2018.8.14 

  私はベトナムで不動産仲介の仕事も業務の一部として取り扱っています。最近、レストラン開業のための不動産仲介をした経験やレストランの経営者の日本人から相談を受けたりしたことが数多くあります。レストランはベトナムでも規制の多い事業です。外資として営業許可を取得するためには、規制が多くあるために国内資本として取り扱うことが多いです。

 ノミニー(名義借り)という言葉があります。Nomineeと書きますが、日本語訳をすると指名された人という意味になります。実際には社長あるいは出資者として指名された人という意味です。ノミニーに指定されるのは、当然ベトナム人です。日本人あるいは外資として設立することが困難なため、実質のオーナーがベトナム人を指名して飲食店経営をする仕組みです。

 レストランを始めるとき最も重要なのは、不動産を借りることです。良い立地に店舗を出すことは日本でも当然最重要ですが、ベトナムでも同じです。立地の良いのは町の中心部です。ホーチミン市では1区、3区が中心部に当たります。そこでも特にレタントン通りに日本レストランは集中しています。最近は大通りの不動産が高くなってきているので、ベトナム語でヘムと呼ばれる路地裏が比較的家賃が安いために、そこで開業する飲食店も多くなってきました。

 そのような人気の地域はある特徴があります。元々その土地を持っていた人がいなくなっているのです。そして法律も変わりました。現在のベトナムは土地の所有権がありません。土地所有者が持っているのは土地の使用権です。土地は「ベトナム人民の所有」という名目の国の所有です。ベトナム戦争が終わり国が統一したときに、負けた側の南部政府高官や資本家は国を離れて外国に渡りました。以前のサイゴンに住んでいたお金持ちはいなくなってしまいました。その後を受けて、この戦争で貢献した北部出身の軍人たちに金持ちが手放した家屋の使用権を与えました。ホーチミン市中心部の土地はこのように北部出身者が多く持っています。外資の進出が盛んになり、今となってはその土地の価格が急上昇したため、その子孫は思わぬ大金を手にすることになりました。

 レストランは多くの場合、ベトナムの民家を改良して一棟丸ごと借りて使うのですが、3階から5階程度の一軒家の月賃料が50万円~100万円程度します。それらの不動産を借りて利益を出していくのは相当大変です。契約期間が5年程度ですが、大家さんは更新の時期を待って、さらに高い賃料で借りてくれる人を探し始めます。そのため更新のときに契約交渉がまとまらないこともありうるのです。日本のように借り手の権利が守られることはなく、貸し手の意向が強いのがベトナム社会の特徴です。今の条件で更新をして欲しいと借主が頼むと、「もう既に1.5倍の家賃で契約をしたい、という人がいる、1.5倍の家賃を承諾しなければ出て行ってくれ」というようなことになります。私はそのような仲介をすることもあり、このような不動産地主(実際は使用権を持った人)ばかりがいい思いをしている実態を苦々しく感じます。懸命に働く人が苦労をして、既得権を持っている人だけがその利益をピンはねできるのが一等地の不動産ビジネスモデルです。新興国では大都市部に不動産を持っている人は「濡れ手に粟」です。「働かざるもの食うべからず」と言う言葉は、社会主義的思想の考え方ですが、皮肉ですが社会主義国ベトナムのお金持ちの常識ではないようです。最近、日本でも組織に君臨する色々な人が有名になっています。それらの人たちと比較しても、ベトナムの不動産成金の人たちも日本の特殊な権力者と精神構造に似ていると感じることがあります。苦労しなくても金が湧き出る立場の人にとって、他人との共存に神経を傾ける必要はありません。近江商人のいう「三方よし」という考え方がありますが、既得権を持っている多くの人は、自分さえよければ良いという考え方に思えて仕方ありません。苦労して働かなくても自然に金は入ってくるので、人の痛みに気がつかないのです。

 カナダの有名な心理学者のロバート・ヘアの言葉が有名です。「すべてのサイコパス(精神病質者)は、刑務所にいるわけではない。一部の人は役員室にいる」と語っています。カリフォルニア大学バークレー校のケルトナー教授によると、「裕福な人ほど、他人の感情を理解する共感力が下がり、賄賂や脱税など非倫理的な行為が許されると答える確率が高かった」と言っています。人は権力の座に長期間つくことにより、人の痛みを知ったり、共感する力が低下する傾向があるという研究結果です。そうでない人も多いとは思いますが、自己中心的で相手のことも考えようとしない人は、その傾向が強いといえるでしょう。

 今回は権力についた人に関する問題をテーマにするつもりはありませんが、強い立場にいることで見失ってしまうことがあることを感じます。私はベトナムで既得権を持った人たちのことを伝えましたが、日本では逆に外国人の痛みを感じない感受性の乏しさに触れたいと思います。

 日本は豊かな先進国で、貧しい国の外国人は日本に来ることを心から喜んでいるのかとの問いです。外国人が日本に来る理由は、お金が稼げ、技術を身につけ、将来にプラスになると思うからです。日本人から見ても、外国人に来てもらうことで、さまざまな産業にもプラスになり、国際交流においてもプラスになることがあるでしょう。三方良しではありませんが、Win-Winな関係になることが重要です。

 現在日本に来ている外国人は色々な人がいます。観光客も増えているようです。でも最も象徴的なのは、中国、ベトナム、ネパールも多いようですが、技能実習生と外国人留学生です。技能実習生はとりあえず3年間の限定で、特定業種の単純労働をして、将来は自国内でその技術を活かすという名目で派遣される外国人です。業種は農業関係、漁業関係、建設関係、食品製造、繊維縫製関係、機会金属加工、印刷、溶接、自動車整備、ビルクリーニングなどと拡大し、介護分野にも今後拡大をしようとしています。外国人が学ぶ機会を得ると言うよりは、人手がない業種の労働力を外国人によって確保する日本側の逼迫した事情があります。

 一方、技能実習生に認められていないが人手が足りない業種は、外国人留学生がその労働力になっています。コンビニの店員、飲食店の店員など日本人になり手がいない労働力を留学生で確保しています。「コンビニ外国人」というタイトルの新書も出版されています。日本語学校に学びながら、週28時間の範囲でアルバイトすることは認められる制度です。きちんと守っている人も多いとは思いますが、日本語学校自体がバイトの斡旋業だったりとか、掛け持ちでバイトをし、週28時間以内は有名無実化しているケースもあるようです。

 それらの実習生や留学生は、中国、ベトナム、ネパールの貧しい地域の若者が対象者です。ベトナムでも都市部は企業の進出も多く、多少日本語が出来れば平均より高い給与がもらえます。そのため人集めには、田舎の若者が利用されます。ブローカーが入り込み、日本に行けば高い収入を得られると誇大な話をして、高額な保証金を家族から取って人集めをしているケースもあるように聞いています。

 日本の労働者不足は少子高齢化の進行もあり、ますます深刻な状態です。そのため安倍政権の「骨太の方針」として、建設、農業、介護、宿泊、造船の5業種を対象に20194月からあらたな在留資格を付与して、外国人労働者を50万人増やすための法改正が進められています。技能実習生の期間も3年から5年に延長されるはずです。

 現状でもっと日本で働きたい外国人は、技能実習生が終了する前に難民申請をして、就労を延長しようとする人もいるくらいです。外国人の間では「難民ビザ」と言うようですが、実際には存在しないビザが外国人の間では伝播しています。そのからくりはこうです。難民認定にはかなり時間がかかります。そのため申請後6ヶ月を過ぎると生活のため就労を許可する運用がされてきました。判断をされる期間が長いことを利用して就労する方法が、いわゆる「難民ビザ」です。申請する人はほぼ難民ではありません。

 皮肉ですが、外国人を労働者として迎える特別な方法を編み出すことが、アベノミクスの第三の矢「成長戦略」の成功実績になりそうな予感があります。外国人技能実習生を派遣する協同組合の事業、外国人留学生を集めるための急造日本語学校や人材派遣業者の存在など、新規事業が構築され始めています。優良な事業者がほとんどだとは思いますが、悪徳な事業者が入り込む余地はあります。日本の産業界が積極的に求めていることもあり、どちらかと言うと規制が十分されているわけではありません。犠牲になるのは何も知らない貧乏な外国の若者たちです。

 ただ、産業界の意向で外国人を便利に使い捨てるとしたら、将来に問題を残すことになるでしょう。考えられるのは次のような問題です。

1、外国人犯罪の増加

 ①経済基盤が弱く、また、家族が保証金を高額に支払っているケースは、より

  稼ぐために犯罪に手を染める者も多い。

 ②雇用するのは人材が集まらない中小企業が多い。その経営上、雇用調整され

  て行き場を失った者が増加する可能性も高い。

 ③実習生、留学生をブラックな職業、反社会勢力に誘導する集団・ブローカー

  が存在している。

2、外国人が日本を敬遠することになりそうな可能性

 ①3Kと称される「きつい」「汚い」「危険」な仕事を外国人に押し付ける

 ②本国が経済成長をする中で、低賃金、長時間労働が敬遠されるようになる。

 ③日本での実績や体験が、本国で役に立たない可能性が多い。

 ④日本に対する印象が悪化する。

 ⑤日本の経済的地位の低下から、日本企業への人気が低減(IT分野では既に起

 こっている)

3、日本の構造改革や技術革新につながらない側面

 ①低賃金労働者の存在が、合理化や経営改革の妨げになる。

 ②ブローカー的な事業が成長し、未来につながる産業の育成に目が向かない。

 ③職人的な技術が外国人にしか伝承しない

 日本だけでなく、外国人にとっても有意義であると思われる制度にしていかなければ、長くは続かないし、日本の評価自体も下げる要因になる心配があります。現実に日本の経済状況から外国人労働力がないと産業や企業の存続にマイナスの影響が出るような状況です。そのためには外国人も希望を持って日本で仕事ができる体制を作る必要があります。ベトナムの不動産事情で触れましたが、一方の人だけが、いい思いをするような状態は正しい方向とは思えません。

 外国人を便利に使って、不必要になればポイ捨てするような制度であってはならないと思います。技能実習生を5年にする場合、たとえば建設の仕事が少なくなったときの雇用調整についても考慮しているのでしょうか。中小企業は経営基盤が脆弱であり、会社が存続できないときには、外国人は行き場所を失うことも自己責任なのでしょうか。自分のためだけに利用するとしたら、利用されただけの者は怨みを持つことになるでしょう。

1、「安価な労働力」とだけ考えるのではなく、日本人を雇用するときと同様な

   待遇や条件を整備できるように検討する。

2、日本の文化を知ったり、日本語を学習できる機会を提供し、日本人と交流で

  きるようにして、日本を気に入ってもらう努力をする。

文化や風土を知ることは、相手をリスペクトする気持ちにつながります。それによって日本人が外国人も人として認めて、思いやりをもってかかわることを可能にします。外国人労働者に対して、都合の良い安価な労働力とだけ考えているとしたら、サイコパスなリーダーともいえるでしょう。目下の人の痛みに気がつかないとしたら、外国人はいずれ日本から離れていきます。日本が先進国でいられなくなったときに、その怨みを倍返しされるかもしれません。

 私もベトナムで事業をして長くなりますが、社員を見ていて能力があることを認めて、一緒に成長する気持ちで経営することが大切と思うようになりました。私と社員の人生にとって、お互いWin-Winの関係になるために努力するのです。人件費が安いからベトナムが魅力ではなく、人件費の割りに高いパフォーマンスを持っているベトナムが魅力なのです。実際にかかわるとそれほどパフォーマンスは高くないかもしれませんが、日本で働きたいと考える若者たちは、個々の動機があります。たくさん稼いで、親や家族を幸せにしたいのです。その動機こそは、国が発展するための原動力であり、日本が高度成長できた要因でもありました。

 その気持ちを理解できない日本人は、厳しい環境で虐げられながらもがんばっている外国人を差別の目で見るようになります。外国人の心の中にある親のために苦しくてもがんばろうとする気持ちに寄り添うことはありません。労働者不足の日本で、日本人が敬遠する仕事の人材をどこかから連れてくれば金になると思う人がたくさんいます。それはそれで必要な部分もありますが、相手を理解しようとするかが大事です。

 相手を配慮しない考え方は、その若者たちの背後に支援をしているたくさんの親族たちをも敵に回します。ベトナムでも他の国ではそうですが、苦労しないで得るお金は、もっと増やしたいとの病的な欲求を形成します。外国人労働者の斡旋が金になるとだけ考えている人は、ベトナムの不動産成金と同じ精神構造と思います。「働かざるもの食うべからず」は、ある程度正しい考え方ですが、働くことの還元を誠実に対応して欲しいと思います。外国人の心のうちや痛みを知ることが、変化していく国際情勢の中で日本を救う一つの方向性になるかもしれません。お互いに困ったときには助け合うという感覚で外国人を活用することが、将来に生きてくると思います。

以上