2020.04.15

1、「人間万事塞翁が馬」の心境

「人間万事塞翁が馬」という言葉があります。その意味は、「人生における幸不幸は予測しがたいということ。 幸せが不幸に、不幸が幸せにいつ転じるかわからないのだから、安易に喜んだり悲しんだりするべきではない」ということです。私の心境はこの言葉を念じて、なるようにしかならないから、じたばたしてもしょうがないと思おうとしているところです。ただ現実を明確に把握して、できることできないことを想定し、できない場合にどうするかを早めに決めていかなければなりません。

 コロナウィルスの世界的な拡大が未だ止まっていません。ベトナムで日本企業の進出支援などの業務をしている私の会社でも、新規の仕事が急速に減り始めています。外国人が入国できない状態が1か月以上続いていますので、当たり前のことです。今、海外の渡航しようとする人もいませんし、海外に進出しようという状況でもありません。当然会社の業績は落ちていきます。会社を運営するためには毎月の固定費が必ずありますので、いずれは固定費の支払いが難しくなるでしょう。避けたいですが、そんな予想は簡単に立てられます。固定費の中で大きなものは人件費とオフィスの家賃です。今後、どうしていくのかを今から考えておかなければなりません。

 ただ、今の段階はやれることをやって、できなければ減らす、あるいは止めると言う選択以外はありません。このような緊急事態では、今まで思ってもみなかったことが起こります。でも、コロナの問題は私のミスでもありませんので、変に落ち込むのではなく、現実を受け止めて可能な対処をするしかないと考えるようにしています。

 私がベトナムに来て13年目になります。私が初めてベトナムに来たのは2007年ですが、ベトナムがWTOに加盟したことで、世界からベトナムは普通の取引ができる国になることを評価されました。それにより外国からの投資が急増し、今日のベトナムが伸びる基盤を得ることができました。その後、2008年から2009年にかけてリーマンショック、2012年ごろからのベトナム外貨逼迫から始まった不動産バブルの崩壊がありましたが、影響はあったものの深刻な状態までには至りませんでした。しかし、今回はその危機とは重みが違うことを実感しています。

2、対応が異なる各国の取り組み

 先月は新型コロナ対策でベトナム政府の対応が早いことを伝えました。早ければすべていいかというとそういうわけでもありません。ベトナムでは今までのところ感染者数は257名です(411日時点)。死者の発表はありません。それにもかかわらず対応は迅速であり、強烈でもあります。

 学校は123日のテト休暇以降未だに再開されていません。外国人の入国もストップしています。商店やレストランの営業も多くはストップしています。衛生対策をとれない企業には営業停止の措置もとるようになっています。タクシーやバスも運行停止をしていますので、バイクを使っていない私は活動できる範囲が狭くなっています。食事もレストランが空いてないので、自炊をするか、デリバリーを頼むか、テイクアウトして会社や自宅で食べるかの選択しかありません。

 そのように営業を止めても休業補償という話はありません。社会主義国の強みかどうかは知りませんが、民間の経済活動は民間の責任なのです。ベトナム政府は支払いの猶予や金利の減免程度のことは金融機関に要請をしていますが、経済活動に対する配慮はほとんどありません。徹底した措置を取りながら補償がないので、困窮している人たちがたくさん存在していると思います。感染拡大は抑えられていますが、経済的危機は水面下で進行しています。

 一方で日本では、政府の対応が遅いと言われています。日本政府は民間の経済活動にかなり気を使っていることがそうさせていると思います。緊急事態宣言が47日に発令されましたが、かなり慎重に判断をしていたようです。また、休業要請も理美容店をどうするかなどもめているのも、事業者への配慮があるからと思います。飲食店も営業時間を当するかなどもなかなかはっきりしていませんでした。ベトナムとは大違いです。ベトナムでは前日発表されてすぐに営業停止になります。仮に停止していない店があると公安(警察)が取り締まりに来て、罰金を取り営業停止にしてしまいます。公権力がかなり強いです。マスクしていないで外出すると罰金、三人以上で集まって話をしていると罰金を取られるなどのことが起こっています。

 日本の場合、強権的でないことはいいことだとは思います。ただし、非常事態の対応は何を選択するかの決断が必要です。何かを犠牲にしても決断しなければならないこともあります。日本はそのような非常時に慣れていないこと、みんなの意見を聞いて決める社会であることが影響しているように思います。平時はそれでもいいと思いますが、緊急時はトップが判断をせざるをえないのですが、そんな経験が少ないのが日本ではないかと思います。平時に強い日本ですが、非常事態に力を発揮できるか、これからが正念場だと思います。

 中国はこれも強制的に武漢を完全封鎖して感染拡大を止めようとしました。一定の成果はあったものと思います。韓国などは検査の量を増やして感染者を早期に隔離する措置を取りました。アメリカはニューヨーク州をロックアウトするなどの対策を取りましたが、経済格差が大きい国なので病院に行けない人がたくさんあり、感染者や死者が急増しました。

 リーマンショックは金融システムが傷んだことによる不況だったのですが、今回のコロナは相手がウィルスです。ウィルスを封じ込める戦いをしなければなりませんが、徹底的に戦うと副作用で人間が死んでしまいます。ここで人間が死んでしまうという意味は、ウィルス封じ込めのために外出や営業を自粛すると経済が死んでしまうという比喩の意味を込めています。

3、「リーマンショック以上」のリーマンとは何だったのか

 最近は報道などでリーマンショック以上の恐慌になる可能性を言及されるようになりました。2008年から2009年にかけて発生した経済危機ですが、もう忘れかけているので簡単に復習をしておきましょう。

 2008915日にアメリカ第4位の投資銀行リーマンブラザースが破産法の申請をしたことから、金融の危機が知れ渡ることになり一気に経済危機に拡大しました。破たんの前に身売り交渉も決裂し、政府も救済しませんでした。そのことから深刻度が高いことを世間が知ることになりました。その危機の原因は2007年から問題になっていた「サブプライムローン」の問題です。サブプライムローンとは、アメリカの信用度の低い借り手向け住宅ローンのことです。 そのローンを使って、本来住宅を買えない人も積極的に住宅を購入していました。金利が高いので積極的に金融機関がこのローンに投資をしていました。

 金融機関同士が信用できなくなり、金融市場がマヒをしました。その結果、お金の流れが細り、アメリカを中心に消費や投資が急減し、世界同時不況になったのがリーマンショックです。リーマンショック時は、金融機関の金融仲介の機能を回復させるために公的資金などを投入しました。また、所得が落ち込んだ人も多かったので、減税をしたり、企業が設備投資をしなくなったので公共投資をして多くの国が乗り越えました。

 しかし、今回は既に苦境に入っているにも関わらず、対策を打つことができません。今回消費しない理由はお金がない以外の理由もあるからです。外出できない状況では、消費喚起することも難しいでしょう。また、生活必需品は買っても、それ以外の物を買う意識にはならないでしょう。今回は実体経済が止まってしまっています。金融機関は今後企業を救済するために、国からも要請されて融資を拡大すると思います。ただ、その融資が不良債権化する危険性はかなり高くあります。返済が始まるだろう1年後に経済が回復していることがカギになります。実体経済が止まって、さらに金融危機に陥れば目を覆うような惨状になる可能性があります。

 ただ、終息が早ければ、一時的な所得の減少で済み、経済が急激に改善する望みがないわけではありません。あまり危機のことばかり考えすぎない方がいいかもしれません。コロナ問題はどこかでは終息します。終息する時には元気になるための日々の努力が必要かもしれません。今できることをすることで、精神的にも健康を保っていくしかありません。 

4、「コロナ恐慌」後、アメリカを待つ4つのシナリオ

 前回、経済大国のアメリカが感染の危険性が高いとお話をしましたが、その後の経緯をみると残念ながらあたってしまったようです。これからアメリカがどうなるかをネット検索をしていたところ、日本やベトナムでお目にかかったことがある双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦さんの記事を見かけました。

 思い出話になりますが、私が生保退職後2004年に元日商岩井の藤井次郎(故人)さんが主宰していた「還暦少年団」という勉強会・交流会に参加していた時にお会いした人です。アメリカ経済の話が得意でよくお聞きしました。日商岩井で人事部長をしていた藤井さんは有能な部下の方々をよく紹介していただきました。辞任に追い込まれた菅原前経済産業大臣にもお会いしました。また、若くして肺コルチノイドで亡くなった流通評論家の金子哲雄さんとは親しくさせていただきました。講演会にサクラで参加させていただいたことなどは大切な思い出です。

 余計な話になりましたが、吉崎さんの記事を簡単に紹介しましょう。吉崎さんはアメリカの失業保険申請件数の異常な高さに驚きを隠せません。普通は20万件から30万件程度とのことですが、3/153/21の週が331万件、3/2228687万件、3/304/3661万件と三週間で1680万件の失業が発生していると伝えています。全雇用者の10%程度がこの三週間で失業したことになると伝えています。このようなことはリーマンショックではなかったとのことです。

こんな非常事態を迎えたアメリカですが、恐慌後のシナリオが4つ想定できるようです。わかりやすいので紹介します。

 V字型シナリオ

 短期に終息し、6月くらいから通常の経済活動に戻った場合、失業した人も働はじめ生産も順調に回復する。短期間で経済が回復する。

 U字型シナリオ

 夏ごろには終息するが、経済活動は急には戻らない。消費も当面は慎重になる。国境を超える活動や貿易も減少し、対外投資も低調になる。しかし人間いつかは慣れてきて、徐々に普通に戻っていくことで経済は回復する。

 L字型シナリオ

 年内には終息するが生活スタイルは戻らない。個人は他人と会うのを避け、企業はリスクを取らないで政府援助に頼ろうとする。世界経済全体で生産性が低下し、低迷は長期化する。それがニューノーマル(あるいはニューアブノーマル)として定着し、以前の状態には戻らない。一つだけいいことは気候変動問題の改善になる。

 W字型シナリオ

 夏ごろまでにV字型回復した後で、第二波の感染が始まる。それにとって経済活動が急落する。景気は二番底、三番底となり、コロナ前のような状態には戻らない。経済のパターン、生活のパターンが大きく変化する。

吉崎さんの提示するシナリオでは、V字型になってほしいと思いますが、確率が最も低いかもしれないと私は感じています。嫌な予感ですが、今のところの推移からみるL字、W字の方が確率が高いかも知れません。 

5、経済の今後に考えられる現象 スタグフレーション

 私が大学生の当時、経済学ではスタグフレーションといわれる時期があり、その現象を勉強した記憶があります。1973年のオイルショック以後の経済現象を表した言葉です。停滞(Stagnation)とインフレ(Inflation)をつなげた造語です。言葉の通り、不景気とインフレが同時進行する経済状態のことです。一般的な経済理論では、景気が良くなるとインフレ(継続的な物価上昇)になり、不景気になるとデフレ(継続的な物価下落)になると考えられています。

 経済学ではハイパーインフレという言葉もあります。ハイパーとは高度や超という意味であり、10%以上増加した時に使います。実は不景気の時に、モノが不足するとハイパーインフレになりやすい傾向があります。モノがないのに経済対策としてカネは大量に供給する場合、不況下でも物価は上がることになります。スタグフレーションが起こり、庶民の収入が減りながら、インフレになることも想定する必要があると思います。今日のコロナ禍において、各国政府は緊急資金の投入をせざるを得ないでしょう。そのこともスタグフレーションになり要因です。

 オイルショックの時はアラブ戦争を背景にOPEC(石油輸出国機構)が石油価格を4倍に引き上げたことから、各企業の生産は低下しました。利益を確保するために価格転嫁したことから物価が上昇したことによりインフレは発生しました。トイレットペーパーが日本全国で消えてしまったのもこのころです。今回の新型コロナ禍の経済もこのスタグフレーションの可能性もあるのではと思います。

6、コロナ後の世界はどう変わるか?

 世界は今、異常な緊急事態に入っています。この環境で国家も企業もリーダーがどう考え、何を発信するかが問われています。その点で言えば、国家のリーダーとして優れた発信をしているのは、ドイツのメルケル首相だと思います。メルケル首相は、国民に次のように伝えました。「第2次世界大戦以来の危機を迎えている」「新型コロナウィルスは深刻です。深刻にとらえましょう。国民の70%に至るまでが感染しえます。」「私たちに唯一できることは、感染拡大のスピードを遅らせ、感染を数か月にわたって引き延ばすことです」と伝えました。

 楽観せず、ワーストケースを想定しながら国民に呼びかける姿は、リスク管理の考え方をしっかりと持っているからと思います。感染症の専門家の意見を聞いたうえで、長期戦になり得るリスクを伝え、国民に危機感を共有しています。企業経営においてもメルケル首相の態度は参考になります。危機感をはっきり伝えて、トップはそれに対処する道筋をしっかり伝えることができれば、混乱せず、一つの方向に進めます。今は平時ではなく戦時下なのです。メルケル首相が取った対策はGDP20%程度の経済対策を打っています。この経済対策の特徴は、形式的には企業支援を中心にしていますが、実態的には雇用維持を優先しています。何を残すかを決断することで将来が変わってきます。

 大恐慌程度の経済危機が起こるとの話もある中で、コロナ後はどんな変化を迎えるのでしょうか?何が本質かの変化が加速されることになることを期待しています。人々の価値観が大きく変わることです。貧富の格差を増大させた金融資本主義から、サスティナビリティ(社会の持続可能性)、エコロジー、地球環境な人類が共存することの重要性を真剣に考えるようになってほしいと思います。人は何が幸せかの価値観が変わることを期待しています。また、今までの平時にしか通用しなかった価値観が崩壊することもあると思います。旧来の体制では乗り越えられないのであれば、経営でも新しい考えが台頭することと思います。

 今後テレワークなどIT技術を使ったビジネスはますます重要になるだろうと思います。リアル店舗よりも仮想店舗を増やす動きになっていくとも思います。また特に大きな変化は一極集中のリスクを思い知らされることになるでしょう。もしかしたら逆都市化が進むかもしれません。その他産業の国内回帰や反グローバル化が進むなどという人もいます。デジタル機器を活用した監視型社会になっていくと言う人もいます。

 コロナ危機は未曽有の危機になる可能性があります。しかし、何が大切なのかを改めて問い直すことができたら、今まで見いだせない価値を再発見するチャンスになるかもしれません。今は将棋のように数手先を読んで、危機にもしっかり目を向けて対策をとれるかどうかを問われているように感じました。冒頭で「人間万事塞翁が馬」と書きましたが、必要だと思ったことを決断して実行に移す。平時と違ってスピード感を持って決めていくことが何よりも必要と思っています。結果がどうなろうと判断して進むことを求められる緊急事態=「戦時」であると思うことが大切です。

以上