2020年9月17日

1、ベトナム月刊誌「エミダス」への出稿

  ベトナムでは日本企業の進出が年々増加しています。今年はコロナの影響で進出しようとしていても渡航が制限されているので、多少止まっていますが、それでも問い合わせがたくさんあります。そのような状況もあり、日本人向けのフリーペーパーも増えています。昨年創刊したばかりの雑誌「月刊エミダス」という雑誌がありますが、そこから特集記事の執筆依頼をいただきました。私が書いたタイトルは「新型コロナに対峙する企業経営のピンチとチャンス」としました。今回はその内容を中心にお伝えします。来月早々には出版されるものと思います。以下にその内容をお伝えします。

 

世界中が新型コロナの感染拡大によって大きな影響を受けています。死亡者の数も増加していますし、経済の停滞は今後ますます深刻さを増していきそうです。2008年から日本企業のベトナム進出のお手伝いをしている私も従前の業務の減少に戸惑っています。 外国人の渡航が制限されている中で、日本企業進出支援、不動産紹介、ビジネスマッチングなどをメインの事業にしている弊社でも経営への影響は甚大です。親しくしている経営者からアドバイスをいただいたり、親会社と相談をしたりしながら、この難局を乗り越えようと腐心しているところです。

 

多くの人たちが初めて経験するパンデミックを厳しい試練と感じている人は多いことでしょう。経済的苦境にもがき苦しんでいる人も多いと思います。しかし、苦しいときの対処の仕方で将来は変わってくる可能性があります。普通にやっていてはどうにもならないときに、イノベーションの芽が生まれることはよくあることです。現実にITバブルが崩壊した後に、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が事業を拡大していきました。つい10数年前のことです。

 

「人間万事塞翁が馬」という言葉があります。その意味は、「人生における幸不幸は予測しがたいこと。幸せが不幸に、不幸が幸せにいつ転じるかわからない。人生どんなときも一喜一憂すべきでない。」という意味が含まれています。つらい経験が人間の成長にとってはプラスになり、失敗が成功への源になることはよくあることです。苦難の時ほどイノベーションが起こりやすいのもこの世の常です。私も今回のパンデミックではいろいろ勉強する機会を持つことができました。

 

2、パンデミックが与える経済危機の把握

 

コロナ禍が社会に与える最大のマイナスの要因は人の移動の制限です。すぐに悪影響が表れる事業があります。観光、宿泊、飲食、エンターテイメントなどです。ローカルな地域に密着した事業にはすぐに影響が出ます。それらの事業に従事している方々は気の毒だと考える人も多いでしょう。心の中では自分はそのような事業でなかったから良かったと思っている人もいることでしょう。

 

しかし、危機は特定の事業だけに留まっているわけではありません。経済は血液の循環に例えられます。血液の流れが止まれば、他の臓器にも甚大な影響が出始めます。直近の危機は血液が止まったところに現れますが、やがて離れたところでも悪影響が連鎖します。本当の経済危機はコロナの感染に遅れて拡がります。地域の観光や飲食などローカルの不況から始まり、グローバルな事業者にも影響をもたらします。外出は控えられ、消費はブレーキがかかりますから、各産業でも売り上げが下がります。企業の収益が下がりますので、そこに働く人の給料が下がるか、失業者が増えることになります。このパンデミックは世界規模の感染ですから、世界規模で経済へのマイナスが拡大します。

 

従来は好況の地域では売れていた自動車、電機、アパレルなどの製造業も、全世界が不況に陥ることから在庫が増え始めることでしょう。次の段階では、将来の投資計画により収益を上げる産業にも影響が拡大します。既に決まった投資は実行される可能性がありますが、将来の計画からは省かれていくでしょう。建設、設備投資、ITなどの分野は今後大きな影響が出始めるでしょう。

 

グローバル展開している大企業は、大量のお金が動いています。経済が急に減速しても、大企業は急ブレーキがかけられません。図体が大きな企業は軽傷の時に手当てをしていないと、急に重症に陥ります。大企業には金融機関が大きな融資をしているケースが多くあります。大企業が痛んでくるとファイナンスにも悪影響をもたらします。リーマンショックのような金融危機にも波及します。

 

3、パンデミックの危機を生き残る心得

 

危機の渦中それぞれの立場でものの考え方が違うことを感じています。それはオーナー社長として経営している人とサラリーマンの人の考え方の違いです。私にインパクトを与えてくれたのは、あるオーナー社長の危機の捉え方です。

 

ベトナムに在住のIT会社社長、飲食店経営者など自身がオーナーの経営者の考え方は生き残り戦略の参考になります。このパンデミックの経済危機において、多くの経営者がいかに考えて行動しているかを私の知り合いのオーナー社長の言動をもとに考察していきます。

 

オーナーとサラリーマンの考え方の違いは、危機意識の強さです。オーナー社長ほど最悪の事態を想定して将来を展望しています。どの時点で休業するのか、その時に従業員をどうするのかを想定している人もいます。この危機意識の高さは、自分の資金をつぎ込んでいることもあり、自分の人生は自分で決める覚悟を持っているからなのでしょう。

当然良い時もあったでしょうが、厳しいときも経験したからこそ、最悪の時でも生き延びるためにはどうするのかを常に考えているようです。

 

また、このような危機には現金を持っている人が強いと言います。外国人相手に小売り、飲食、サービスを提供していた店は、外国人が入国できない影響で、店じまいするところが多くなりました。高い家賃を支払う余裕がなければ、傷が浅いうちにすぐやめるのは当然の選択です。店が撤退した後、立地のいい場所にはすぐに買い手がつきます。現金を持っている企業が買うには絶好のチャンスです。

 

将来の収入が確保されていたとしても、キャッシュフローが止まってしまえば事業は継続できません。オーナー社長たちは残高の把握に関しても厳しく見ています。弊社の親会社の社長もオーナー社長ですが、残高の把握には厳しく、甘い資金援助をすることはありません。それは危機を乗り越えられる経営者の考え方の鉄則かもしれません。

 

経済の状況が変化する中で、弊社の事業も大きな影響を受けています。危機に際して思うのは、リーダーシップは重要であることです。どちらかというと独断即決できるタイプが危機を脱する力があるように思います。独断即決型のリーダーは、日本型経営に代表される調整型リーダーとは対極にあるように思えます。ただ、この危機に必要なのは独断即決のリーダーでしょう。

 

この間に数人のオーナー社長から教わったのは、最悪を想定して行動すること、現金と残高の把握、経営の優先順位をつけること、反転攻勢への意識です。危機を経験することで、何でもやってみる気持ちが生まれたことは、コロナ後の世界でもきっと役に立つだろうと思えます。

 

4、在ベトナム日系企業の生き残り戦略

 

危機の渦中であってもベトナムに進出している日系企業は生き残るための戦略的な取り組みをしている例があります。私がお付き合いをさせていただいている企業の情報しかありませんが、いくつかの例を紹介します。

 

① 製造品目を切り替えたアパレル製造企業(TOP FACTORY社 松尾泰宏社長)

 

この企業は工場内でのライン契約運営から、工場全体を運営することになり、最近ビンフック省に会社を設立しました。従来は女性用スーツなどを製造していましたが、コロナ禍によって需要が大幅に縮小しました。従業員の雇用を守るためにも需要のある製品製造にシフトしています。現在製造しているのは医療用防護服やマスク、バスローブなどを製造しています。この機会に新たな販路も拡大中です。

 

② オフショア開発中心から自社開発アプリのサブスクリプション・ビジネスに進出(ISV社 糸見圭太郎社長)

 

IT企業は今のところ、コロナの影響は少ないとみられています。しかし、来年度からの

受注はかなり減るだろうとの見方があります。それは各種サービス企業、特に日本を支える製造業で将来投資の計画が見直され始めているからです。

 

この企業はオフショア開発業務の減少を予想して、ベトナム国内向けのクラウド版アプリ開発に力を入れ始めました。定額的に売上げが見込める「サブスクリプション」方式のビジネスモデルに進出し、経営安定化する戦略に舵を切りました。

 

③ ウェブを活用した集客に力を入れるコンサル会社と法律事務所

 

私は最近複数の無料ウェブセミナーに招待されました。一つがプロネクサス・ベトナム社(斎藤みどり社長)とインサイト・アジア社(若林勇飛社長)共催のオンラインセミナーです。適性・資質診断テストを活用した「採用と組織強化のための人財可視化」セミナーです。もう一つは渥美坂井法律事務所(三浦泰晴弁護士)から招待された法律セミナー「ベトナム労務の最新動向」です。この事務所は新型コロナに関する無料法律相談もオンラインで行っています。

 

その他、集合型の会議ができないこともあり、Zoomなどを使った会議もいたるところで行われるようになりました。私の実感ではリモートであっても特に違和感はありません。今後このような手法が急激に増えていくことでしょう。

 

④ ベトナム進出支援から代行支援(アイクラフトJPNベトナム 弊社のケース)

 

弊社も日本企業のベトナム進出から派生する事業で何とかやってきた企業です。ところが外国人の入国ができないなか、従来のビジネスが成り立たなくなりました。コロナ禍からの新規ビジネスとして、「ビザ延長のサポート」、ベトナムに入国できない企業向けの「出張代行支援」、最近リリースしたのは、「ベトナム入国手続き支援サービス」です。ベトナムに入国できないで困っている方のためにベトナム人民委員会での承認取得、入国管理局の承認取得、保健局隔離指示書の取得などの代行サポートです。

 

5、10年周期で襲ってくる経済危機

 

多くの人にとってパンデミックは初めての経験でしょう。スペイン風邪というパンデミックがあったのが約100年年前、大きな危機は100年に一度やってくると考える人もいるでしょう。しかし、危機は意外と多いのです。ここ30年に起こった経済危機の例をあげましょう。

① バブル崩壊 (1991年~1993年)

プラザ合意後の急激な円高対策のための金融政策により、空前の財テクブーム、不動産投資ブームになり、それを調整するため取った政策「総量規制」により一気にバブル経済が崩壊。

② ITバブル崩壊 (2000年~2002年)

ITバブルが発生後崩壊。シリコンバレーの企業家支援投資ファンドが縮小し、多くのIT企業が倒産。生き残ったのがGAFAです。その後日本でもライブドアショックなどIT企業の不祥事が発生。

③ リーマンショック (2008年~2009年)

サブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)に端を発した金融危機。投資企業リーマン・ブラザースの経営破たんをきっかけに、世界中に金融危機が拡大。

 

日本では1995年には阪神大震災があり、2011年には東日本大震災もありました。危機はいたるところにあります。危機は頻繁に起こると考え、準備していた方が間違いないようです。

 

実際のコロナ感染の医療現場では、基礎疾患のある人の死亡率が高いことが言われています。同様なことは企業にも当てはまります。古い組織や従来型の経営方法では危機に対応できなくなっています。「終身雇用」「年功序列」「企業別労働組合」が日本型経営の三種の神器と言われるようですが、既に時代に合わなくなっています。

 

日本は1960年代~1980年代まで高度経済成長を経験しました。第二次世界大戦に敗北した日本は、復興のために国民が一生懸命働きました。その結果、高度経済成長を成し遂げ、自信を回復しました。その自信が日本型経営を維持させてきました。逆に言うと30年も安定した高度成長があったことが、イノベーションの芽を摘んでしまったとも言えます。

 

6、危機を乗り越えるための考え方

 

日本は長期の経済停滞下に新たな危機に見舞われました。今こそ変わるチャンスです。日本型経営に動脈硬化の兆候が表れ、時代の変化に対応できなくなっています。日本にだけいると変化する必要性の感度は低くなります。その点海外に渡り事業をしている日本人は、変化できるチャンスを与えられています。変わらなければ死んでしまうという危機意識があれば変えようとするでしょう。人体で動脈硬化を起こした場合、人は真剣に運動や食事制限で体質改善をしますがそれと同様です。

 

コロナ後はグローバルから国内回帰が起こると言う人もいますが、人の移動は減ってもモノとサービスの移動は止まっていません。国内回帰をするだけでは、少子高齢化が進む日本は「じり貧」になってしまいます。日本にとって海外との縁を失うわけにはいかない事情があります。誰かが海外との縁をつなぐ必要があります。それに加えて米国と中国の覇権争いは激化しています。ポスト中国として最も注目されているのはベトナムです。ベトナムで勤務している方にとっては、グローバルは続くと捉えるべきでしょう。人の移動はこれからも急激には増えないでしょうが、海外を拠点に勤務している方には役割が集中しチャンス到来です。

 

また、デジタル技術の進歩やリモートワークの定着で、海外にいても日本にいるのと変わらない業務ができます。ベトナムでも駐在している日本人の数は減りました。ベトナムにいる人にとってはチャンスです。なぜならば、ITバブル崩壊後、IT企業が減りましたが、その少数になったIT企業から急激に伸びていったのがGAFAだったからです。生き残れば新しいビジネスをするチャンスが、ブルーオーシャンの中で拡がります。

 

「人間万事塞翁が馬」の故事を深読みすれば、危機が人を強くすると考えられます。苦難の時があるからこそ成功を掴む要因になるのです。コロナ後の社会において、グローバルとデジタルはこれからもキーワードでしょう。地域ではアジア、その中でもベトナムがキーワードとなる気がします。そのためにも今は生き残ることに全力をあげる時期と言えるでしょう。危機を材料に変化できた企業が、コロナ後のチャンスを手にすることができると考えています。

 

以上