2020.1.4

1、テト休暇(旧正月)での帰国

 1年に一度の日本への帰省が一般的になりました。横浜の自宅に戻り、長野の実家に訪問し、大阪でのセミナー講師を引き受けたり、神戸の本社によったりしているうちに2週間があっという間に過ぎてベトナムに戻るというパターンが定着しています。今回は大田区からの依頼も受けて東京でもセミナーをすることになりました。

 なぜこの時期にセミナーをすることになるかというと、お客様からいつ日本に帰るのかと打診をいただくことがあります。その時に決まってお答えするのは、ベトナムで連休が10日程度確保できるテト休暇(旧正月)に帰ることができるだろうと伝えます。ただ、日本の方にはテト休暇がいつになるかわかる人は少ないです。なぜならば太陰暦(ルナーイヤー)の1月が新年になりますが、太陰暦は日本ではほとんど使われていません。もともとは東アジアの日本も明治維新前は太陰暦を使っていたのですが、西洋型に代わり、もはや太陰暦は記憶から消えてしまいました。

 それでも中国とベトナムは、太陰暦の年末年始が中国では春節、ベトナムではテトと呼ばれる連休になります。2020年の元旦は125日ですので、そこから年末3日年始3日と土曜、日曜の振替と会社ごとの休みが加わり9日程度の連休にすることが多いです。その間が航空券代が高くなるので、多少休みを加えて日本に帰国しています。また、2021年は212日が元旦になりますので、その前後合わせて9日程度がテト休暇になります。そのように太陰暦の11日を調べないとテト休暇がいつかはわかりません。

 私には帰省休暇とはいっても、日本は平日ですから土日以外は仕事をすることがほとんどです。それで営業活動の傍らでセミナーなどの依頼を受けることがあります。セミナーの資料はこの年末年始に作成して、1年間のセミナーの骨子を作ります。お客さんによってカスタマイズすることは多くありますが、基本の資料などはこの時期に作成しています。久しぶりにパワーポイントを使って作成するので、クラブなどの作り方を忘れて苦労することも多いです。

2、ベトナム進出が加速する日本企業とベトナム人労働者が急増する日本

 セミナーのテーマは、依頼者側からの要望もあり、大阪でのセミナーは「ベトナム進出前に知っておきたい失敗例」、大田区のセミナーは、「選ばれる理由と失敗事例に学ぶ進出のポイント」というタイトルを付けました。大阪のセミナーはベトナム進出を計画している方々向けのセミナーということで、具体的な内容を求められました。大田区の場合は、まだベトナムについて知らない方が多いので、失敗例だけを強調するのではなく、ベトナムの良いところもふんだんに加えてほしいとの要望を受けました。そこでベトナムに関する統計資料などは、共通で作成し、また、ベトナムが選ばれる理由は共通で使うことにしました。

 まずはベトナムへの日本企業の進出がどのくらい増えているかをまとめました。私の会社が加盟しているホーチミン日本商工会議所の加盟企業に推移を表で表しました。1994年に発足した際に69企業だった会員数は2000212企業、2010482企業、2019年には1022企業にまで増えました。近年は企業数の伸びが大きくなっています。2019年三月時点でベトナム全体では、ハノイにあるベトナム日本商工会議所が727企業、ダナン商工会議所が130企業となり、ホーチミンと合わせると1879社になります。近隣にある国別ではベトナムが1879社、タイが1762社、シンガポール825社、インドネシア689社、フィリピン676社、マレーシア585社となっています。ベトナムが一番多い理由は、ハノイとホーチミンと2極に分かれていることもありますが、最近日本企業にはもっとも関心が高いのがベトナムであることも事実です。

 一方で日本に目を移してみると、日本に在留している外国人の中でベトナムは急増していることもわかりました。伸び率を折れ線グラフで資料を作りましたが、ここでは2008年と2018年の数字の比較だけを表しておきます。如何にベトナムが急増しているかがわかるでしょう。

外国人総数 中国 韓国 ベトナム フィリピン ブラジル ネパール
2008 2,144,682 644,265 580,760 40,524 193,426 309,448 11,556
2018 2,731,093 764,720 449,634 330,835 271,289 201,865 88,951

(単位:人)

 ベトナムに関してはこの10年を比較して、8倍に増加しています。ネパールも数は少ないですが同様に8倍の増加です。子の増加の理由は日本の労働力不足が要因です。好景気にはブラジルからの労働者を受け入れていた時期がありますが、今はアジア系の人たちです。アジア系の人が増えているのは、技能実習生の増加と外国人留学生の増加によるところが大きいです。

 東京都内でも見かけるコンビニの店員もベトナム人は多いです。名札にはベトナム人の苗字が書かれていることが多いのですが、ベトナムを知っている私には違和感があります。ベトナム人の苗字は数が少なく、一番多い名字のNguyen(グエン)さんは人口の38%もあります。グエンだらけです。そのこともあって、ベトナム人は名字で呼びません。一番最後のファーストネームで名前を呼ぶのが一般的です。以下の多い名字の第三位までを記載しました。もともとは漢字だったのがベトナム語です。18世紀以降漢字表記から、アルファベット表記がベトナムでは普及していきました。フランスの植民地だったことも影響した可能性はあります。ベトナム人の名前を苗字で表したら、個人を表すのではなく、ベトナム人であることを表すだけの意味になってしまいます。例えば鈴木という苗字が日本人の40%もいたら鈴木とは表記しないでしょう。
(Nguynグエン) 38.41%

(Trn、チャン) 11%                                 ●黎(Lê、レ) 9.5%

ちょっと脱線してしまいましたが、外国人労働者に話を戻しましょう。厚生労働省による201810月時点の外国人労働者に関しては以下の通りの割合になります。

中国

ベトナム

フィリピン

ブラジル

ネパール

韓国

その他

人数

389,117

316,840

164,006

127,392

81,562

62,516

319,030

割合

26.6

18.8

11.2

9.2

5.6

4.3

21.9

 

 2018年の時点では中国人は相変わらず多いですが、ベトナム人が第二位になっています。

3、ベトナムに進出する日本企業が急増する理由

 では日本企業のベトナム進出が増え続けている理由はどうしてなのでしょう。まず挙げられるのは周辺の諸国の変化です。特に中国の事情が影響をしています。中国は経済の成長が進み、人件費が上昇しています。そのため中国の工場で生産をしても、以前ほどの利益を上げられなくなってきています。それと同時に、中国の反日の動きや撤退時に本国に送金ができないなどの問題が発生しており、中国を避ける動きも顕在化しています。最近は米国との貿易戦争に絡み、中国の生産拠点を移動させておこうとの動きも現れています。

 次にベトナム投資環境が良好なことです。その中でもベトナムの人材に関する優位性が勝っていることがあげられます。まずは人口の変化を表してみましょう。

 日本・ベトナム人口の推移と将来予想

 (出典:ベトナムの人口は「United Nations」から,日本の人口と予想は「国勢調査」、「日本の将来推定人口」から) 

日本

ベトナム

1950

8,411

2,736

1960

9,430

3,364

1970

10,467

4,290

1980

11,706

5,301

1990

12,361

6,607

2000

12,693

7,814

2010

12,806

8,913

2020

12,410

10,008

2030

11,662

10,837

2040

10,728

11,425

2050

9,700

11,769

 (単位:万人)

 日本が人口減少する中で、ベトナムの人口は急増しています。1950年には日本はベトナムの3倍の人口を誇っていましたが、2040年以降はベトナムの方が人口が多くなる予測がされています。今のベトナムでは現役の働き手が圧倒的に多いことを示しています。それと同時に人件費が圧倒的に安いことがあげられます。2020年は発表されたベトナムの最低賃金は以下の通りです。多くの工場労働者がこの最低賃金よりもほんの少し多いくらいの月給で働いているのです。日本の9分の一程度でしょうか。ただ、給料の上がらない日本に比べベトナムは710%程度は毎年給料が上がっていますので、差は着実に縮まってはいます。

 (月額:最低賃金)

2019

2020

エリアA

20,482

20,774

エリアB

18,179

18,424

エリアC

15,925

16,121

エリアD

14,308

14,429

 (もともとはベトナムドン標記:2019年 1VND=0.0049円で計算、2020年 1VND=0.0047円で計算)

 もう一つの要因は優遇税制などの社会的なインフラが有利であるということで

しょう。代表的な例として、製造業では工場はベトナムにあるにもかかわらず、そこと特別な特区(あるいは企業)として、関税を発生させない措置があります。EPE(輸出加工企業)、EPZ(輸出加工特区)という制度があります。

 また、特別に誘致したい産業には4年間の法人税が免税、次の9年間(5年から13年まで)50%の減税、次の2年間(1415年)10%の減税の措置が取られます。ベトナムではハイテク型の産業やIT企業などにこのような特例措置が取られています。特にベトナムが貿易黒字になっていますが、それに貢献しているのはスマートフォンの製造です。サムソンなどがベトナムで大型工場を持っていますが、ベトナムの優遇税制により韓国から工場を移したものです。今後部品産業などの裾野産業を伸ばすために新たな優遇措置も検討されています。

 安い人件費と優遇税制があり、技術力がほかの国とそれほど変わらないと言うことであれば、どこで生産すればより利益を上げられるかを検討するのが企業です。必然的にベトナムで生産をすることが選ばれています。それ以外に日本企業がベトナムを選ぶ理由は、親日的であること、日本語を勉強している人が多いこと、仏教国で文化的な共通性があること、治安が良く安心して生活できることなどがあります。総合的に判断をした結果、海外進出先としてはベトナムが選ばれることが多くなっているようです。

4、ベトナムで失敗する日本企業

 優位な点がたくさんあるベトナムですが、それでも国が変われば考え方も変わります。日本との違いを理解せずに失敗するケースもたくさんあります。

 第一には日越の政府間のODA案件での問題が発生しているケースがあります。例えば土地の収用に時間がかかり、相当額の赤字が出るようなケースです。土地の収用はベトナム政府の業務なので、日本企業の責任はありませんが、損害を日本企業が被るようなケースもあります。

 第二はベトナム企業と合弁で事業を運営する場合です。ベトナムで規制されている事業分野は外資100%では運営できないケースがあります。コンビニ各社がこのような形式で運営していましたが、日系2社ともにベトナム企業との合弁を解消しました。理由は経営あるいは先行投資の考え方の相違です。ベトナム企業は事業を始めたら早い段階で黒字を求めます。しかし、日本企業は日本での経験をもとに中期的な成功を求めます。その考え方の相違から溝が深まるケースは多くあります。

 第三に法務・税務・通関などのトラブルです。税がどちらの国で発生するかは国としては重要な問題です。日本企業がベトナムの子会社に仕事を出している場合、価格の設定が妥当かを調べられる場合があります。ベトナムに平均より安い価格で作業をさせているとみなされると、日本に価格移転をしていたとみなされ、追徴課税が発生する場合があります。

 第四はベトナム人を過度に信用しすぎた結果、裏切られたり、ピンハネされたりする問題です。隙があるとみられるとずるがしこいことを考える人はどこにでもいます。

 第五は日本でのやり方をベトナムでも通用させようとする場合です。ベトナムではルールが違うこともたくさんあります。ベトナムでは給与は安いですが、毎月昇給をさせる必要があります。昇給をさせないとしたら、やめてほしいと言うことを暗に伝えていると理解されます。また、ベトナム人は自己の成長機会を求めているので、成長しないと思われる職場は離れようと考える人がたくさんいます。

5、それでも海外に出ることの意味

 高齢社会が進む日本ですが、2015年の国勢調査の結果が発表された20162月に前回の2010年の調査以来初めて人口が減少しました。そこから毎年人口が徐々に減少しています。2030年にはすべての都道府県で人口が減少することになると予想されています。実はこの現象は日本だけの話ではありません。中国でもヨーロッパでも少子高齢化は進み始めています。人口増加が激しいベトナムでも少子化の傾向ははっきりと表れています。

 そんな中で、日本だけで考えていると物が売れなくなったり、産業が衰退すると考える人もいます。高齢化社会、労働人口の減少が日本経済に大きなダメージを与えると考えている人もいます。ところがいろいろな国を見ると国の発展のタイミングがずれていることがわかります。1950年には人口の差が三倍も離れていた日本とベトナムですが、2020年にはベトナムも1億人を超える見通しです。2040年ころにはほぼ同じ人口になることが想定されています。ただ、そこからはベトナムも超高齢社会になる見込みです。超高齢社会とは65歳以上の人口が21%を超えた社会と定義されています。ベトナムは30年前の日本と同じような動きをしているとみることもできます。30年前の日本は1990年のころになります。ちょうどバブル崩壊の直前で、1990年以降は失われた何十年と言われ始める時期に重なります。それを考えるとベトナムも経済成長が止まることはあり得ると思います。

 諸条件が重なり合って、生産地として選ばれやすくなったのが今のベトナムです。でも数十年後には日本と同様の悩みを抱えることになるはずです。そのようにそれぞれの国の発展は伸びるときと縮む時があるのです。縮むことが必ずしも悪いことではないはずです。将来伸びるためにはある程度縮むことが必要なのかもしれません。縮むことで謙虚な考え方を身に着けることができるかもしれません。

 縮んだ分をどのように折り合いをつけるか考える必要があります。その時にグローバルな視点に立っていれば、縮むところと伸びるところをうまく調整できる可能性があります。伸びる国と縮んだ国とそれぞれ補うことができるかもしれません。幸いにして日本はアジアの一員です。ヨーロッパはやや衰退の方向に向かい始めていますが、アジアは日本以外(中国、韓国も高齢化の問題はあります)は、まだまだ成長の途中です。

 何も勉強しないでよその国で簡単にうまくいくことはありません。最初は手探りですが、トライアンドエラーをすることで学習の機会ができます。外国人と信頼関係を築いて仕事を進めるためには、相手の考え方や文化を尊重する姿勢が重要です。その点で言えば、日本は今まで「村社会」のような狭い範囲でものを考えても何とかなる社会でした。これからは外国人と折り合いをつけていく必要があります。

 東京オリンピックが開催される今年は、そのような意味でもグローバルな視点を持つにはいいチャンスではないかと思います。外国人は同じ人間だと感じるところはある一方で、育ってきた環境や文化の違いによって、表現の仕方や考え方の違いがたくさんあります。良い悪いではなく、そのことを冷静に捉えられるようになることは、今後日本人には求められる能力になるかもしれません。

以上