2020.05.13

1、ベトナムでは新型コロナ感染者が少ないのになぜ経済回復しないか?

 ベトナムで親しくさせていただいておりました建設関係のコンサルティングをしていて、現在は日本に戻られている水嶋治様から、57日にある質問が送られてきました。水嶋さんは定期的にベトナムに訪問されて、「翌檜の会」という異業種交流会を開いている方です。私も時々参加させていただいております。しかし、3月以降はベトナム政府が外国人の入国を禁止しているので、水嶋さんもベトナム入国ができません。

 ベトナムには愛着が深い水嶋さんからの質問は次のようなものでした。「Viet-Joに以下のNEWSが掲載されていましたが、ベトナムではいち早くコロナが終息して経済活動が再開されたように見受けられますが、立ち直りに相当な時間を要するのはなぜでしょうか。 Viet-Jo Newsとはベトナムのニュースを日本語に翻訳して配信をしている日本人向けの媒体です。

記事を抜粋して掲載します。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が拡大している中、「年末まで凌ぐことができる」とするホーチミン市の企業は、同市の企業全体のわずか2%程度に留まるという。5日午前に開かれたホーチミン市の経済振興に関するオンライン会議で、ホーチミン市企業協会(HUBA)のチュー・ティエン・ズン会長が明らかにした。

 HUBAが会員企業を対象に実施した調査によると、21%が「5月末までは凌ぐことができる」、12%が「6月末までは凌ぐことができる」、12%が「9月末までは凌ぐことができる」と回答した。

 19%は「4-6月中に倒産する」と回答し、「年末まで凌ぐことができる」と回答した企業は全体のわずか2%程度に留まった。

2、私の回答:今後世界経済はどのような方向に進むのか?

 コロナの感染が終息すれば経済が元に戻ると考えている人が多いですが、私にはそうなることはないと思っています。特にベトナムの人たちの80%は、コロナが終息すれば、元に戻ると考えている人が多いですが実際はそうならないでしょう。

 まずは一般論として世界全体、あるいは日本経済について触れます。コロナ渦中とその後の世界経済感染の拡大と経済への影響は時差があります。経済は人間の心理や行動にも影響を受けます。今回の事態は、人々の考えや行動に大きな影響を与えることになるでしょう。外出禁止、イベントの中止、外国人の入国制限をし、経済活動の自粛を求めたことにより、即座に減収する事業が発生します。航空、観光、宿泊、飲食、旅行、スポーツ・文化活動などです。

 一定の事業者だけが被害を受けて、それで終息できると考えるのは甘すぎます。次に影響を受けるのが製造業です。消費が慎重になったり、高級なものを買うことを控えますので、日本の重要な産業である自動車も影響を受けます。トヨタ自動車が今年の1月~3月期に大幅な営業減益があったと伝えられましたが、それでも黒字が確保されたと伝えられました。自動車産業の減益はこれからが本番です。コロナが終息してもすぐに回復はしないでしょう。

 また、住宅などの購入は今度どんどん減速するでしょう。また、設備投資などの需要は、コロナ発生で急には停止しませんが、今後の計画の見直しが進む中で投資は相当縮減するでしょう。そうなると一部の特権的IT企業以外は、仕事がどんどん減っていくでしょう。そうなると失業者も増えることになります。失業者が増えると収入がなくなる人が増え、一般的な消費も徐々に低迷していきます。

 最終的にはこのような経済の失速が、恐慌状態になることも想像できないわけではありません。それはどういうことかというと、金融危機にまで拡大してしまう危険性があるからです。今の段階は政府の緊急対策で金融機関は融資を拡大せざるを得ません。返済の時期にも経済状況が改善していなければ、不良債権が増えて金融危機にまで拡大します。リーマンショックは金融危機が引き金になった経済危機でした。その時は各国の政府が一定の財政支援をして金融機関を救い、ある程度の不況に封じ込めることができました。

 ところがコロナ禍の今後の局面で金融危機が危機まで発展するとなれば、国の財政が逼迫してしまいます。あの時のような財政支援はできません。ではどうするかというと、国は権力を持っていますので、ルール変更の手段をとることができます。国が借金で何もできなくなった場合は、帳消しにするためのルール変更をするしかありません。もっとも単純なのは日本銀行券を大量に発行する方法です。そのような手段をとった場合は、ハイパーインフレが発生することは避けられないでしょう。今までの秩序は相当壊されることになるかもしれません。そのくらいの破壊力を持っているのが、このパンデミックと考えています。

3、アフターコロナのベトナム経済

 ベトナムの経済事情について私は次の通り考えています。ベトナムは社会主義政権ですので、比較的強権的な措置を取りやすいです。資本家に気を使う政権ではありません。国民の健康を守るという大義のために経済活動を犠牲にしても仕方がないという政策です。営業停止を強いても政府補償をするわけではありません。国の考えを国民に発するには社会主義の方がしやすいのだと思います。そのお蔭でコロナ感染による死亡者は今のところ出ていませんし、感染者も300名には至っていません。1億に近い人口を抱えている国としてはかなり健闘していると思います。そのような成果もありますので、4月中旬からは経済活動も再開され、以前同様道路の渋滞も激しくなってきました。

 それによりベトナムの経済がV字回復するかというとそう簡単ではありません。今回のベトナム政府の取った措置で影響が大きかったのは、外国人の入国を停止していることです。世界で感染拡大しているので、それは仕方がない政策であるとは思います。しかしそれにより、観光、宿泊、飲食などの産業はほぼ壊滅状態になりました。封鎖措置は緩和しましたが、外国人はいまだに入国できませんので、それらの産業は止まっていますし、外資の事業は急停止し始めています。日本人駐在員の人事異動が発表されても、新しい担当者の入国ができないので今までの担当者が残っています。人事異動さえできない状態です。

 特にベトナム経済にとって重大なのは外国投資が急減することです。外国投資をするのは企業です。外国企業のベトナム投資も慎重になるでしょう。ベトナム経済は外国投資頼みのところがありますので、外国投資が増えないと経済停滞は継続します。今回のパンデミックは世界全体に大きな影響を与えています。日本もほかの先進国も産業の国内回帰する傾向が鮮明になると思います。また、どの国も経済的に余裕をなくしているので自国第一主義に陥ります。

 ベトナム人、ベトナム企業のビジネスの特徴は、外資企業に不動産を貸して利益を得たり、事業を仲介して利益を得たり、ベトナム企業を通さないと事業ができない仕組みにしたり、かなりパラサイトな事業で成り立っています。外国人が少なくなるとピンハネできる仕事が急減します。ビングループが車を作ったり、スマホを作るような事業も増えてきましたが、まだ経済は外資頼みです。

 このようにベトナム経済は外国企業の投資がベトナムで行われることによって経済発展が進み始めた国です。先進国の経済が減速したことで、当然ベトナム経済も減速します。新興国の経済は力のある先進国の経済や政治の事情で大きな影響を受けてしまいます。外国投資が回復するまでには相当の時間を要するでしょうから、ベトナム経済の復活も簡単ではありません。

4、ベトナム製造事業者のケース

 私の回答をお送りした後で、日系企業で製造業を経営しているベトナム在住の清水さんという方から以下のようなメールが入ってきました。製造業の現場の悲痛な声を感じることができます。

 「弊社は塗装会社をしており、売り上げの50%はサムスン向け携帯電話部品です。今回の武漢肺炎の影響で、4月中旬から仕事が0になりました。在庫があまりにも残っている状態です。バクニンのサムスン本体、下請け会社を含み、4月中旬には10万人以上の雇用がなくなったと聞いています。

 私達の会社は孫請けですので、サムスンの第一次ベンダーから仕事を貰っており、その第一次ベンダーGr1.4万人の従業員を保有していましたが、4月中旬には1万人の首を切っています。現地採用の韓国人も同様に切られたようです。

 サムスンの高級モデルの定価は約15万円/台しますが、高級モデルはすべて生産ストップ。新規モデルの廉価版に切り替えていくようです。ベトナム人も仕事がなくなり、ベトナム国内の景気も大いに下がる可能性ありです。

 ハノイ地域の縫製業も、米中経済戦争の影響で仕事が有り余るほどでしたが、欧米の仕事が激減し、どこの会社も80%以下のキャパになっています。

 ベトナム国内向けとして、弊社はホンダのバイク部品の塗装をしていますが、生産計画が落ちています。国内消費が小さくなることを見越しているようです。

 ベトナムの製造業の現場の声ですが、このような状況が世界各地で起こっているものと思います。狭い範囲の災害であれば代替地で補うことで回復が早められますが、今回は世界規模の禍ですので簡単には回復できないでしょう。

5、経済危機を乗り切るため社会主義的政策に向かう国々

 世界の最適な場所で生産し、最適な場所でサービスを提供してきたグローバル経済は、今回のコロナ禍で大きな転換点を迎えることになったと思います。グローバル化と逆の方向に進む予感があります。世界的に失業率が高まるのは避けられない情勢です。各国政府も自国民の就労と自国内の企業を何とか守るために、自国第一主義が台頭することになるでしょう。

 各国ともに大規模な財政出動でこの危機を乗り切ろうとしています。アメリカをはじめ主要な資本主義国もそのような危機においては、社会主義的政策で乗り切ろうとしています。資本主義と社会主義とはいったい何だったのでしょうか?資本主義は個人あるいは民間が生産活動に必要な土地、資金、施設・設備(これらを資本と言います)を持って経済活動をする仕組みです。社会主義ではそのような資本は、国あるいは公共のものと考えます。災害時には国の助けで資本を確保する方法を取ります。個人や民間の力では資本が維持できないからです。

 特に国の政治や経済に大きな影響を与える事業が最初に国営化されます。世界の航空会社を国営化しようという動きも加速しています。イタリアのアリタリア航空、ポルトガルのTAPポルトガル航空、フランスのエールフランス、ドイツのルフトハンザなども国営化のうわさが出てきています。国の重要な輸送手段としての航空会社をつぶすわけにはいかない場合は国営化という手段を取らざるを得ません。

 歴史をだどっても経済の復興には国の力が必要な例がたくさんあります。1929年に発生した「世界大恐慌」から経済を立て直すためにアメリカ大統領のフランクリン・ルーズベルトが取った政策が「ニューディール政策」です。大規模な公共事業を拡大させて、雇用の創出、産業の拡大を行いました。テネシー川流域開発公社を設立し、多数のダム建設や植林を行い、流域の地域開発、電力供給の拡大をし、経済の立て直しを図ったことは有名です。

 ただ、一定の成果はもたらしましたが、1937年から再び経済は低迷し、最終的にアメリカ経済を立て直したのは、日本の真珠湾攻撃をきっかけに戦時体制に転じ、大量の軍需産業を稼働させて、労働者を動員した結果、アメリカ経済が立て直されたとのことです。このような不景気においては、自由経済では立て直しができない可能性があります。非常事態には国家の権力が強まり、社会主義的あるいは国家主義的な方法で経済の再興を果たす例が歴史からも読み取れます。

6、令和2年度補正予算から見た日本政府の取り組み

 世界各国が大きな政府、言葉を代えれば社会主義的政策によってこの危機を乗り越えようとしています。日本でも経済産業省が出している令和2年度補正予算PR資料を見ると政府が何に力を入れているかがわかります。

 4つの項目に分かれた対策と予算規模が書かれています。まず第一に、感染拡大防止策、医療提供体制の整備、治療薬の開発に関する予算配分です。この項目には230.2億円の予算を計上しています。当然ですが、感染防止、医療体制の整備は、今やらなければならない喫緊の課題であることは誰が考えても当然でしょう。

 第二に、雇用維持と事業継続への支援です。この分野には政策金融公庫や民間金融機関からの融資枠などもありますので、すべてが国の予算というわけではありませんが、61761億円を見込んでいます。経済的に苦しむ人がたくさんいる中で、その人たちの生活を守ったり、雇用を維持する企業を守ることは健全な国民生活を守るためのどうしても必要でしょう。

 第三に、甚大な被害がある事業分野への経済活動回復のための支援策です。仮称でGO TOキャンペーンと書かれていますが、観光地、飲食店、イベントなどへの支援を含めて、16819億円を計上しています。インバウンド需要が急速に減っている観光分野や文化スポーツイベント、飲食業などは甚大な被害を受けている業界への支援策です。それらの事業を守れないと人々の生活が殺伐とした楽しみのないものになってしまいます。

 第四は、強靭な経済構造構築へ変化させる支援です。ここには項目数は多いのですが、438.6億円を計上しています。サプライチェーンの強化、デジタル化、キャッシュレス化、地域分散のためのクラウド技術開発などです。簡略に説明すると社会のIT化推進とサプライチェーンとして国内の充実、海外においては1か国に集中させないで代替地を確保することを求めています。代替地の候補は東南アジアと明記されていることから、ここに関してはベトナムの私の事業にも関わってくるところです。この分野はコロナ後の世界をどんな方向で築くのかの方向性を示している事業です

 このような大規模な補正予算を計上することからも、今回の危機の重大さが見えてきます。日本はまだ経済力がある国です。これだけの大規模な補正予算を使って緊急対策ができますが、今回の補正予算の財源は赤字国債を発行して確保します。赤字国債とは、国が債券を発行して広く人々からお金を借入する方法です。国債を直接買う人は少数ですが、金融機関が購入しているので、個人が購入しているのと同じことが言えます。

 国債の代表例が建設国債です。国債で得たお金を将来の資産の道路、橋、ダムなどの公共の施設のために使い、何十年かけて国民の税金で返していくことは、今の世代の税金から支出するより、世代をまたいで負担することになり、利用者が公平に負担していることになり合理的な方法です。

 しかし、今回のは特例国債(いわゆる赤字国債)の発行です。このような事態の対策として、税金では不足するので国債を発行して金融機関を通してお金を借りることになります。赤字なのでそれを補うための借金です。財政の健全化には反するので国としてはあまりやりたくない方法ではあります。赤字国債に頼りすぎるとどんな問題が発生するかは、多少知っておく必要があります。

 収入と支出のバランスを無視して借金をすれば、借りたお金を返せなくなります。そのような状態を債務不履行(デフォルト)と言います。必ずしもデフォルトにならなくても国債を大量に発行しすぎると、あの国の国債は満期に返ってくるだろうかと不安を感じる人が増えることになり、それに伴い買い手がつかなくなり、価格が暴落します。さらにその国に投資したい人が減りますので、為替や株価にも影響します。1998年にはロシア、2001年にはアルゼンチン、2010年にはギリシャで起こったのが、国の財政赤字に端を発した経済危機でした。

 個人の借金の場合は破産ということになりますが、国の場合は別の方法が取れます。一旦金融機関が購入した国債は、経済活性化のために金融緩和するときに中央銀行が買い取ります。中央銀行は紙幣を増刷して買い取ることになります。市中に大量の紙幣供給が増えるということは、お金の価値が減少することになります。結果的に国の借金を国民の個人の財産で肩代わりさせられていることと同じです。

 そのことから将来のどこかの時点で、インフレの引き金になるっことも想定しておくべきかもしれません。ただ、今回の世界的な危機を前にしては、そのような財政出動なくして解決はできません。補正予算で緊急対策することはやむを得ないと思います。しかし、副作用があり得ることは考えておくべきかと思います。

以上