2019.8.22

1、米中、日韓の貿易摩擦は構造変化の始まりか?

 米国と中国の貿易摩擦の影響から、中国にある日系企業などがベトナムに工場を移転させる話が出てきたかと思ったら、日本と韓国が貿易戦争ともいえる輸出規制に踏み込み、打開先が見えていません。ソ連の崩壊以来、自由主義経済が世界を席巻していたはずですが、ここにきて各国の思惑が入り混じる中で、保護貿易と自国第一主義の傾向が表れています。これからの世界がどんな方向に進むのか、不安を感じる動きになってきています。

 自由貿易で富を獲得できた米国などの先進国が、もはや自由貿易では富を得られなくなっています。理由は生産拠点の移転です。どんな企業も利益の最大化できるところで生産をしないと競争に勝てなくなっているのです。自由経済の中で製造工場が新興国に移った結果、その果実が新興国に回るようになりました。先進国はそれ以外の産業に頼らざるを得なくなりました。IT技術の導入もあり、そんな構造変化が世界に広まっています。そのIT技術が安全保障にも深くかかわっています。地球の温暖化と同様に、経済活動も構造変化をしているのです。

 今回はそのことをテーマにするには難しすぎますし、政治的に加熱している話題に入って行く必要もないと思っています。そこで60、70年の間に大きな環境変化の実例をただりながら、少しずつの変化が、50年以上の時間を経ると大きな変化になっている例を見ていこうと思いました。

2、人口減少が予想される日本の自治体

 その例として最近東洋経済の記事を電子版で読んだ人口の変化についてお話をします。その記事とは将来激減する自治体のランキングでした。特に産業が衰退してしまった自治体の落ち込みはすざまじいものがあります。10万人以上いた町が数千人にまで減少する可能性があることに驚かざるを得ませんでした。石炭産業が壊滅したせいでもありますが、産業の変化に翻弄された自治体は大変な変貌を遂げることが実証されています。

 たとえば北海道の中央部に近く、旭川市の南に位置する歌志内市は、次のような人口の変遷を辿っており、さらに将来2045年の人口予測をしています。また、同様に札幌市の東に位置する夕張市も急減しています。私の方でこの都市が過去どの程度の人口があり、現在はどの程度減り、将来予想は東洋経済の記事を使い表してみました。

北海道 歌志内市:人口最大の時期 1948年 46,171人→ 2015年 3,585人 → 2045年(推定)813人
北海道 夕張市:人口最大の時期 1960年 116,908人 → 2015年 8,843人 → 2045年(推定)2,253人

 3,000人強の自治体でも市であることに驚きです。歌志内市は1961年も42,000人程度の人口は保持しており、また、夕張市も東京オリンピックがあった1964年までは10万人以上の人口を保持していた自治体です。石炭産業の衰退がこれらの都市の人口減少の大きな要因になっています。来年は56年ぶりの東京オリンピックです。石炭産業の衰退がオリンピック後顕在化したように、2020年のオリンピックののちに衰退する産業や自治体があるのでしょうか?経済構造の変化は着実に表れ始めています。

 その一方で日本国内で2015年と比較して、2045年に人口が増加を予想されているのはわずかな自治体しかありません。

東京都中央区 2015年 141,183人→ 2045年 190,496人
東京都港区 2015年 243,283人→ 2045年 326,876人
東京都千代田区 2015年 58,406人 → 2045年 77,589人
愛知県長久手市 2015年 57,598人 → 2045年 70,660人

 これからの日本では、東京都の中心部と大都市の周辺部だけしか人口が増えることはありません。それも選ばれやすい人気の自治体だけが増加できる見込みです。長久手市は名古屋市の東に隣接する高級住宅街です。名古屋近郊では古戦場もある長久手は人気の住宅地です。人口減少は県庁所在地であっても、2015年に比較して、2045年には20%の人口減少が予想されている都市があります。青森市、秋田市、長崎市、奈良市などがあげられています。

3、最近の人口増減の傾向

 2015年から2017年の人口増加と減少のそれぞれ上位3位の自治体も載っていました。

人口増加 TOP3
1、北海道 占冠村 19.05%UP 1,450人増加
2、沖縄県 与那国町 14.16%UP 1,709人増加
3、東京都 中央区 13.57%UP 156,823人増加

人口減少 TOP3
1、奈良県 野追川村 13.46%DOWN 418人減少
2、奈良県 上北山村 12.75%DOWN 520人減少
3、群馬県 南牧村 12.48%DOWN 1,935人減少

 占冠村は、ウィンターリゾートとして外国人開口客も増えて、観光産業が成長しています。外国人の観光客急増が人口の増加を後押ししています。与那国町はもっとも台湾に近い島ですが、近年の国際情勢により自衛隊も進出していることから人口が増えているのです。東京都中央区は不動産デベロッパーによるタワーマンション建設が盛んで、都心の人気が上昇していることから住民が増えています。

 減少が大きいのは主に山間部の自治体です。私の故郷も長野県の山間部です。幼少期のころに思いをはせると、山間部の地域は半分の生活資材は自給自足で賄っていました。味噌や醤油も自前で作ったり、蚕も飼っていたことを覚えています。どこの家も田畑を持ち、米、野菜、果物は自前で生産できました。また、家畜も飼っており、冬になると食糧にしていました。

 地域の人たちは兼業農家が多く、平日は営林署、国鉄、電電公社、郵便局、役場、学校など官業の仕事についている人も多くいた印象です。山間部でも一定の人口がいたことで官業を維持することはできたのです。ところが高度成長とともに若い世代が大都会に流れるようになると、地方の人口は急速に減り、官業の規模も縮小しました。官業は自由主義経済の影響を受けて民営化され、人口減少の地域からは撤退することは宿命になりました。人口減から農業の担い手も減少し、耕作放棄地も増えてしまいました。

 今後、山間部の自治体は生活インフラの維持も難しくなってくることから、今後ますます人口の減少と空き家が増えることが予想されます。山間部の人口減少は、山林が手入れされないなど国土の荒廃をもたらすことにもなります。今後深刻な問題をはらんでいると思われます。

 人口が増える要因としては、交通の利便性、新しい住宅の開発、新しい産業の立地が考えられます。山間部はそのどれも当てはまりません。農業や林業の衰退が進むとますます人口が減少するでしょう。山間部で唯一人口増が図られているのは、外国人観光客が集まるリゾート地だけです。その点で観光産業を新しい産業にできた自治体は、努力もあるでしょうがラッキーと言えるでしょう。

4、ベトナムの現状から少子化のメカニズムを考える

 人口減少の要因は少子化が進む社会現象にあります。私が考える少子化のキーワードは核家族化です。ではなぜ核家族化になるのでしょうか?ベトナムの現状からそのメカニズムを検討してみます。かつて日本でも同じことが起こっていたものと思われます。そして世界の新興国もきっと同じような道を進むことでしょう。

 少子化は経済成長が始まった国で起こり始めると私は考えています。いろいろな要因で経済成長が始まります。ベトナムは社会主義経済から市場経済に移行したこと、また、WTO(世界貿易機関)に加盟し、世界標準の経済政策をとることを世界に宣言したことから、外国投資が集まるようになりました。外国投資はインフラの整っている場所、人口の多い場所、駐在員が生活しやすい場所に限られます。先ほども述べましたが、人口が増加する地域と同じ要因があります。ベトナムではハノイとホーチミン市、そしてその近郊に限られました。この両都市には外国企業が多く進出をし、比較的高額の給料を支払います。そのため若い多くの人たちが地方から大都市に流入するようになります。

 それまでの経済は、田舎で農業を行い、自給自足に近い生活を行っていました。あまり給料はなくても食うことには困りませんでした。農業の場合、人手が多い方がいいので子供もたくさん産む傾向がありました。子育ても大家族であれば、誰かが面倒を見ることができます。そのため比較的たくさんの子供を産める環境がありました。

 ところが若い人が都市に行くようになると、やがて都市で生活する者同士で結婚します。都市で自給自足はできませんから、生活するためには生活物資を購入するしかありません。そのため結婚しても共稼ぎで家計を支えます。育児も自分たちで行うしかありません。場合によってはホームヘルパーを雇って、育児や家事をお願いするケースもありますが、お金をかける必要があります。子供が成長すると都市の労働者は、子供に勉強をさせて都市の給料が高い人気企業に就職できるようにしようと考えます。親は教育費にもお金をかける傾向になることから、より少子化に拍車がかかります。

 この傾向は経済成長が始まったどの新興国にも共通する傾向です。新興国の中心都市はメガシティに成長しています。メガシティが誕生する国は、きっとこのような傾向をもたらし、少子化社会に向かっていると言えるでしょう。

5、もう一つの少子化の要因 結婚しない人・できない人

 2019年7月末にベトナム統計総局が発表した2018年男女出生比(女児に100人に対する男児の数)が、115.1であったと発表されました。自然の男女の出生比は105と言われています。男児の方が多いのは、若干男児の死亡率が高い傾向があるからと言われています。

 ただベトナムの男女比は著しく男児が高い傾向があります。貧困層は105に近い数値にもかかわらず、富裕層が男児の割合が高いと報じています。その統計を発表したトゥー総局長によると、このような傾向は性別に対する偏見、先入観、因習を背景に、科学技術の発展で男女の産み分けができるようになったこともこのような状況の悪化に拍車をかけていると言っています。状況の悪化ととらえていることは、よくない傾向とのベトナム政府も判断をしているからでしょう。

 日本でもそうですが、少子化の最大の要因は未婚率の増加だと言えます。日本の未婚率の増加は、非正規社員の増加による安定した生活ができない層の拡大が一つの要因だと見られています。以前ような終身雇用が守られている職場では、安心して子供を育てることができますが、非正規社員の場合、将来設計が安定しないため、日々の暮らしの大変さから結婚する余裕がない人も増えています。

 ところで、少子化問題で使用される指標として合計特殊出生率があります。これは女性が一生の間に産む子供の平均数です。人口を維持できる数値である合計特殊出生率は2.07となり、それを下回ると人口減少になると試算されています。この合計特殊出生率には未婚の女性も含まれるため、女性の未婚率が増えれば当然数字は下がってしまいます。日本では結婚したいと思っているのに、経済的な問題で結婚できない人を支援する方策を整えることが必要になっているでしょう。

 一方、ベトナムで男児の割合が増えることが女性の未婚化にはつながりません。しかし、本来男女比が自然の秩序に守られていないことは、人口減の要因になっていると思います。男性が結婚できないケースが増えると、女性にも一定数そのような結婚しない傾向が出てくる可能性もあります。すでにここ20年近く少子化の傾向が始まっているベトナムでは、ますます少子化が進む要因が拡大しています。

6、人口減少は何をもたらすのか?

 人口が減少するということは、生産者が減る一方で、消費者も減るということです。生産者と消費者が同率で減少すれば、一人当たりの豊かさに変化はないことになります。国全体の経済力は、もちろん小さくなり国際的な影響力は低下します。ただ、国民にとって大事なのは、一人ひとりの豊かさであって国全体の経済力ではないことを考えると、人口減少だけが人を不幸せにするということはないでしょう。高齢者でも働くことが必要になれば、社会にかかわることの幸せを感じることもできるでしょう。

 そうはいってもすべてに問題ないとは言えません。人口減少社会ではどんなことが起こるのでしょうか?私たちが日常生活を送るために必要なサービスがあります。小売り、飲食、娯楽などの施設と医療機関です。これらのサービスは一定の人口規模の上に成り立っています。人口減少によって、これらのサービスが立地するための人口規模を割り込み、地域からのサービスが撤退するケースが増えることが想定できます。

 また、税収が減少することから、地方自治体の行政サービスも廃止や有料化されることが想定できます。公共施設、道路、橋、上下水道などの社会インフラの老朽化問題も発生するでしょう。さらに地方の公共交通サービスの衰退も予想できます。

 さらに空き家、空き店舗、耕作放棄地などが増えていく傾向にもなるでしょう。それと同時に地域のコミュニティーが機能しなくなることも考えられます。このような状態になると地域の伝統的な行事が継続できなくなったり、学校の統廃合なども増えていくことになると思われます。

7、人口減少を救う道

 人口の減少が必ずしも人を不幸せにするのではないことはお伝えしましたが、急激な人口減は国の力を減少させますし、地域を消滅させることにもなります。だから多少の人口減少は食い止めることを考えるべきでしょう。

 合計特殊出生率の改善を図ることで言えば、フランスやヨーロッパ諸国は改善しつつあるようです。フランスでは2人の子供がある過程には家族手当を支給し、3人目の子供がある場合は大幅な所得減税がされます。何よりも特殊なのは、事実婚と婚外子が実に60%にも達しているとのことです。1970年には6%の婚外子が現在は60%に達しているとのことです。ユニオンリーブル(自由縁組)と言われる法律婚にとらわれないカップルが社会的に認知されるようになった背景には、フランス人の家族観とそれに伴う法の整備があげられます。

 また当然ですが保育所が充実していることが上げられます。特に3歳まではベビーシッターを容易に雇用できるようです。フランスも経済は好調とは言えません。その中で、生活が苦しくても子供を持てる制度は、人に目的を与えることになります。また、生活や健康に不安があることは、誰かの助けを必要とすることでもあり、人との結びつきを促進する可能性もあります。苦しいときこそ大切の人を見つける機会にもなります。逆に引きこもり、孤立というような方向にならない社会を作ることができないものかと思います。

 もう一つの解決策は移民の受け入れということになるでしょう。日本ではすべに高度人材としての在留資格、技能実習生としての在留資格、留学生として入国し資格外活動(アルバイト)をする外国人が急増しています。平成元年98.4万人だった外国籍の在留者が、平成30年には263.7万人になりました。新たに特定技能という在留資格が増えますので、今後5年間で34.5万人増やす計画です。主な受け入れ先は、介護6万人、外食5.3万人、ビルクリーニング3.7万人、農業3.65万人との計画です。これらの仕事は外国人がいないと成り立たなくなっています。これらの分野の仕事は特定技能2号と言う在留期間に制限がなく、家族帯同も認める資格につながっていきます。すでに日本は先進国ではフランスに次いで7番目に外国籍の人がの多い国になりました。

 婚外婚の増加、移民の増加で日本の人口を増やすとなると相当批判を浴びることになるでしょう。ただ、急激な人口減少社会となる日本において、どのような方向で国力を維持していくかは真剣に考える必要があります。私は国民の選択肢が3つあると思っています。

①国力が小さくなっても幸せに生活できる国にする。
②結婚の形態や生活の仕方を多様化を認め、自由なカップルや出産できる環境、制度を修正する。
③外国人を移民として迎え、人口減少分を外国人でカバーする。

 今までと同じ社会を維持して縮む社会を選ぶのか、日本社会の結婚など家族に関する制度を変えていくのか、外国人と共存していくのか、難しい選択です。いずれにせよ今までとは相当違う社会になるでしょう。そして国民の意識の変化は求められそうです。

                                以上