2019.1.9

 2019年を迎え、今年がどのような年になるかは、はなはだ不透明な年になりそうな予感があります。米国のトランプ大統領の動向が世界に何をもたらすのか、楽観できない展開もあり得ると思われます。覇権国を目指す中国とのせめぎあいは今年も続くでしょう。日本はというと、韓国との対立が留まる気配がありません。個人の人間関係もそうですが、こうなってくるとすべて相手を否定する心情になってしまう可能性もあります。ヨーロッパの混迷、中東の混迷を含めた国際社会は、経済のグローバル化の中で、反面教師としての自国第一主義を叫ぶ勢力が多くなっています。なぜこのような問題が起こるかは、私にとっても関心があるテーマですが、どこかの機会に触れたいと思います。

 日本では入管難民法が成立し、特定技能1号と2号といわれる外国人労働者を日本に迎えるための法律が4月から施行されます。どのような変化が日本にもたらされるか注目です。今までの技能実習生制度は、いったん着いた職場を変更する権利がありません。どんなに不満があってもその職場を代わるわけにはいきません。自由度が全くなく現在の奴隷制のような仕組みには問題があるものと思います。新しい制度は転職の自由などが認められているのでしょうか?制度の内容にまだ詳しい情報はなく、今後の推移を見定める必要があります。ただ、儲けることに敏感な人たちは、この制度の変更をビジネスチャンスととらえている人も多いようです。

 さて、私はこの1月に2つの講演を依頼されています。一つは公益財団法人日本生産性本部が受託しているANAのマネジメント層の海外研修(ベトナム)の研修スタート時の講演です。もう一つは私の会社が受託している大阪府海外サポートデスクとして大阪府と大阪信用金庫が主催するセミナーの講師です。そのための資料づくりをしている最中です。そのこともあって、今回の放送にはその時にお話をする内容をかいつまんでご紹介します。セミナーは1時間程度の話なので、一部のみお話をします。

 大阪府のセミナーのタイトルは、「変化するベトナムのビジネス事情」としました。サブタイトルとして「日本とベトナムの関係性はどう変わるのか」ともしました。まずは日本企業がベトナムにどのように入ってきているのかをお伝えします。製造業については、商品を製造してベトナム国内で販売したり、海外に輸出する企業はありますが、多数を占めているのが製造したものをすべて輸出する企業です。

 なぜ製造業がベトナムに移動しているかのロジックは結構簡単です。労働者の賃金が圧倒的に違うからです。ベトナムの工業労働者の賃金は25000円~30000円程度です。しかし、ただ賃金が安いだけではうまくいきません。まだインフラがない国や労働者に教育が必要な国では、賃金が安くても売れるものが生産できません。その点、ベトナムは労働力が安い割にほかの面がしっかりしています。

 それだけではありません。ベトナムでは輸出するだけの外資企業を誘致して、雇用の確保と法人税の確保をすることができます。そのような企業を積極誘致するために、輸入する原材料に関税と消費税(ベトナムでは付加価値税)をかけず有利な加工ができる輸出加工企業(Export Processing Enterprises)や輸出加工特区(Export Processing Zone)という優遇策を取っています。このEPEEPZはベトナム国内でありながら一部の税の措置としては外国として扱う考えです。法人についてはベトナムの企業とみなしますので法人税やそこに働く人の所得税はベトナムに発生します。ただし、EPEは関税や消費税などの税がかからないように優遇されています。

 EPE企業として認められるためには、外部との接点を極力なくすためのフェンスの設置、部材を持ち出さないことを確認するカメラなどのセキュリティ装置の設置が必須です。また、原材料や製品を置いておく倉庫も「保税倉庫」といわれる倉庫でないといけません。このようにベトナムにいながらも擬似的な国外を作って製造をするのがEPEEPZといわれる制度です。発展途上国は外資を誘致するために関税を犠牲にしてもこのような方法を取ることも多くあります。

 工場労働者の賃金が月3万円程度と低額であり、関税などが無料であれば、日本国内と比べて輸送コストだけを上乗せするだけですので、価格の優位性は明らかです。製造業が日本から出ていくのにはこのような事情が存在します。アップルなどのグローバル企業は世界のどこで生産するのが最も利益率が高いかを計算しています。アイホンのカメラの部分だけは、ベトナムで製造しています。そのような流れはしばらくは止まらないと思われます。

 それ以外にベトナムの産業政策上で特別に誘致したい産業に関しては、優遇措置を与えています。特にハイテク産業やIT企業には法人税の優遇措置が与えられます。会社設立から4年間は法人税が無税、次の9年間(5年から13年)は50%削減、その次の2年間(1415年)は10%が削減されます。ベトナムの法人税率は20%ですので、4年間0%、9年間10%、2年間18%の法人税率ということになります。この分野は、ベトナムも人材育成に力を入れており、優秀な技術者を輩出しています。時代が新しい通信技術の開発に進む中、ベトナムはIT産業と技術者の育成に力を入れています。AI(人工知能)をベトナムで生産するようなことも起こり始めています。

 ベトナムではIT分野とハイテク製造分野の企業誘致を促進しています。その甲斐もあって、通信機器、特にスマホなどの製造業が育っています。ベトナム経済に最も影響を与えているのが韓国の通信機器製造メーカーのサムソンです。ベトナムの貿易が黒字になっているのは、サムソンのスマホ「ギャラクシー」がベトナムで製造されて、全世界に輸出されているからです。その要因もあり、国民のスマホ普及率が急拡大しました。それによってシャアリングビジネスやFintechが普及し始めています。シャアリングビジネスとは、車やバイクの配車サービスとコンドミニアムの民泊サービスです。スマホを使って予約します。ベトナム人はすでに自由に使いこなしています。

 そのほかMOMOPAYHOOという電子決済システムも普及し始めています。MOMOはアメリカの投資会社ゴールドマンサックスなどが支援をしています。PAYHOONTTデータが協力して開発をしています。電子決済とはスマホを使って決済するキャッシュレスな決済方法を言います。このような動きはさらに加速しており、2019Viettelという通信会社(日本語に訳すとベトナム軍隊工業通信グループ)が5Gサービスの実験提供をホーチミン市で行う予定です。5Gとは、高速・大容量、超多数端末接続、超低遅延、超高信頼性を実現する次世代移動通信システムです。そのようなビジネスが広まりつつあるベトナムです。

 一方ANAへのセミナーについては、ベトナムの一般的なお話のほかにベトナムの航空業界について触れました。航空会社は以前はベトナム航空一社だけでしたが、ここのところLLCが急増しています。その中でベトナム最大の航空会社はベトナム航空(Vietnam Airline)です。国内線41路線、国際線55路線も持っており、保有機材数は97機です。ANA8.8%の株式を持っています。次の会社はLLCなのですが、急成長中の会社で、Vietjet Air(ベトジェットエア)といいます。2011年運航を開始した会社ですが、去年から関西空港とハノイ、ホーチミンを結ぶ便も始まりました。国内17路線、海外22路線となり、現在の保有機材数は56機ですが、発注機数がなんと325機にも上ります。

 この会社の女性社長は大変有名です。グエン・ティ・フォン・タオ(Nguyen Thi Phuong Thao)さん48歳ですが、米国経済誌フォーブスでは、2018年版では最も影響力のある女性トップ100の44位にランクインしています。ちなみに第一位はアンゲラ・メルケルさんです。ご存知の通りドイツの首相です。この会社は奇抜なアイデアでいつもお客さんを驚かせています。機内ファッションショーと銘打って、ビキニスタイルでキャビンアテンダントを搭乗させたこともありました。さすがに政府から罰金を言い渡られましたが、その罰金も8万円程度というので宣伝効果としては莫大だったでしょう。「Vietjet画像」で検索するとその時の写真が出てきます。そのほかJetstar Pacific航空も保有14機、Vietnam Air Service 保有3機の会社があるほか、新規に参入の動きを見せている会社が3社ほどあります。そのように需要が急増するベトナムでは航空産業に参入する会社が増えつつあります。

 このように急成長するベトナムですが、問題点も数多く抱えています。それは徐々に人件費が上がり始めており、ベトナムだからコストが安いとは言えない状態に進んでいます。今はまだ相対的に安いですが、賃金上昇は止まることを知らない状態です。日本との格差は徐々に縮まっています。また、何よりも問題だと思うことですが、納税意識に乏しいことが問題だと思います。裏取引やわいろが横行している構造では、きちんと納税しない手法が横行しています。特定の利権を持った人が、所得税も固定資産税も相続税もほとんど支払わない税の仕組みは、富の固定化を生み、能力あるものがチャンスをつかむのではなく、金の力で社会をコントロールする仕組みとも言えます。資本主義の先進国が金融資本主義化するのと同様に社会を不安定化させる重要な問題と感じます。冒頭で述べた世界の混乱の芽は、貧富の格差拡大による要素が強いと思います。貧富の格差が大きくなることによって、社会の安定性を維持できなくさせる可能性があります。

 今回は主にベトナムのことを書きましたが、ベトナムの社会の変化が日本に与える影響について触れたいと思います。製造業は海外に出るという選択をしていますが、海外に出られない国内産業は新たな問題を抱えています。それは少子高齢化の中で、外国人から労働力を得る必要が急務になってきています。しかし、誰もやりたくない仕事を、安い賃金で外国人が受けてくれるのは一定の時期だけです。ベトナムでは都市化が進み、都市には外国企業の進出が盛んです。その中で人材教育も進み、もはやそんなに安い給与ではなくなってきました。もはや都市部の若者が、技能実習生として日本に行かなくなり始めています。今でも技能実習生になるのは、田舎の農業以外に仕事がない若者たちです。

 その若者たちも急速に発展を遂げている通信技術のせいで、ネットワークが広くつながっています。日本のLINEのようなベトナム固有のメッセンジャーはZALOと言って、利用者数はベトナムの人口より多い1億人が利用しています。そのような変化の中で、劣悪な環境に置かれている技能実習生の情報は、ほかのベトナム人にも共有されています。逆に優良な環境の実習生の情報も共有されています。ブラック企業の情報は今後ますます共有されることになるでしょう。今年4月から導入される特定技能1号、2号という制度が始まりますが、ベトナム人に転職の機会が増えれば、劣悪な労働環境の企業はベトナム人からも見放されることになるでしょう。

 また、ベトナムが力を入れていいるIT産業に関しては、日本のオフショア開発が盛んにベトナムで行われ、一部の技術者は日本に派遣されています。ところがベトナムの日系のIT企業からIT技術者の離職は相次いでいます。理由は欧米系の企業のほうが高い給料を出すからです。また、日系は日本語が必要ですが、欧米系は英語でよいため、言葉の汎用性が違います。英語ができれば高給な給与ができるので、日本企業から転職する場合も多くなっています。ただ欧米系企業は使えないと判断した場合、雇用の延長はしません。欧米系企業を辞めた技術者が日系に戻ることもよくある話です。

 ただ全部の日本企業がそのようになっているわけではありません。ベトナム人は自分が成長できそうな環境であれば喜んで仕事をします。自分の成長を助けてくれる企業がベトナム人にとっては良い会社です。私の会社でも社員の日本語学校での勉強の費用を一部援助するようにしました。社員を使い捨てにしているような企業は日系、欧米系に限らずベトナム人の人気を失っていきます。いい会社とは普遍的に社会の役に立っていると同時に自分にとってもプラスになると思われる企業なのです。

 今後の日本とベトナムの歩み方を考えたときに、伸びシロが大きいベトナムと伸びシロがない日本が、お互いのいいところを補い合える関係性を築けないかと思います。文化的にもお互い大乗仏教国で、年上の人を敬う文化があります。主に箸を使うのは、全世界では東アジアの国とベトナムです。周辺のタイやミャンマーなどは利用はしますが、主ではありません。基本的にベトナム人は勤勉でまじめです。ただ、戦争後資本主義の歴史が浅い国柄もあって、会社を経営できる人が限りなく少ないのが実情です。国営企業ばかりの中で、資本主義の中で会社経営ができる人が限りなく少ないのがベトナムの現状です。ベトナム人の富裕層は企業家というよりは、有力な不動産や特権を持っているがゆえに富裕層であるだけです。不動産の急激な高騰で泡銭を手にしているだけとも言えます。

 ベトナムのお店に入るとレジの順番を守らないなど、日本人から見るとびっくりすることがあります。それはそのような教育がされていないからです。ルールが明確でないからです。国の法律もあいまいなものが多くルールがはっきりしない社会といえます。逆に納税意識が高く、公共意識が高い日本人は、社会の仕組みがきちんとできています。将来的にベトナムが発展するためには公平なルールによって社会が運営されなければならないと考えています。

 その反面、道路の渋滞や人とのやり取りにおいて、日本人は神経質すぎると思うこともあります。ベトナム人はちょっとした接触事故など、一言文句を言ってもあまりそれ以上こだわりません。それに比べ日本はストレス過多社会なのかと思います。比較的のんきで熱帯性の開放感を持っているベトナム人と日本人が、お互いを尊重できれば、いい関係になるものと思います。人との関係性は相手をリスペクトする、あるいは尊重する姿勢があるかどうかになります。そうでないと良好な関係ではなく、ギクシャクした関係になります。日韓の関係がその逆の方向を向いていますが、双方相手を受け入れられなくなっているからです。

 日本はどこの国ともギクシャクした関係になることはできません。外国人労働者を数多く迎えるようになった日本では、外国人にも喜んで働いてもらえる社会を作ることが将来の日本にとって重要だと思います。そもそも今の制度は矛盾に満ちています。技能実習生は労働者ではなく、将来母国で技術を生かすために実習に来ている人という建付けで労働者ではありません。また、コンビニや居酒屋などで働く外国人も留学生のアルバイトという建付けです。ベトナム人に限って言えば貧しい田舎から出てきて、親や兄弟たちにいい思いをさせたいという気持ちで日本に渡った若者たちが、心折れて日本を嫌いになることは悲しいことです。日本人が外国人に頼らなくてはならなくなった以上、相手の痛みや立場を理解することの重要さは増してきています。

 製造業が海外に流出する中、日本に来る外国人労働者も他の第三国とのの取り合いになりつつあります。そのような人たちが日本を避けて流出するようになれば、日本の行末は相当悲惨でもあります。どちらに進むのかが問われる時代になっていることを感じる必要があります。

以上