2020.06.10

1、歴史の転換点 きっかけを垣間見る 

 ~ 大恐慌後のブロック経済の形成 ~

 2020年は全世界がコロナ禍に襲われて、東京オリンピックも開催できず、多くのスポーツや文化イベントも開催できず、各国すべてで移動を制限するという今までにない事態となっています。私は今回の事態は世界史的な変化をもたらす要因になるのではないかと考えています。今後どんな変化が待っているかを歴史に学びながら見ていきたいと思いました。一つは今回のコロナ不況が同等クラスの不況ではないかと語られる大恐慌とその後、もう一つはバブル発生から崩壊に至る要因を見ながら、コロナ後について考えてみたいと思います。

 19291024日、ニューヨークのウォール街で株価が大暴落しました。「暗黒の木曜日(Black Thursday)と言われ、翌日、翌週以降も株価が下がり、世界恐慌につながるスタートとなった事件です。その当時米国は世界経済への大きな影響力を持っていたため、世界各国が不景気に見舞われることになりました。世界が不況になった時に各国が取った政策は、自分の国だけは何とか守ろうとの考えになります。経済政策で行ったのがまずは通貨の切り下げです。自国の通貨の価値を下げることで、国内産業の保護や輸出競争力の強化を図ろうとしました。

 しかし、大恐慌はそれだけの対策では浮上できません。それぞれが自国第一主義になっていく中で、「持てる国」と「持てない国」がそれぞれ独自の対策をとるようになりました。「持てる国」とは、イギリス、フランス、米国です。イギリスのマクドナルド内閣が取った政策がブロック経済です。イギリスは多くの植民地を持ち、大英帝国と言われた時代がありました。オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、香港、インドなどをブロックとして、相互の貿易を優遇し、その他を排除する政策を導入しました。それにより、失業者を抑えたり、所得を増やすことができ、国民から政策が支持されました。このブロック経済をスターリング・ブロック(ポンド・ブロックともいう)と言います。

 同様にフランスも、植民地や近隣のオランダ、ベルギー、スイスなども加えてフラン・ブロックを作りました。米国も南北アメリカ大陸の国々とドル・ブロックを作りました。その時にもともとイギリス連邦に属していたカナダは、米国のブロックに入りました。このことは経済の中心が米国に代わってきたことを物語るものでした。

 それでは「持てない国」はどうしたのでしょうか?「持てない国」の代表格は、ドイツ、イタリアと日本です。この参加国も自分たちが支配できる先はブロック化しました。ドイツはオーストラリアその後もチェコ、ポーランドにも侵攻しています。日本は台湾、朝鮮、満州をブロック化しました。そして大東亜共栄圏構想を持つようになります。イタリアは他の国も植民地となっていなかったエチオピアに侵攻し、併合してしまいました。その後もアルバニアなど近隣を併合しました。

 しかし、「持てない国」はそのような少数のブロックでは十分な資源や資材を入手できず、口実を作り次第に弱小国に侵攻するようになりました。それが第二次世界大戦へと拡大していくことになりました。持てない国の参加国は、日独伊防共協定を結び戦争へと進んでいくことになったのです。

 

2、米国双子の赤字 → プラザ合意 → 円高不況 → バブル経済の発生

 時代は1985年に急に代わりますが、日本でも急激な円高になった時期がありました。19859月先進国5か国のよる首脳会議が行われました。その当時の西側先進国は米国、イギリス、フランス、西ドイツ、日本です。ニューヨークのプラザホテルに集まった5か国の首脳は、行き過ぎたドル高を是正しようといわゆる「プラザ合意」を締結しました。合意に基づき各国はドル売りに乗り出します。当時のドルと円のレートは1ドル=240円台でした。年末には200円程度に、1987年末には1ドル120円台となり、日本経済は円高不況に陥りました。

 プラザ合意の背景は、米国が抱えていた経済問題です。双子の赤字と言って財政赤字と貿易赤字に苦しんでいました。これによって米国は保護主義の動きをし始めました。ニクソン・ショック(ドルショック)からオイルショックのような不況を恐れた各国は、自由貿易を守るためのドル安容認のプラザ合意を締結したのでした。

 日本は米国への貿易黒字で潤っていたので大打撃を受けました。円高不況と言われる状態になったため、内需主導型の経済成長を促すために、積極財政により公共投資を拡大しました。また、日銀は長期的な金融緩和をしました。その結果、景気拡大がもたらされ、後にバブル経済といわれた状況になりました。その当時、円高ですので、輸出は厳しいのですが、海外製品の輸入と海外旅行はブームになりました。製造業の海外移転が起こり始めたのもこのころです。円高ですので海外投資も有利になりました。賃金の安い国に投資をして、それを日本に輸入したほうが利益が出たからです。

 円高不況対策として、日銀が低金利政策などの金融政策を打ち出したことにより、投機的な傾向が加速し、1980年代後半は空前の財テクブームになりました。民営化されたばかりのNTT株を庶民がこぞって購入しようとしたり、生命保険会社が売り出した一時払養老保険が人気になったり、新しい財テク商品が投入されました。また、投機によって株価や地価が異常に上昇し、実体経済とかけ離れていきました。

 大企業も投機に走りました。安田火災(現在損保ホールディングス)がゴッホの「ひまわり」を58億円で落札したり、三菱地所がニューヨークのロックフェラーセンターを買収したことも報じられ、日本人が自信にあるれていた時期でした。1987年には「リゾート法」が制定されて、リゾート地で不動産販売も盛んにおこなわれました。群馬県にほど近い越後湯沢は新幹線の駅ができたこともあり、リゾートマンションが続々と建設されました。その後、大暴落したのは皆さんが知っている通りです。

3、バブル崩壊から平成不況へ

 バブル経済の中で日本人は疑いを抱かなくなりました。いつまでもこのような時代が続くと思ってしまったのです。代表的なのが「土地神話」です。これからも地価は上がり続けると誰もが思っていました。企業も本業への投資よりも、「財テク」によるハイリスクハイリターンな商品を購入したり、不動産投資に走りました。あまりにも投機的な投資のために株価、地価が高騰したため、地上げなどが横行し、政府は土地投機の抑制やじゃぶじゃぶの資金を提供していた政策から、金融引き締めをせざるを得なくなりました。

 これによって一気に逆回転が始まりました。地価がどんどん下がり始めてしまい、お金を借りて購入していた企業や人は、手放さざるを得なくなりました。一気に不動産の売却が進みましたが、買い手がつかず地価も株価も大暴落したのが、バブル崩壊を言われるものです。どのくらい暴落したかというと、株価は198938,900円に達した日経平均が、1992年には16,924円と56.5%を下落しました。地価も同様で、東京・横浜・名古屋・京都・大阪・神戸の大都市圏の地価が1990年を100とすると、平均して54.7にまで下落しました。

 これにより、投機的な財テクをする企業に融資をしていた金融機関は大量の不良債権を抱え、同時に不良債権を抱えた金融機関は貸し渋りせざるをえず、企業の設備投資は減少し、人々の所得も減り、個人消費も冷え込みました。これを「平成不況」と言われる名前がつきました。この時の新卒者は、企業が新規採用を控えたために、就職できない人をたくさん産みました。「就職氷河期」と言われるのはこの時代です。この世代以降には非正規社員が増えて、今日でも問題になっています。

 この後の日本経済は企業も個人も深刻なダメージを受けて、長期的な低迷期を迎えました。「失われた10年」と言われる長期間の低迷を余儀なくされました。バブル後半以降に生まれた世代は、賃金も上がらず、成長も実感できない世代となりました。高度成長を経験した世代とは、まったく違った考え方になるのはやむを得ないかもしれません。

4、コロナ禍中の株高は何を意味している

 5月、6月の株式市場では株価が連日上昇しています。アメリカのナスダックも日本の日経平均もコロナ前の水準に回復しています。感染の終息が見えない中、中国政府の香港政策の問題や米国の黒人暴行死を批判するデモの発生など、経済的なマイナス要因が多いにもかかわらず株高はいったい何を意味しているのか考えてみたいと思います。

 私なりに考えて、一つの要因は大規模な金融緩和によって、マネーがあふれていることです。前の章でプラザ合意後の円高不況の時に金融緩和を行い、それが不動産投資に回り、バブル経済の温床になったことを話しました。それに似たことが起こっているように思えます。

 もう一つの要因は、株に投資する人々の将来の経済に対する考え方ではないかと思います。それはいろいろな金融商品の中で結果的に株の方が安全だと考えているのではと思います。悪条件がそろっている中で、なぜ株が上昇すると考えているのでしょうか?

 今回のコロナは各国が大きな財政出動をするきっかけになりました。日本でも補正予算が発表されていますが、そんなお金がどうしてあるのかとびっくりするほどです。以前お話をしたことがありますが、これは赤字国債によって調達することになります。言い換えれば将来への借金によって賄わるということです。巨額の借金(政府債務)の返済はどうするのでしょうか?簡単に返済できる金額ではありません。

 借金返済の方法を考えると以下の方法があります。

(1)財政赤字を経済成長による黒字で埋めていく方法

(2)今後の増税や歳出のカットによる返済

(3)債務減免やデフォルトによって解決する方法

  (1)については低成長下の先進国、特に日本は人口減少社会になるため経済成長による返済は考えられません。(2)は社会保障費も年々増加していく中で消費増税のような大幅な増税には国民も耐えられないでしょう。また、歳出削減も無理だと思います。(3)については、最悪あり得ますが、外貨準備高も高い日本がデフォルトとなると国際経済にも重大な影響を与えることになり、また国の信頼性も損なうことになることから、それは避ける措置を取ることでしょう。

 (4)民間の利益を公的部門に移転させる方法

 (4)がもっともあり得る方法だと思いますが、一般的に民間の利益を強制的に公的部門に移転させるなどということは人々が許すとは思えません。でもこれは比較的簡単にできるからくりがあります。政府と中央銀行が連携して対応すればそれが可能になります。それは政府の債務を貨幣に変換することです。

 日銀に黒田総裁が就いてから、異次元の金融緩和という単語が使われるようになりました。金融機関が持っている国債を日銀が買い入れて、紙幣を発行することによって行われるのが金融緩和の方法です。この結果として市場に紙幣があふれることになり、人々がお金を使うようになり、景気を拡大するという考え方です。ただし、限度を超えると急激なインフレを招くことになります。急激なインフレが起こると民間の持っていた資金が自動的に公的部門に移転されることになるのです。

 その時の権力を持っている勢力はこのような特権を持っているのです。日本の歴史上でも徳政令は時々行われました。元寇の後で巨額の支出に苦しんだ御家人たちに出したのが「永仁の徳政令」で、御家人の借金をチャラにしましたが、それをきっかけに鎌倉幕府の信頼がなくなり、崩壊していくことになりました。

 今回の株高の理由は、急激なインフレが発生した場合は株式もそれに伴い上昇することになるので、他の資産で持つよりは結果的には株式の方が安全と考えられているのかもしれません。巨額の政府債務を帳消しするためには、インフレ政策しかないとしたら、経済について学習している投資家は、本格的なインフレが起こる前に預金や債券でなく株式などのインフレに強い金融商品への資金の移動を行っていると考えると悪環境下の株高が説明できるかもしれないと感じています。

5、今後、米国も中国もどこへ行く

 大恐慌後の世界が「持てる国」のブロック化と「持てない国」のブロック化に分かれていき、その行きついた先が第二次世界大戦になったことを伝えました。今回のコロナ禍の中で世界は米国と中国の覇権争いのような状況になっています。「世界の工場」としてグローバルサプライチェーンの中心となった中国は、以前とはくらべものにならないくらい世界経済に影響を与える国になりました。

 コロナ感染が中国から始まったのですが、他の国がコロナに苦しんでいる間に、中国の経済は既に動き始めています。最も早く通常に戻った国ともいえるでしょう。一方で米国は11月に大統領選挙を控えています。トランプ大統領は再選を意識して、都市封鎖など経済に悪影響を与える政策は取らず、楽観的な見通しを示した結果世界最大の感染者を出した国になってしまいました。

 そうはいっても米国の覇権が今後中国にとってかわられるとは思えません。それはドルが基軸通貨であること、世界のプラットフォームとして君臨しているIT企業GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)の存在があることなど、当面その地位は揺るがないとは思います。しかし、中国のハイテク技術は米国に依存しなくてもよくなっています。中国のIT企業はGAFAにならって、BATHと言われています。バイドゥー(百度Baidu)、アリババ(Alibaba)、テンセント(Tencent)、ハーウェイ(華為Huawei)です。アジアやアフリカには中国のITプラットフォームがあふれています。特に集積されたビッグデータを活用するAI技術はすざまじい進歩があります。特に第5世代移動通信システム(5G)と連動して、中国主導の情報経済圏を構築しようとの動きがあります。IT分野でも米国を追い抜くほどの勢いがあります。

 また、米国が自国第一主義の傾向を強める中で、中国は「マスク外交」と言われるような医療援助を展開しています。中国は医薬品や医療機器も戦略物資として位置づけ影響力を強めつつあります。大統領選挙を控えた民主主義国の米国が内向きになる中で、一党独裁の習近平政権は「一帯一路」政策を展開しています。香港に対する一国二制度を転換するような強権的な対応も目立つ中国ですが、コロナ後の世界において、中国の覇権が拡大しないかは気になるところです。このような危機の最中では一党独裁の方が強いのかもしれません。

 米国が自国にこもり、ヨーロッパはEUからイギリスが抜け、イタリア、スペインが財政悪化に苦しむ中、ドイツやフランスがリーダーにもなれない混沌とした状態です。政治や防衛には米国に頼り、経済や貿易は中国に依存している日本にとって、コロナ後はどんな立ち位置を求めていくか難しい選択に迫られるものと思います。日本は人口減少社会を迎える中で、自国第一主義を進めるわけにもいきません。良識を持った国と協調して信頼関係を築いていくことが、日本にとっては重要な外国戦略になってきているように思います。

 

以上