先日の5月初旬に、在ホーチミン日本領事館から次のような注意喚起が送られてきました。「当地の報道等によれば、ホーチミン市を含む越南部地域では「紫外線指数」が10~12の危険レベルまで高まっており、それが今週末まで続くとされています。本年は、例年よりも乾期が長引いているため紫外線が強まっているとされていますが、専門家は、10時から16時までの間はできるだけ外出を避け、外出する場合には、帽子をかぶったり、長袖を着たりして紫外線から身を守ることを推奨しています。在留邦人の皆様方におかれましても、紫外線による健康被害の予防にお気を付け下さい。」

そこで気になったので、紫外線の健康被害について簡単に調べてみました。紫外線による健康被害とは、皮膚がん、白内障、紫外線アレルギー、免疫力の低下などと書いてありました。特に皮膚がんには気をつけないといけないですね。皮膚がんのメカニズムとは、次のように書いてありました。紫外線を大量に浴びる→細胞の遺伝子に傷がつく→修復される間もなく紫外線を浴び続ける→遺伝子が傷ついた状態で伝達される→誤った遺伝子情報のまま細胞分裂を繰り返す→突然変異となってしまった遺伝子が皮膚がんになる。皮膚がんに限らないと思いますが、くり返し特殊な状況に置かれた遺伝子が、突然変異してがん化する可能性があることは気をつけないといけないですね。

そもそもこのような紫外線への注意喚起がなされたのは、本来であれば5月に入る頃には雨季になるのですが、今年はやや遅れているからです。日中、太陽に照らされ続けること、この時期の太陽光の角度が影響しているのです。ここのところ現地では35度から40度程度に最高気温が上昇することもあります。そんな影響なのか否か、ベトナム南部の穀倉地帯では「100年に1度」とされる干ばつが発生しています。メコン河の水量が足りないために海水が逆流して塩害にも見舞われ、稲作などに深刻な被害が出ています。堅調だった経済成長にも影を落としているようです。

ベトナム農業農村開発省によると、昨年来のエルニーニョ現象で雨が少なく、3月のメコン川の水位は1926年以来の低い水準のようです。上流域で中国などが建設したダムの影響も指摘されています。近年は地球温暖化による海水面の上昇と海岸浸食が進み、乾季のたびに、水位の下がったメコン川に海水が流れ込んで一帯に塩害をもたらしているのだそうです。南部の村では3月に収穫を迎えるはずの水田がほぼ全滅し、借地代などを抱えた農民は、数十万円規模の借金を抱えたまま無収入になるような事態も起こっています。水不足で食事や洗濯に使う生活用水の価格は20倍に高騰しているとの事です。自宅で食べるコメもない、牛に与えるワラも塩水が浸透して使えない状態で、農村部にはこの干ばつが深刻な被害を与えているようです。

チャイナプラスワンの影響で、外国資本の進出が盛んなベトナム経済は堅調なものの最も生活に必要な水が不足することは生活に大きな影響をもたらします。世界のどこでも経済成長を実現しようと努力しますが、自然環境による影響が人間社会を蝕み始めている事態にはもっと関心を持ってもいいかもしれません。ベトナム南部の大都市であるホーチミン市は、現在は水不足の影響をほとんど感じませんが、水力発電の不足により停電の頻発や飲料水の販売が減少するようになったら、かなりパニックになるのではと危惧しています。

ところで世界全体では、以前に比べ自然災害が増えています。それは人類による環境破壊に起因していると思われます。環境破壊とは無関係ですが、災害といえば「熊本地震」が発生して多くの方が亡くなり、地域経済に重大な影響を与えています。今まで九州は地震が少ないと思われていたことから、熊本などには自動車産業が集積していました。今回の地震により、その経済的な影響も大きいだろうと思います。また、改めて日本は地震大国であることを実感しました。この熊本の地震についてはベトナム人にもよく知られています。

そのことにも触発されて、また紫外線注意の喚起を受けたことも手伝って、自然と経済の関係性を調べてみたところ、最近「自然災害の経済学」という分野があるということを知りました。そのような分野ができることそのものが、災害が増えていることの証明になっているように思います。

そこで言われている事を伝えましょう。「ある種の災害によって、GDP(国内総生産)を伸ばすことがあるといいます。災害の発生が、テクノロジーやインフラのアップグレードを強制し、従来の経済活動のあり方に批判的な検討がされるようになり、その結果生産性が向上する」との説です。経済成長に長期的な大きな影響を与えるのは、非常に大規模な自然災害の後で極端な政治の変動がおき、経済システムや財産権制度が変わったりすることで、経済成長のための創造的破壊が起こるというのです。実例としては自然災害ではありませんが、日本の第二次世界大戦後などはそれに当たると思います。今までの価値観が大変化を遂げた中で、今までのシステムとは違うもっと近代的なシステムが一気に広がっていきました。すべて失ったからこそ再生できた要素もあると思います。

それと同時に「災害の経済学」は、人との関係性についても触れています。自然災害という一個人にとっては、余りにも大きすぎる事象に対して、周辺・地域の住民らとともに協力、協調しあうことでしか乗り越えられないため「他人への信頼」が高まり、経済活動にプラスの要因となるというのです。それは信頼度が低い経済では、経済取引コストが高くなり、経済発展が停滞するというのです。自然災害を契機として、人と人との結びつきが強まることで経済の関係性も良好になり、経済発展を容易にするというのです。

ただ自然災害がすべて経済成長に繋がるわけではなく2010年に発生したカリブ海の小国ハイチで起こった地震などは、30万人もの死者を出した地震ですが、いまだ経済は停滞しています。それは疫病の発生、住宅問題、治安の不安定、略奪などに明け暮れ創造的な破壊が起こらなかったこと、人と人との信頼関係が築かれなかったことが要因といわれています。私なりに考えると、簡単にいえば復興できるためには、最低の財源は必要ということになるのでしょう。財源なしには何もプラスは生まれませんというのは、私のような貧乏人には厳しい教訓です。

災害の経済学では、このように災害が必ずしもマイナスばかりでないことをいっていますが、経済学は個々の人間の感情には言及しないクールな学問ですね。災害後の意識の中で犠牲者への鎮魂の気持ちを忘れた場合は、地域や人間関係が廃れるきっかけになるように思います。お金の動きだけに着目すると、自然災害の経済学では仮に災害が経済成長をもたらすことがあるといっていますが、瓦礫から成長のチャンスを生かせるのは大企業や資産家だけに限られ、被災者には恩恵が届かない矛盾に満ちたものになる可能性もあります。復興支援には、経済の効率化だけではなく、公平性の面も重要かと思います。人との信頼性が高まることは、今後の財産になっていくと思います。

自然災害からの復興は、活力を失わなければ新しいシステムを創造できたり、人との信頼関係を築くことがプラスの要因に変わることもあることを伝えています。その逆に人との信頼関係が壊れ始めることで、それが別のエネルギーを生むかもしれないと思うお話をします。それは、最近話題になっている「パナマ文書」問題です。

先月の放送で日本の経済が好転できない要因として、日本の中間層が貧困化していることを伝えました。貧困化する中間層とは、会社の都合や自然災害など、多くは不運といえる事情において中間層ではいられなくなった人たちです。もし仮に自然災害などの復興支援が、被災者の経済再建に繋がらず、貧困層になるだけで、資本を蓄積できるのが復興財源に群がることができた一部の人ということになれば逆に信頼関係を失っていくでしょう。一部の資産家がその政策に乗って蓄財し、その蓄積した資金が個人の利益だけのために、端的に言えば、脱税のために利用されたとなると多くの人の怒りが増すでしょう。その要因になりうるのが「パナマ文書」であると感じます。

余談ですが「パナマ文書」という言葉をベトナム人は良く知っています。先日、ベトナム人スタッフが、私の名前がパナマ文書に出ていると冗談を言いました。

気軽にそんな冗談が出るほどベトナム人の間では、関心が高いのです。当然、ベトナムの企業や個人もそこに名前があり、ある種の感情がベトナム人にも芽生えているのだと思います。もしかしたら日本人より関心が高いかもしれないとちょっと驚きました。

「パナマ文書 (Panama Papers)」とは、パナマの法律事務所でタックス・ヘイブンに関する取引を扱う「Mossack Fonseca(モサック・フォンセカ)」の過去40年にわたる業務内容に関するデータを記録したもので、ICIJ(International Consortium of Investigative Journalists:国際調査報道ジャーナリスト連合)がドイツの新聞「Süddeutsche Zeitung (南ドイツ新聞)」を通じて入手したものです。

ここで注意していただきたいのは、タックスヘイブン(租税回避地)を利用する行為といっても、すべてが違法と言うわけではありません。ヘッジファンドなどは大抵タックスヘイブンに本社があります。タックスヘイブンの利用の仕方は、どの国の人が何を目的に行ったのかによって意味は異なってきます。例えば中国は、資本の自由化を進めている最中とはいえ、政治体制としてはいまだに共産国家であり、厳密な意味では個人が資産を保有し、それを自由に移動したり処分することは禁じら れています。ロシアも同様に外貨に対する厳しい規制があり、やはり自由な経済活動が制限されている国です。このような国の指導者が、海外に大規模な資産を 隠し持っていたということになると、大問題に発展する可能性を秘めていることになります。どことは限りませんが、権力が固定化している体制は、権力を持ったものが冨や権利を独占し、その一方で何ももてない人たちが必然的に発生しています。権力者の不正行為に対する民衆の感情については、ここでは深く触れませんが想像がつくことです。

タックスヘイブンは国際的な金融取引や不動産取引の中継地点として使われるケースも多くあります。この場合にはごく当たり前のビジネス活動に過ぎません。その収益の終着点である日本国内(あるいはそれぞれの国)で納税していることがほとんどであり、適切に税務処理をしているのであれば特に問題になるような話 ではありません。個人の資産に関しては、タックスヘイブンが利用されるケースとして多いのは相続税の回避です。巨額の資産を保有する資産家の子息が資産を相続すると莫大な相続税が発 生します。もし家族丸ごと海外に移住し、その場所に居住し続けるのであれば、タックスヘイブンを利用して相続税を回避するということは理論上可能です。こうした行為については心情的には反発する人がいるかもしれませんが、日本の法律では認めていることですから、法的には何の問題もないというのが現実で す。
日本に住んでいながら資産だけを海外に逃がして実質的に相続しているケースもあり、これを意図的に行っていた場合には脱税です。 海外への資産移転については、銀行の送金記録などから、当局はほぼすべての取引を把握することが可能です。また、生活実態が本当に海外にあるのか国税庁に よる厳しい調査が行われますから、実現するのはたやすいことではありません。ルールに則って申告したのかが問題であって、タックスヘイブンの活用そのものだけを問題とするのは正しくありません。

ただ、パナマ文書問題が示唆するのは、貧富の格差が拡大する中で、本来支払われるはずだった税金が納められていないために、税収が少なくなっているという現実であり、その減収を補うために、本来は必要なかったかもしれない増税が行われていることの矛盾です。そうした行動をより資産を持っているものがしている事実です。巨額のマネーを持っている人々は、取引の不明瞭さを悪用して、不正な資金の移動やマネーロ ンダリング、不正蓄財などに使われているのではとの疑いを一層与えることになっています。

最後に私の思った事を伝えます。この自然災害の経済学の立場では、災害がマイナスになるとは限らないと言っていますが、その前提となるのは、そこに住む人たちの精神のあり方の要素が強いと思います。地震や災害で被害があった人や犠牲になった人に対する責任の意識と被害を受けた人たちへの支援をしようという役割意識を持てるかです。

一方、パナマ文書の問題は、その国などの重要人物が、社会のことより、個人の資産を何とかして守ろうとしていることを現しています。社会の人に共感を与える思想でないことは明らかです。違法ではないとしても、指導者としての尊敬を失墜させる行為です。個人の損得に走り、秩序が維持できなくなったときに変化が生まれます。皆が中流だと思っていた時期はのどかであった感情も、一層の中間層の貧困化は、人の感情を過激にするでしょう。何かの出来事をきっかけに創造的破壊が起こる可能性もあるのではと感じます。

以上