2020.03.13

1、新型コロナウィルス禍でベトナムの入国制限

 2月の放送では日本に帰国した時の私の個人的な諸問題と新型コロナが経済に与える影響のお話をしました。今回は別のテーマにしようと思ったのですが、あまりにこの問題が終息せず、深刻な影響が拡大していることもあり、今月もこの問題を扱うしかないと考えました。日本でもそうでしょうが、ベトナムでも人々の話題はコロナの話題につきます。今の時期ほかの話をしても関心を持つ人が少ないように思います。ただ、私は感染症の専門家でもなく、病気そのものを解説することもできないので、ベトナムでの事情、こちらにいる日本人の事情、これから考えられるリスクなどをお伝えしようと思います。

 ベトナムでは渡航禁止の判断がかなり早い時期に行われました。私が日本に帰国している間に中国からの入国と中国をトランジットした人の入国ができない事態になっていました。日本企業でも幹部社員が中国人の企業もあり、その方々が入国できないので業務が止まっている会社もありました。中国とベトナムは旧正月が長期連休になります。そのため中国人の多くはこの時期に帰省していますが、仕事に戻ろうとした時に入国できない事態になってしまいました。

 229日には韓国アシアナ航空の旅客機がハノイ・ノイバイ空港への着陸が認められず引き返した事態になり、それ以降韓国からの入国も制限されるようになりました。ベトナムの韓国人在留者は日本人お10倍近くになります。また、サムソンをはじめ多くの韓国企業がベトナムに進出しています。ベトナムは韓国のサムソンが製造するスマホなどの輸出によって貿易黒字になっています。それにもかかわらず韓国からの入国制限をしました。

 今後何とも言えませんが、この記事を書き始めた36日の段階では、ベトナムはコロナウィルスに感染したのが16人で全員回復し、新たな感染を聞いてはいません。(12日の時点では北部を中心に感染者が多少増え始めています)ただ、潜伏期間があるので何とも言えないですが、このような早期の判断ができる点は、ベトナムの政治体制の強みということもできるかもしれません。そのような措置を受けて、在留する日本人の中には3月の一時帰国を取りやめた人もいます。帰国をして日本人への入国制限が始まれば、仕事ができなくなってしまうからです。

2、判断が早いベトナム政府の取り組み

 ベトナムの学校の休校もいち早く行いました。テト休暇(123日からの旧正月の休暇)明けの2月から引き続いて学校が休校になっています。まだ再開されていないようです。1月~3月まで続きそうな気配です。日本人学校も同様に休校になっているようです。

 また、ゴルフ場では14日以内に外国から入国した人はゴルフができないことになりました。なかには30日経過していないとプレーができないところもあります。ゴルフ場にはパスポートを持参し、マスク着用を求められるようになりました。日本商工会議所のゴルフコンペなどはことごとく開催中止になりました。

 また市内の一部デパートやオフィスビルでは検温しないと入場できないところもたくさんあります。なかにはマスクを着けていないと入場を断られてりもします。オフィスビルやマーケットの入り口にはアルコール消毒液を置いているところがあちこちにあります。近隣の有名薬局では時々長い行列ができることがあります。間違いなくマスクが入荷されたことで買い求める人が行列を作っているのでしょう。

 これらの対応を見てみるとベトナム政府の対応の早さが目立ちます。如何に時系列でベトナムと日本の対応の違いを並べてみました。旅行を中止したり、航空機を運航停止にしたり、学校を休校にしたりの対策は日本より半月程度早く決めています。弊社の入居しているオフィスビルでも3月に入りアルコール消毒液を置くようになりました。また、312日よりビルに入る人の検温をするようになりました。

115日 武漢渡航歴の患者から新型コロナウィルス確認(日本)

122日 旅行会社が武漢を含む旅行を中止(ベトナム)

123日 保健省が暫定的監視と予防ガイドラインを発表(ベトナム)

124日 緊急エピデミック防止センターを稼働(ベトナム)

129日 武漢在留邦人の退避始まる(日本)

130日 新型コロナウィルス感染症対策本部初会合(日本)

131日 中国との国境を接する地域での人とモノの流れを停止(ベトナム)

21日 首相がエビデミック宣言(ベトナム)

21日 ベトナム⇔中国の航空便を全面運休(ベトナム)

21日 湖北省に滞在していた外国人の入国拒否(日本)

22日 学校の旧正月の休みを延長(ベトナム)

23日 クルーズ船ダイヤモンドプリンセスの検疫開始(日本)

213日 浙江省滞在歴のある外国人の入国拒否

224日 韓国・大邱からの帰国者旅行者全員を検疫(ベトナム)

225日 新型コロナウィルス感染症対策基本方針(日本)

227日 大邱周辺に滞在していた外国人の入国拒否(日本)

229日 韓国からの入国者に対して14日間の隔離を発表(ベトナム)

36日 中国・韓国からの入国を制限(日本)

36日 入国する者すべてに健康申告を義務付け(ベトナム)

314日 ホーチミン市1区バー、カラオケ、マッサージ店の営業を停止(3月末まで)318日からは全市内に拡大。
315日 ベトナムへの一時入国が停止される「外国人」(シェンゲン領域の各国もしくは英国から来た又は過去14日以内にそれらの国を通過したことのある外国人)は、入国制限。「観光客」であるとしており、「観光客」には留学生や親族訪問者が含まれるとのことです。
316日 ベトナム・フック首相 公共の場でのマスク着用を義務化と声明
318日 ベトナムに入国する者のビザ発給中止、入国する者はコロナ陰性の証明書とベトナム政府の許可が必要

 エミデミックとは一定の地域で発生する感染症のことを言います。それに対してパンデミックは全世界に広く拡大する感染症のことを言います。ベトナムは一定の地域に拡大した際にもエビデミックを宣言して、対策を打っていたことになります。しかしながら3月に入ると今後はパンデミックともいえるほどの拡がりがみられるようになりました。どの国が比較的感染が抑えられ、どの国が拡大しているのは国によって大きな違いが表れるようになりました。

 ベトナムの民間のレベルでも新型コロナに対する関心は非常に高いです。Youtubeにアップされているのが、コロナ対策を扱ったベトナムのグループのよる手洗いダンス「Jealousy vy」です。この動画が世界中に拡散してヒットしているとベトナム人に教えてもらいました。ここにyoutubeのサイトをリンクさせておきます。全米でも放送されたようでベトナム人のコロナに対する関心の高さを伺えます。ただベトナム人の意識の中で中国人が危ない→韓国人→日本人と変わっていきそうでそれは心配しています。

https://www.youtube.com/watch?v=JUIv9InBr1w

3、日本人には入国制限が始まる気配

 34日日本の中部国際空港においてベトナム経由でカンボジアから帰国した日本人男性の感染が確認されたことがありました。ホーチミン行の折り返し便で同じ機材に搭乗した日本人乗客30人弱がホーチミンで入国を認められず、14日間の隔離措置を受けるか日本に帰るかを迫られて、全員日本に戻ることになったことも伝えられています。14日間隔離されたら仕事にも支障が出るだろうし、やはり帰国やむなしとの結論になるでしょう。

 厚生労働省によると4日中部国際空港で感染が確認された40代の男性は216日日本を出国し、ベトナム、カンボジア、フィリピンに渡航後、再びカンボジアに戻り、34日にベトナム・ホーチミンを経由して日本に帰国したのでした。その折り返し便に乗っていた人がこのようなことになってしまったようです。

 ベトナムでは日本からの入国制限はまだおこなわれていませんが、韓国がすでに制限されているので、次は日本かもと心配されています。しかし、世界では既に日本の入国を制限している国と地域がたくさんあります。入国制限は36日現在で24の国と地域になっています。国と地域としたのはフランス領ポリネシアなどがあるからです。入国制限を取っているのはインド、マレーシア、イスラエル、サウジアラビア、モンゴルなどです。また、入国はできても指定場所への一定の期間の隔離を義務付けられたり、自主的な健康観察などを要請されているのが中国、ロシア、タイ、ベトナムなど58の国と地域になっています。

 先日、32日にベトナムに訪れた上智大学生に講演をしました。その学生はタイ、カンボジア、ベトナムを陸路で移動してきたとのことでした。最初のタイの工業団地訪問では、「日本人の訪問はお断りしたい」とのことで行程中止を余儀なくされたと聞きました。その他日本人と思われる人のタクシー乗車の拒否など少しずつ影響が拡大しているように聞いています。

420世紀のパンデミックの歴史から

 ベトナム政府の対応からエミデミックという言葉を知りました。そのエミデミックが止められず世界に拡散して多数に感染者を発生させる状態がパンデミックです。インフルエンザ・パンデミックと考えられる記録は1800年代ことからはあるようですが、科学的に証明されるのは1900年以降からだと言います。

 20世紀には3回のパンデミックがあったと記録されています。20世紀のもっとも有名なパンデミックとして語り継がれているのがスペイン風邪です。1918年から1919年にかけて世界中で大流行したインフルエンザです。有名な理由は被害の大きさが際立っているからです。感染者5億人、死者は5000万人から1億人にも上るとみられる大流行でした。それは流行の源はアメリカ合衆国なのですが、感染情報の初出がスペインであったためスペイン風邪と呼ばれるようになりました。

 ここで今回の新型コロナウィルスについて改めて考えておかなければならないことがあります。それはスペイン風邪が第一波だけでは済まなかったことです。スペイン風邪の第一波の流行は、19183月米国からヨーロッパに拡大していきますが、感染性は高かってものの致死性は低かったようです。第二波の流行は、北半球の1918年晩秋からフランス、シエラレオネ、アメリカで同時に発生しました。第二波の流行の方がウィルスの毒性が増し、重篤な合併症を起こした人が亡くなったと聞きます。第一波に比べて第二波は10倍近くの致死率だったとも聞きます。不思議なことに感染者の多かった高齢者の死者は少なかったものの、15歳から35歳の青年層で多数の死者が発生したと伝えられています。死亡例の99%が65歳以下の若い層であったようです

 その当時世界の人口は18億~20億人程度で全人類の3割近くが感染したと聞きますので、56億人もの感染者がいたことになります。第二波が毒性が高まったなんてことはこの時期には耳を覆いたい話ですね。高齢者の死亡例が圧倒的に少なかったのは、1889年に発生した別のパンデミックにより、これに対する免疫を持っていた高齢者は重篤化が抑えられたとの報告があります。その当事の治療はや対策は、患者の隔離、接触者の行動制限、個人の衛生、消毒、集会の延期などしかありませんでした。有効な治療薬やワクチンがなければ、今も昔も同じ方法しかないのです。

 それ以外にもパンデミックと考えられるのは、1957年から1958年に発生したアジアインフルエンザがありました。19572月下旬に中国の一地域で流行が始まり、3月には国中に拡がり、4月中旬に香港に、5月中旬にはシンガポールや日本にも拡がりました。この致死率はスペイン風邪よりは低く、死亡した人は約200万超と推定されています。

 1968年~1969年の香港インフルエンザもパンデミックとして取り扱われていますが、アジアインフルよりもさらに軽症で世界での死者は約100万人程度であったと考えられています。いずれにせよパンデミックと考えられる流行は最近は少なかったこともあり、免疫がほとんどない現代人にとっては大変な脅威になっています。またスペイン風邪と違って高齢者が犠牲になることが多いということは、類似した感染症は近年発生しておらず全く新しいタイプのウィルスであることを表しているのではと推察します。 

5、 21世紀初頭の感染症

 21世紀になると記憶にあるのが2002年から発生し、2003年に流行が拡大したSARS(重症急性呼吸器症候群)です。中国広東省で発生したこの感染症は患者数8000名、死亡者774名の感染症でした。確定はしていませんがコウモリを媒介して発生した感染症と言われています。中国経済が急降下して世界経済が低迷をしましたが、急激に回復したために大きな影響を与えるまでには至りませんでした。

 2012年に発生したMERS(中東呼吸器症候群)はアラビア半島の諸国で発生しました。ヒトコブラクダによって媒介されて人に拡がったと言われています。ラクダとの接触や加熱しない肉やミルクの接種によって感染したと言われています。特にこの病気は感染した人数は少ないのですが、致死率が高いことで恐れられていました。日本は被害が少なかったようですが、中国と韓国では多数の死者が出てしまいました。感染者数は2494人死亡者は858人と言われています。

 近年、アフリカを中心に脅威となったのはエボラ出血熱です。これもエボラウィルスに感染することによる急性熱性疾患です。2013年ごろからアフリカで大流行したのですが、ウィルス自体は1976年に発見されているようです。最初の患者であった男性の出身地の当時のザイール(現在のコンゴ)のエボラ川からこの名前が命名されたとのことです。致死率が50%を超えるほど高く、恐れられた病気です。動物に接したり、患者の体液や血液などを介して感染すると言われています。こう見てくると人間にとって感染症とは避けては通れないものだと知ることができます。

6、私が最大のリスクと考えること ~経済大国アメリカの脆弱性~

 312日(私がこの原稿を書いている日)、WHOは今回の新型コロナウィルスの感染をパンデミックに相当すると発表しました。ヨーロッパでもアメリカでも拡大しており留まる気配がありません。有名な映画スターのトム・ハンクスも新型に感染したと伝えられました。アメリカでも感染経路不明な感染者が今後も増えていくことが懸念されます。アメリカのトランプ大統領は、ヨーロッパからの入国を313日から30日間停止することを発表しました。突然の対応ですが、経済的損失が膨大にもかかわらずそこまで踏み込むのは理由があると思います。

 アメリカの社会は自己責任の社会です。ウィルス感染で見るとアメリカは非常に危険性が高い国です。理由はアメリカに住む人の多くが無保険者であることです。4000万人程度が医療保険に入っていないとの話があります。低所得の人は保険料が高く加入できません。オバマ前大統領が通称オバマケアと呼ばれる医療保険改革法を成立させて、この問題を解決しようとしました。

オバマケアの特徴は国民皆保険を実現しようとした取り組みで、次の3点を意図した改正でした。

1)公的医療保険がカバーする範囲を拡大する

2)民間の医療保険に対する規制を強める

3)医療保険に入ることを「義務化」する

 ところが前大統領の政策に批判的なトランプ大統領は、オバマケアを骨抜きにしました。無保険者まで保険加入を進めると保険料が高くなり、既に保険に加入している人が負担増になるからです。そのせいもあり、アメリカでは無保険人口が更に増加しつつあります。アメリカでは医療費が非常に高いことでも有名です。多くの人は多少体調が悪いときは薬で治そうとします。その事実を考えると、新型コロナウィルスに感染しても病院に行けない人が多数発生すると思われます。

 また、アメリカは先進国で唯一、病気休暇を有給休暇とすることに国として義務付けていません。病気休暇を有給として認めるかは企業の判断になります。社内福利厚生制度の一環として有給を認める企業もありますが、特に低所得者の仕事は有給にはなりません。アメリカのシンクタンクの経済政策研究所によると、民間企業では年平均8日の有給休暇が付与されているようですが、最低賃金の労働者で有給を取得できるのは30%程度と言います。それ以外は病気で休暇を取った場合、欠勤控除されることになります。労働者が1日欠勤するだけでも経済的な損失が多くなり、低所得者は休まない選択をせざるを得ません。そのような病院にかかれない、休めない人がたくさんいるのです。それに加えてアメリカでは不法移民者が1100万人程度いるのです。その人たちも失業を恐れて休めなかったり、イミグレ当局との接触を恐れて、体調が悪くてもどこにも連絡しないことが想像できます。

 経済大国のアメリカがパンデミックにもっとも弱点を持った国であるともいえます。アメリカ経済が長期低迷すると1929年大恐慌と言われたリセッションに近い経済の停滞が全世界に波及しないとも限りません。先月はさすがにそこまでは考えていなかったのですが、感染の全世界的広がりを考えると大恐慌の可能性も否定できないと思うようになりました。

 そうなると私が行っている事業も甘い見通しは立てられません。日本からの出張者が急激に減少し、従来のように仕事を獲得できなくなり始めています。長く続けば海外進出どころではない状況になります。先月に予想した経済的影響以上の停滞が起こりそうな想定を視野に入れなければならなくなってきました。

以上