日本は大量生産、大量販売のビジネスモデルが成功のモデルでした。それは大量に安く作れば、国内にもグローバルにも市場があったからです。また、とにかく早いことはいいことでした。車も電車もどんどん早くなっていきました。宅配便もどんどん早くなりましたが、配達する人がいなくなってきました。これからの時代は早いことにそれほどの価値がないかもしれません。
 時間の感覚もそうですが、これからは特定の人に少量ずつ製造販売する時代になると思います。スーパーやコンビニで一人用の惣菜などが売られるようになっているのはその象徴だと思います。そのような時代の中では、画一的なものの考え方よりは多様な考え方が必要になります。また、経験の中で得られた多様な生き方が必要になります。違った分野の人とのコミュニケーションや外国人とのコミュニケーションで得られることで視野が広がり、寛容になることができると思います。

6、経済成長だけが幸せとは限らない

 1960~80年代程度までの高度成長下の日本社会において、高収入な働き先を求めて都市への人口集中が始まり核家族化になりました。その高度成長期の過程で社会が変化し、時代の変化に翻弄されているのが、孤立した個人ではないかと思います。地域とのつながりや家族とのつながりを失うことは、引きこもりや「ゴミ屋敷」という現代の病ともいえる悲惨な現実を生んでしまいました。高度経済成長が終わり助け合いが必要な時代に、地域から切り離された人たちが、社会の片隅で誰とも連携できないで孤立するケースが増えています。
 高度成長しなくなった日本社会では、意図して「成長しない」方向を向くべきかもしれません。私は逆説的に次のように考えました。
1人で生きていくために都会に出る。→仲間と生きていくために田舎に帰る。
経済力(お金)があれば豊かになれる。→多様な人と繋がると豊かな心でいられる。
 成長しない経済の中でできることは、個人の内面的な成長によって豊かな気持ちを持つ努力をすることのような気がします。そのようになリ易い環境がこの時代には備わっています。それはこの時代は「働けるうちは働く」必要があるからです。60代で引退することができなくなっています。働かざるを得ないのが現実ですが、肯定的に考えると仕事を通じて人とかかわることこそ生きる意味であり、そのチャンスをつかみやすい環境だということです。年を取った人でも活用しなければならない社会は、二つ以上の仕事や役割を持つ人が増えていくでしょう。それは職場や地域で活躍することが推奨される前向きな人がチャンスを得られる社会です。
 今の時代には通信技術が発達しているので、通勤しなくても仕事ができるようになりました。日本語の出版物のレイアウト変更や文言の変更作業、日本のアルバイト広告のポップデザインなどの仕事はベトナムで弊社のスタッフが行っています。何でもちょっとした新しく勉強ができるものがあることは楽しいものです。通信技術があれば、どんな仕事をどこでやってもよくなっています。高い給料を求めなければ、得意な分野の仕事にすることは可能です。弊社のスタッフは難しい日本語の勉強ができるこの仕事を気に入っています。何に幸せを感じるかも変化していいように思います。
 これからの時代は一人だけで生きていこうとしない生き方が大事なのかもしれません。自分だけで生きていけると考える場合は、傲慢な考え方に陥る場合があります。反面、人に助けてもらっていると思えば、相手を認めることができるようになります。過去の成長体験にあこがれるのではなく、人に助けてもらえる、人と関われることが喜びと感じることもまた経済力と同様に重要性を増しているように思います。

                                以上